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6、PCB等による汚染状況
測定値の豊富な五大湖、バルト海、日本のPCB、DDT、ダイオキシン類による汚染状況をまとめた。経年的な変化を見るためと他地域との比較をするため である。しかし、汚染状況を他地域と比較するのは難しい。例えば、魚中のPCB濃度は日本では可食部当たり、米国では魚体全体当たり、スウェーデンでは脂肪当たりで表示することが多く、そのままでは比較できないからである。
また、魚種によって濃縮度、脂肪含有率が異なるからだ。一般的に言って、可食部当たりでは体全体当たりの1/2の濃度になる。脂肪分は体全体の1〜10%であること を知っておくと比較するときの助けになる。
6.1 日本の状況
PCB、DDT、ダイオキシン類について、河川水中濃度(表2)、魚中濃度(表3,4,5,6)、日本人の摂取量(表7,8)、母乳中濃度(表9)の推移を示す。
6.1.1 表層水、底質中濃度
淀川水系の河口域での表層水と底質中のPCB濃度の推移を表2に示す31)。
次のとおり考察されている。底質中PCB濃度の低下は表層が濃度の低い汚泥粒子で覆われたためであり、堆積総量全体の減少ではない。表層水と底質中のP CB濃度に密接な関係があることは、PCBが懸濁粒子の沈降に伴って水中から底質に移行していることを示す。
6.1.2 魚中濃度
環境庁モニタリング結果では、東京湾、大阪湾、瀬戸内海の魚(スズキ)中のPCB,DDT濃度の推移を表3に示す32,33)。最近20年近くの間で約1/4に 低下している。可食部の濃度である。スズキはPCB等を最も高濃度に濃縮する魚の一つである。それゆえ、指標生物に使われる。
なお、外海に面した地点での濃度は、一部を除いて表3の約1/10、又は検出限界以下となっている。
市販魚を対象とした分析結果が2つ報告されている。いずれも環境庁の測定しているスズキの値に比べて低い値である。アジ、サバ、イシモチ、コノシロ、タ チウオ、カレイの6種類の魚のPCB濃度は表4のとおりである34)。
また、1976年から1994年までの19年間の市販魚介類(アジ、イワシ、カレイ)の可食部中の残留PCB、DDT濃度を表5に示す35)。単位はppmである。
ダイオキシン類についての測定結果を表6に2つ紹介しておく。環境庁のモニタリング結果から海域(内海内湾)の魚中のダイオキシン類濃度の21検体の中央 値を示す。1989年度からほぼ同レベルで推移していると注釈されている。もう一 つは、1997年10月から98年1月にサンプリングしたアジ、アナゴ、カレイ、ヒラメ、サバ、スズキ、タイ、ホッケの8種の魚のダイオキシン濃度の平均値である。
ともに可食部中濃度である。いずれもコプラナPCBはダイオキシンの約2倍 の濃度になっている。
6.1.3 摂取量及び母乳中の濃度
日本人のPCBの摂取量の推移を表734)、現在のダイオキシン類の摂取量を表 837)、母乳中の脂肪当たりのPCB、DDT、ダイオキシン類濃度の推移を表9 に示す32,38)。
6.2 米国・五大湖の状況
6.2.1 PCB、DDT
五大湖でも汚染度の高いミシガン湖とオンタリオ湖の魚と魚を食べる鳥のPCB濃度を表10に示す。
五大湖の魚の中ではレイクトラウトが最も高い値を示す。レイクトラウトは体全体、ギンサケは可食部での濃度である。体全体平均濃度では可食部濃度に比べ て2倍程度になるようだ39)。
6.2.2 ダイオキシン
五大湖(ミシガン湖、オンタリオ湖、スペリオル湖)の底質コア中ダイオキシン濃度の測定結果を表11に示す。1970年頃にピークがあったことがわかる。ま た、その後20年間でピーク時の30〜70%に低下している40)。
セグロカモメの卵中の2,3,7,8-TCDD濃度の経年変化を表12に示す41)。
1981〜1984年に濃度は低下しているが、その後の低下は極くわずかである。
魚肉中のダイオキシン濃度を表13に示す42)。レイクトラウトが最も高く、他 の魚は半分程度の濃度である。現在の濃度で比較すると、東京湾の魚は1ppt程度 だからオンタリオ湖では10倍弱の濃度となる。
6.3 バルト海
すべてスウェーデンの測定結果である。いずれも脂肪当たりの濃度なので高くなっている。魚では可食部当たりに換算すると 1/10以下になる。
6.3.1 PCB,DDT
バルト海にいるニシンの可食部、ウミガラスの卵、ハイイロアザラシの脂皮中のPCB、DDT濃度の推移を表14に示す。
6.3.2 ダイオキシン類
バルト海でのダイオキシン類による汚染状況の推移は、ウミガラスの卵中の濃度(表15)から知ることが出来る45)。1969年から1992年までに1/4程度に減少 している。
