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1、はじめに
労働衛生の分野では、内分泌かく乱化学物質問題はまったくと言っていいほど話題になっていないことを、第1報、第2報に書いた。その状態は現在も変わっていない。しかし、ビスフェノールA
(BPA)を直接取り扱っている作業者は、一般の人よりも多量のBPAを摂取しているだろうから、これらの作業員の健康について考えることも重要である。
最近ビスフェノールAの許容濃度に関する文献を2つ入手した。一つは
MAK(ドイツの許容濃度)に定められたBPAの許容濃度についての設定根拠1)
で、他はOECDが行っている高生産量化学物質の安全性評価のBPAに関する報告書2)
である。これらを参考にしてBPA
の作業環境での許容濃度について考察した。また、過剰の女性ホルモン様作用を受けた場合にどういう症状が現れるか知るために、合成女性ホルモン錠剤の製造所の作業者に発生した症例を調査したので紹介する。
2、粉塵の許容濃度
最初に粉塵の許容濃度を取り上げたのは2つの理由がある。一つは、ビスフェノールAは粉塵として曝露されるので、
これを吸入した場合、呼吸器官のどの部位に沈着し、どのように除去されるかを理解しておく必要があること。もう一つは、通常の粉塵の場合は、化学的な毒性よりも粉塵としての物理的な毒性の方が問題となるからである。
2.1 粉塵の許容濃度と蒸気の許容濃度
粉塵の許容濃度の単位はmg/m3
である。一方、蒸気の場合はppmを使うことが多い。いくつかの物質の許容濃度を両方の単位で表示すると表―1のとおりとなる。
ACGIH(米国産業衛生専門家会議)ではPNOC(他に分類されていない不溶性粒子)に対する許容濃度を総粉塵として
10mg/m3、吸入性粉塵として3mg/m3と設定している。この許容濃度をppm
単位で表示すると(分子量を100として)それぞれ2.4ppm、0.7ppmになる。
ヒトに発がん性であるベンゼンの許容濃度が0.5ppmで、動物試験で催奇形性が認められる2-メトキシエタノールの許容濃度が5ppmである。
したがって、不溶性粉塵は、第一級の毒性物質と同程度の管理が必要となる。大部分の粉塵は、不溶性粉塵としての許容濃度を守っておれば、化学的な毒性についても自動的に防御できることになる。
ビスフェノールA(BPA)が蒸気であれば許容濃度は10〜20ppmであろうと私は推定する。なぜならば、
BPAの毒性は普通の強さであるし特別の毒性はない。有機溶剤なら
20〜50ppmの許容濃度というイメージの化学物質である。ただし、通常の有機溶剤に比べて分子量が約2倍なので20〜50ppmの半分として
10〜20ppmとなる。したがって、BPA については化学的な毒性よりも、粉塵としての物理的な毒性の方が注意を要するように思える。
表―1 許容濃度の比較(ACGIHによる)3)
ppmとmg/m3の換算は次式による。 ppm = mg/m3 x 24.45 ÷ 分子量
PNOC は Particulates Not Otherwise Classified の略
*1 分子量を100とした場合の値
*2 蒸気とした場合の私の推定による許容濃度(本文参照)
2.2 粉塵についての基礎知識4,5,6)
2.2.1 粒子径と沈着場所
粒子径の大きな粒子は鼻腔や口腔に衝突して沈着する。粒子径の中程度の粒子は沈殿作用によって気管や気管支に沈着する。粒子径の小さい粒子は肺胞まで侵入し、主として拡散によって沈着する。吸入した粒子がすべて沈着するわけでなく、沈着しなかった粒子は呼気と共に排出される。沈着する比率は、空気力学的粒子径
0.1〜1.0μmで最も低く 20〜30%で、5μmでは約90%である。
粒子径と沈着場所との関係を表―2のように示す文献もある7,8)。
鼻や口から吸入する粉塵をinhalable dust、肺まで吸入する粉塵をrespirable dustという。
本稿では前者を総粉塵、後者を吸入性粉塵と訳している。
表―2 粒子直径と沈着部位

2.2.2 沈着した粒子の除去
呼吸器官の表面に沈着した粒子は、やがて除去される。除去メカニズムは沈着部位によって異なる。鼻腔や口腔に沈着した粒子は、鼻汁や唾液と共に体外に排泄されたり、飲み込まれて消化器官に移行する。除去は2〜3時間以内に完全に行われる。気管や気管支に沈着した粒子は、気管や気管支の表面にある繊毛によるエスカレーター作用によって口腔まで上がってくる。そして痰として排泄されるか、飲み込まれて消化器官に移行する。粒子径の小さなものほど除去されるのに時間がかかる。除去には、径の大きなものは1日以内、小さなものは数週間かかる。