バルト海及び沿岸部での各種生物中のダイオキシン類濃度は1988〜1993年の調査では表16のとおりとなっている45)。餌のニシン中濃度よりアザラシ体内濃度が 低いから、アザラシはダイオキシンを濃縮しないことになる。また、一般的に陸生動物では水生動物にくらべてダイオキシン濃度はずっと低くなっている。
6.3.3 母乳中PCB、ダイオキシン類濃度
スウェーデン人の母乳中PCB、ダイオキシン類(ダイオキシンとコプラナPCBの合計)濃度の推移を表17に示す46)。母乳中濃度は各国とも脂肪当たりで表 示するので比較しやすい。PCBは日本人と同程度、ダイオキシン類は日本人よりやや高い。
7、海棲ほ乳類中のPCB濃度
地球上で最もPCBなどに高濃度に汚染されているのは海棲ほ乳動物である。
それは次の理由による。イ)食物連鎖の頂点にある。ロ)厚い皮下脂肪(脂皮と いう)がある。これは体重の20〜40%もある。ハ)母乳中に脂肪が30%程度もあり、母から子へ移行しやすい。ニ)PCB分解酵素がない(陸生ほ乳動物には弱いながらも分解酵素がある)。
地球上の代表的な海域での汚染状況を比較するために、海棲ほ乳動物中のPCB濃度を表18にまとめておく。
測定時期や動物種が異なること、また、多数のデータからどれを採用するかによっても印象が変わるので地域毎の比較をするのは難しい。それで、この分野で は第一人者である田辺先生(愛媛大学)の考察を紹介しておく。
「地中海西部が 世界有数のPCB汚染地帯である」47)「東シベリアのPCB、DDT汚染は、1970年代の欧米先進国に匹敵するほど進んでいる」51)「カスピ海のアザラシのPCB濃度は日本沿岸のアザラシに比べてかなり高い」53)
「三陸沖のキタオットセイでは1970年代の中頃に最大濃度を示し、以後低減している」54)「南氷洋のミン ククジラは北半球に棲息するヒゲクジラ類と比較すると明らかに低値である。しかし、PCB濃度は増加している」55)
食物連鎖の上位のものを餌にするほどPCBなどの体内濃度が高くなる。シャチは魚だけでなく他の海棲ほ乳動物も食べるので最も高濃度になりやすい。次いで魚、イカを餌とするイルカ類、アザラシ類、ハクジラ類(シロクジラなど)で 高く、次いでオキアミを餌とするヒゲクジラ類(ミンククジラなど)となる。
ジュゴン、マナティは餌が藻類、水草なのでPCB濃度は非常に低く、筋肉中で0.001ppmと報告されている50)。
8、おわりに
先進工業国では(ダイオキシンを含めて)化学物質による環境汚染は1970年代前半がピークであった。その後環境対策を実施することにより、野生生物の異常も急速に改善された。しかし、依然として一部の地域では影響が残っているようだ。それは、PCB、コプラナPCB、ダイオキシンが原因と見られている。
現在でも昔に比べ改善されていない異常もあるが、化学物質が関係しているのかも含めて原因はわかっていない。
日本では1970年代前半においてもPCB等が原因と思われる野生生物の異常は報告されていない。汚染の進んでいた東京湾や瀬戸内海には、汚染に弱いサケ科の魚や大型のワシやワニがいなかったことも一つの要因であろう。しかし、カモメ、アジサシ、ウは東京湾にも普通に見られる鳥である。
これらの鳥にも異常の報告例がないのは汚染度が低かったということであろう。現在の魚中濃度で比較すると、東京湾の汚染度は五大湖で最も汚染されている湖の5分の1程度と推定される。また、1970年代前半には東京湾と五大湖の汚染度の差はさらに大きかっ たと思われる。
外国での野生生物の異常について検討するのは難しい。異常が生じている地域の特質、生物の生態を理解しておかないと思わぬ間違いをする可能性があるようで不安であるからだ。
環境庁の研究グループが1997年7月にまとめた「外因性内分泌攪乱化学物質問題に関する研究班中間報告書」3)の「生態系への影響」の部分(p31〜51)は米国環 境保護庁(EPA)が1997年 2月に公表した "Special Report on Environmental Endocrine Disruption"2)の野生生物への影響の部分を全訳したものである。
正確に言うと巻貝のインポセックスの日本での状況を10行追加したのと表3を削除した以外は全く同じ内容である。短時間でまとめるためにはやむを得ない措置だったとは思うが、EPAレポートを翻訳したものであることを明示しておかないと盗作になってしまう。
なお、本稿は私個人の見解を述べたもので、特定の団体の意見を述べたものではないことをお断りしておく。
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