肺胞には繊毛による除去システムがないので、肺まで吸入した粒子の除去には時間がかかる。溶解する成分は吸収される。そして、接触した細胞に作用するか、全身循環血に入り全身作用をすることになる。肺に沈着した溶解しない成分の除去には数ヶ月から年単位の時間がかかる。溶解しない成分は肺胞マクロファージ(大食細胞)というアメーバのように動きまわる細胞に捕らえられる。肺胞マクロファージの多くは、最後には繊毛エスカレーターで運ばれるが、繊毛のある気管支部までどのようにして到達するかは明らかになっていない。
2.2.3 じん肺
肺胞マクロファージの細胞内には蛋白質を分解する酵素があって、取り込んだ細菌やウィルスを消化、無毒化する。しかし、分解できない粒子や毒性のある粒子を取り込むと、
マクロファージが刺激を受けたり破壊されたりする。そうすると、蛋白質を分解する酵素が細胞内から出て、肺胞を構成している細胞を分解するように働く。傷ついた肺胞を修復した後に固い
瘢痕化が起こり、肺胞が伸縮できない状態となる。これを線維化といい、肺全体の疾患としてとらえるとじん肺という。じん肺の生じるメカニズムは難しいので詳しくは文献6)
を参照願いたい。
2.3 粉塵の許容濃度
日本産業衛生学会9)、ACGIH7)、ドイツMAK8)の粉塵の許容濃度は表―3
のとおりである。産業衛生学会では第3種粉塵(その他の有機性粉塵)、
ACGIHではPNOC(他に分類されない不溶性粒子) で、MAKでは一般粉塵の値を示している。
表―3 一般粉塵の許容濃度

いずれの許容濃度も、不溶性粒子であり、遺伝子毒性、発がん性、線維形成性、感作性や他の毒性がない粒子で、許容濃度がまだ決まっていないものを対象としている。
また、肺マクロファージによる粉塵の除去能力を損なわないようにという観点から設定している。過剰な粉塵負荷がかかると肺マクロファージは十分作用しなくなり、肺から粉塵を除去する時間が増加する。そして、粉塵が肺胞の境にある間質に入り込むようになる。このことも線維症が生成する原因になると推定されている。
また、ACGIHでは総粉塵の10mg/m3は刺激作用を防ぐために設定している。
3、MAKによる許容濃度の設定根拠
MAKではBPAの許容濃度を次のとおり設定している。
1996年に設定されたもので、内分泌かく乱が大きな問題になる前である。しかし、労働衛生の分野では内分泌かく乱は問題視されていないので、現在でも数値も設定根拠も変更する必要はないはずである。
3.1 許容濃度
- 許容濃度(8時間TWA): 総粉塵として 5mg/m3
- 短時間(5分間)限界濃度:総粉塵として10mg/m3
- 感作性 : SP(光感作性がある)
- 生殖毒性: 妊娠時のリスクC(許容濃度以下では胎児に悪影響なし)
3.2 主たる設定根拠
ラットを用いた吸入試験で、10mg/m3がNOAEL(最大無作用濃度)であった。
また、5mg/m3で長期間曝露されてヒトの健康に悪い影響があったという証拠はない。
それゆえ許容濃度を総粉塵として5mg/m3とする。また、短時間(5分間)限界濃度を10mg/m3とする。
光感作性がヒトでも動物でも認められる。したがって、SPに分類する。
3.3 毒性試験結果の要旨及び解釈
3.3.1 吸入試験
ラットを用いた13週間の吸入試験でのNOAELは10mg/m3
である。試験に使用した粒子は、大部分は肺まで吸入される粒径のものである。LOAEL
(最小中毒濃度)は50mg/m3
で、鼻腔粘膜に炎症を起こした。この症状は可逆性で、曝露を停止すると回復する。
3.3.2 発がん性、変異原性
ラットとマウスを用いた発がん性試験で発がん性は認められなかった。In vitro, in vivoでの遺伝子毒性作用は認められていない。
3.3.3 慢性毒性
ラットを用いた2年間の経口投与試験で臓器毒性は認められなかった。しかし、餌摂取量の低下と体重増加量の低下が認められた。
このときの餌中のBPA濃度は1000ppm(74mg/kg/日)であった。
体重70kgの人が、BPA濃度が5mg/m3の空気を8時間(1日の勤務時間)で10m3
吸入すると仮定すると、BPA を50mg/日、体重当たりでは0.7mg/kg/日摂取することになる。
動物試験のLOAELである74mg/kg/ 日に対しては103倍の余裕があることになる。
3.3.4 生殖毒性
ラットやマウスの試験結果では、母体に毒性を示す用量より低い用量では繁殖性や胎仔毒性は認められない。
2世代生殖毒性試験での生殖毒性のNOAELは440mg/kg/日である。発生毒性試験では、マウスで1000mg/kg/
日、ラットで640mg/kg/ 日の用量でも胎仔毒性や催奇形性は認められない。
5mg/m3のBPAを8時間で10m3
吸入すると0.7mg/kg/ 日のBPAを摂取することになる。この0.7mg/kg/
日と動物試験でのNOAEL には大きな差があるので、BPAは妊娠時のリスクCに分類する。
440mg/kg/日で精巣上体の重量が低下している。しかし、その用量では肝臓や腎臓で毒性影響が出ている。
精巣上体の重量低下は2次的な影響によるものでBPAの生殖毒性によるものではないと(MAKは)考えた。
3.3.5 女性ホルモン様作用
BPAには弱い女性ホルモン様作用がある。しかし、生殖毒性試験の結果では女性ホルモン様作用による毒性は認められない。
ヒトで女性ホルモン様作用が見られたという情報もない。
4、OECDの安全性評価
OECDが行っている高生産量化学物質の安全性評価の一環として、BPAが2000年2月の会議で審議された。
この報告書では許容濃度を定めているわけではない。ビスフェノールAの曝露濃度は高くとも8時間
TWAで5mg/m3と推定し、それで労働衛生上問題ないか検討している。このことから、5mg/m3が許容濃度として
妥当と受け取れる。
4.1 呼吸器官への影響
BPAを繰り返し吸入した場合の主たる影響は鼻腔での軽度の刺激作用である。
ラットを用いた13週間の吸入試験では、NOAEL は10mg/m3、LOAELは50mg/m3である。50mg/m3
で鼻腔に対して軽度の刺激作用がある。150mg/m3でもその作用は少ししか強くならない。また、吸入期間を2週間から13週間に
延長しても影響の差はわずかであった。作業者が曝露される濃度である5mg/m3は、NOAELに対して余裕度は2しかないが
十分であろう。(注:ラットの呼吸量は体重当たりではヒトの5倍である。濃度の余裕度が2なら体重当たり摂取量での余裕度は10になる。)
4.2 肝臓と生殖への毒性
4.2.1 毒性試験結果
マウスを用いた2年間の経口投与試験で雄に多核巨大肝細胞が観察された。発生率は1/49(対照群)、41/49 (120mg/kg/日)、
41/50(600mg/kg/日)であった。LOAEL は120mg/kg/日で、多核巨大肝細胞以外には異常は認められなかった。NOAELは求まっていない。
生殖毒性に関する明確なNOAELは求まっていない。
マウスを用いた連続繁殖性試験では精巣上体の重量が低下している。その程度は11%(300mg/kg/日),16%(600mg/kg/ 日), 18%(1200mg/kg/日)
である。この用量反応関係から判断して、LOAELの300mg/kg/ 日はNOAELに近い。繁殖性への影響が見られるのは600mg/kg/日以上である。
多核巨大肝細胞や精巣上体の重量低下が生じるメカニズム、また、ヒトではどう影響があるかは不明である。
4.2.2 余裕度の検討
BPA濃度が5mg/m3の空気を8時間吸入した場合のBPAの摂取量は0.71mg/kg/ 日である。この場合の余裕度は表―4のとおりとなる。
表―4 余裕度

肝臓毒性のLOAELにおける多核巨大肝細胞の発生率が高く、NOAELはLOAELよりかなり低いと予想される。
したがって余裕度169では多少の懸念が残る。生殖毒性のNOAELは求まっていないが、LOAEL での症状は精巣上体の軽度の
重量低下であるので、NOAELはLOAELに近い。また、LOAEL の用量では繁殖毒性はみられない。したがって、生殖毒性に対する
余裕度は十分である。
ただし、皮膚からの吸収しやすさによっては吸入量よりも皮膚吸収量の方が多くなる。経皮吸収量の推定精度を上げる
必要があると勧告している。この点についてはBPAメーカーが、OECDの担当国である英国政府と相談しつつ検討中である。
4.3 低用量効果についての解釈
低用量効果については次の理由で安全性評価のベースには採用していない。
| イ) | 低用量効果があるというフォン・サールの試験には、一群の動物数が少ない、
処置開始時の仔の体重を対照群と合わせていないという欠点がある。 |
| ロ) | 動物数を増やした信頼度の高い試験では、低用量での影響は認められない。 |
5、私の補足説明
ラットを用いた吸入試験でNOELは10mg/m3だが、50mg/m3や150mg/m3
でも肺に対する明らかな毒性は認められていない。BPA
の肺への影響は弱そうである。BPAの水への溶解度は120 〜300mg/Lなので、肺内で溶けてしまうのだろうか。
鼻や口から吸入した粉塵は、溶解性でない限り、気管支に沈着したものも、肺に沈着したものも、大部分はいずれ飲み込んで消化管に移行することになる。口から摂取した場合は肝臓で代謝されてから全身循環血に入る。しかし、肺で溶けて吸収された場合は、肝臓で代謝される前に全身循環血に入る。したがって、女性ホルモン様作用のように肝臓で代謝されると作用が弱くなる場合は肺から吸収された方が毒性は出やすい。一方、肝臓が標的臓器の場合は経口でも吸入でも同じ毒性になる。吸入の場合には毒性が強く出るという点に
MAKもOECDも触れていない。これは肺まで到達する吸入性粉塵は総粉塵の一部であること、吸入性粉塵のかなりの部分が呼気として排出されること、生殖毒性については十分な余裕度があることを考慮したものと想像する。
動物試験結果から推定する際の安全係数は、一般消費者対象の場合は、試験動物とヒトとの動物種差に10、ヒトの個人差に10、合計100
である。しかし、労働者対象の場合は健康な大人のみが対象ということで動物種差の
10しか取らない。また、NOAELでなくLOAELをベースに考える場合にはさらに安全係数、例えば10をとるので合計100となる。
許容濃度はヒトでの経験または吸入の動物試験結果をベースに決められることが多い。経口の動物試験での
LOAELに安全係数100を取る方法では、従来の許容濃度に比べて厳しくなる傾向がある。従来の許容濃度は余裕がなさ過ぎるともいえるし、
LOAELの1/100では安全を取りすぎるという見方も出来る。
6、合成女性ホルモンに曝露された事例
過剰の女性ホルモン様作用を受けた場合にどういう症状がでるかの参考とするため、合成女性ホルモン錠剤の製造に従事していた作業員に発生した症例を2例紹介しておく。1例はポーランド、他はプエルトリコで発生した女性ホルモン過剰症である。男性では乳房の肥大、女性では月経不順が代表的な症状である。
6.1 ポーランドの事例10)
6.1.1 調査対象
1966年に、ジエチルスチルベストロール(DES)を製造する薬品工場で働いていた作業員(女子9人、男子1人)とその子供7人について行った調査である。
9人の女性のうち6人は、生殖年齢(25〜42才)で、長期間(6〜18年)この作業場で働いていた。このうち4人は妊娠期間中
ずっと作業に従事し、6人の子供を産んでいる。もう一人の子供は4才の時に養女になって来ている。男性は32才でこの作業に
2年間従事している。
6.1.2 症状
生殖年齢にある女性全員が月経不順、月経時の出血の多さ、乳房の痛みと膨らみ、足首の浮腫、吐き気、腹部の膨張感を訴えた。
子供7人については次のとおりである。新生児期に乳房の膨らみが見られたが、数週間後に膨らみは消えた。その後、5〜12才で、乳首の着色と乳房の肥大に母親は気が付いている。6人の子供(男子4人、女子2人)に乳房の肥大、突き出た乳首、広くて黒い乳輪が見られた。このうち5人は骨格が普通より2〜4年早く成長し、1人は少し早く発達していた。4才の時に養女になった少女は現在13才であるが、10才の時に生理が始まっている。1人だけは女性ホルモン過剰症が軽微であった。この子の母親には女性ホルモン過剰症は生じていない。
男性は、検査の数週間前から痛みを伴う乳房の肥大と硬化に気が付いていた。
6.1.3 考察
合成ホルモンを扱う作業場としては、設備対策や衛生管理が不十分であった。すなわち、シャワーや洗濯場がなかった。作業場で食事し、食べ物、特に蓋のない瓶にミルクを入れて置いていた。そのため、
DESが付着した衣類や食料を家に持ち帰ることになった。この調査後、作業条件を改善し衛生管理を徹底させた。その結果、子供全員と男性には女性ホルモン過剰症はなくなった。女性でも症状は顕著に軽くなった。
子供に女性ホルモン過剰症が見られた原因として、胎児期に曝露された影響と母親の衣類などに付着して家まで来てしまった
DESによる影響の2つが考えられる。しかし、4才の時に養女になった子供にも同じ影響がでていること、及び、作業場の環境や衛生管理を改善した後は女性ホルモン過剰症が消失したことから後者が原因であったと推定される。
6.2 プエルトリコの事例11,12)
6.2.1 調査対象
プエルトリコにある経口避妊薬を配合・製造する工場で1976年に調査した事例である。この工場は1974年から操業を始めている。
2直制で作業者は55人である。作業工程は次のとおりである。合成女性ホルモンであるメストラノール(体内で代謝されてエチニルエストラジオールになる)を受け入れ、他の成分と混合し、乾燥し、顆粒状に成型した後、圧力を加えて錠剤とし、包装する。
局所排気装置などの工学的対策も保護具着用やシャワーなどの衛生対策も通常以上のことを実施していた。メストラノールの個人曝露
濃度はND〜8.61μg/m3 で、平均では1.94μg/m3であった。
6.2.2 症状
男性25人中5人に乳房肥大が観察された。男性の方が影響を受けやすいようだ。5人はいずれも粉体を扱う作業に従事していた。5人の肝機能は正常であった。性欲減退、乳輪着色を伴う人もいた。
女子30人中の12人に月経の間にも出血が認められた。この比率は対照群の4倍である。
7、おわりに
内分泌かく乱化学物質ではないかと疑われている物質は蒸気圧が低いので高濃度に曝露されるおそれは少ない。
しかし、ビスフェノールAは粉体なので袋への充填作業時や袋から反応器への投入時には高濃度に曝露されるおそれがある。
このことと参考文献が多いことから、本稿ではビスフェノールAを中心として許容濃度を検討した。
ビスフェノールAは40年以上前から製造・使用されてきたが、作業者に障害が生じたとして報告されているのは数例で非常に少ない。
高濃度の粉塵による眼や鼻、喉への刺激作用と、皮膚に対する光感作作用だけである。生殖毒性や肝臓毒性など全身性の障害は報告
されていない1,2)。このことは我々に安心感を与えるものである。
MAKの設定理由もOECD の報告書の内容も妥当と思う。また、産業衛生学会やACGIHの粉塵としての許容濃度を採用しても差し支えないとも考える。どの許容濃度も類似の値だし、どれを採用してもいいように思う。私はこれまで日本産業衛生学会の第3種粉塵として取り扱うように薦めてきたが
13)、それを変える必要もないと思う。
ただし、許容濃度というのはこの値以下であれば、ほとんどすべての作業者に健康上の悪い影響が見られないと判断される濃度であって、この値以下なら絶対安全という値ではない。したがって、余裕をみて作業場の管理をすることが望ましい。
なお、本稿は私個人の見解を述べたもので、特定の団体の意見を述べたものではないことをお断りしておく。
引用文献
1)DFG Occupational Toxicants Vol.13 p49-87(1999)
2)OECD, SIDS Initial Assessment Report on Bisphenol A (2000)
3)ACGIH,TLV for Chemical Substances (1999)
4)福田英臣ら監訳、トキシコロジーp346-363 同文書院 (1988)
5)中央労働災害防止協会、粉じんによる疾病の防止 p12-21(1979)
6)日本石綿協会、せきめん読本p81-96 (1996)
7)ACGIH, Documentation of TLV Supplement Particulates (1996)
8)DFG Occupational Toxicants Vol.12 p239-270(1999)
9)日本産業衛生学会、許容濃度提案理由書集 p210-216(1981)
10)J. Robaczyiski, Polish Endocrinology 22(2),125-129(1971)
11)J. M. Harrington,et al., Am. Ind. Hyg.Assoc. J.39,139-143(1978)
12)J. M. Harrington,et al., Arch. of Environ. Health 33,12-15(1978)
13)
西川洋三、アロマティックス
50(3/4),110-126(1998)
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