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アロマティックス 1999年3/4月号 掲載

環境ホルモン問題は、何が問題か(その4)

ージエチルスチルベストロールの悲劇を生かすー


西川洋三(三菱化学株式会社 環境安全部部長)

1、はじめに

 化学物質のヒトの健康への影響についてリスクアセスメントする場合、最初にすべきことはヒトの症例について調査・検討することだ。環境ホルモンの場合は、ジエチルスチルベストロール(DES)の事例がある。幸い(非常に不幸)なことに、5百万人の妊婦が服用したこともあり、生まれた子供についての多くの追跡調査が行われている。これを生かすことが大切である。

 ついてはDESに子宮内曝露された男女についての疫学調査に関する文献を調査した。調査結果の要旨は次のとおりである。
イ) DESは医薬品であり、その投与量が把握できているという意味で質の高い、疫学調査が存在する。
ロ) DESに子宮内曝露された場合、その影響は女子の方に強く出る。
ハ) DESの投与量が多かった妊婦から生まれた男子が成人した後の調査では、 生殖器の異常発生率が31.5%(対照群では7.8%)と高くなっている。精子濃度も対照群に比べ20%低下している。 しかし、生殖能力や性行動では対照群と差はみられないと報告されている。
ニ) ハ)と同じ調査集団の女子が35才になった時点での調査では、 結婚率は78%で対照群と変わらないが、不妊率は33%で対照群の14%より高い。 また、生殖器の異常発生率が高いと報告されている。
ホ) 女子でも男子でも生殖器の異常発生率が最も対照群と差が出やすい。 しかし、結婚率には差がみられないので異常の程度は軽かったと思われる。
へ) ハ、ニ)の調査集団の1/10程度のDESの投与量では、 男子では無作用量で女子では生殖器の異常発生率がやや高いが、無作用量に近い。
ト) 膣や子宮頸部での腺がんの発生率はDESに子宮内曝露された女子1万人当たり1〜10人で低い。

 以下は私の結論である。DESの投与量が少ない場合はほとんど悪い影響がみられない。また、DESの投与量が少ない場合ですら、 その作用の強さを加味すると、極端に多量であるので、一般の化学物質では量の多少にかかわらず女性ホルモン様作用がヒトの健康に 悪い影響を及ぼしうるとは思えない。
 私は多くの報告の一部を調べたにすぎない。しかし、いくつかの総説1-10)を読んだ上で、重要と思う報告を調べたので ポイントは逃がしていないつもりである。



2、疫学調査集団とDES投与量

今回紹介する疫学調査の対象となった調査集団とDESの投与量を説明する。

2.1 シカゴ大学の調査集団11)
 1940年代にスミス夫妻が妊娠合併症にDESが効果があると発表し、すべての妊婦にDESの投与を薦めはじめた。 これを受けてDESの効果と安全性を検証するために、シカゴ大学で1951〜1952年に二重盲検法で調べた臨床試験である。 DES投与群840人、偽薬投与群806人からなっている。DESの投与量はスミス夫妻の薦めている処方にしたがっており、 表1のとおり妊娠の進行とともに増やしている。妊娠期間中の合計DES投与量は95%の人が11,500〜12,600 mgの範囲になっている。 投与開始日の平均は初産婦11.5週、経産婦12.5週である。この調査からDESを高用量投与した場合のリスクが推定出来る。

表-1

 DESの投与量がいかに大量であったかを認識していただくために、第1報12)で 紹介した各種女性ホルモン様物質の摂取量比較を表ー2として再掲する。表ー2の補正係数は天然女性ホルモンを1としたときの 作用の強さの比で、経口投与を前提としている。

表-2

 なお、シカゴ大学の臨床試験では流産防止にも、合併症にもDESの効果は認められていない。 出生直後の検査では泌尿生殖器の異常はDES投与群0%、偽薬投与群0.6%、先天異常全体の発生率はDES投与群6.7%、 偽薬投与群7.2%で有意な差ではないとされている。

 1971年にDESが原因で膣がんが発生するとの報告がでた後、この集団の子供を追跡調査することで副作用の程度を調査している。 1977年13)、1979年14)、1988年15)、1995年16)の4回報告している。 1977年のは男女両方についての調査で、1979年のは男子、1988年のは女子、1995年のは男子についての報告である。

2.2 DESADプロジェクトの調査集団
 DESが膣がんの原因になることがわかったので、1940年初めから1960年中までにDESを服用した母親から生まれた娘について 腺がんや異常を調査するために米国国立がん研究所が行ったプロジェクトである17)。従って、女子のみを対象としている。 4つの病院(メイヨー・クリニックを含む)が参加している。病院毎のDESの平均投与量は1,625〜10,424mgである。 この調査は用量の範囲が広いので用量相関性をみるのに適している。1980年18)と1984年19)の2度調査結果を 報告している。 DESADのADはadenosis(腺疾患)の略である。

2.3 メイヨー・クリニックの調査集団20)
 メイヨー・クリニックでは男子を対象とした調査も行っている。1939年から1962年までに生まれた男子を対象としている。 妊娠期間中のDES投与量は平均で1,400mg、平均投与期間は101日である。DES投与群は828人、対照群は676人である。 この調査はDESの低用量での影響を知るのに適している。



3、DESに子宮内曝露された男子への影響

3.1 DESの投与量の多い場合
 シカゴ大学の調査集団の男子615人を対象として1974〜1976年(曝露25年後)に調査している14)

表-3

 表ー3のとおり生殖器の異常発生率の増加と精子濃度の減少が認められる。精子濃度の減少は精巣発育不全を伴う男性に限られているのではないかという見方もある5)。ホルモン濃度は両群で差は認められていない。
 この報告はシャープ博士が精子減少の原因の一つの可能性として化学物質の女性ホルモン様作用を考えた根拠となっている2,21)

 また、この集団について、さらに15年後(出生40年後)に追跡調査を行っている16)。 追跡できた人は548人で、このうち90%について対象男子とその妻に電話での聞き取り調査が出来た。 DES投与者は253人で偽薬投与者は241人である。生殖器の異常率はDES投与群で3倍高い。 異常の程度は軽度で、もっとも普通に見られる異常は精巣上体嚢胞と精巣発育不全であった。 しかし、表ー4のとおり生殖能力、性行動には影響は出ていない。また、精巣がんは両方の群とも発生していない。

表-4

3.2 DESの投与量の少ない疫学調査
 メイヨー・クリニックで1939年から1962年までに生まれた男子を対象とした調査である20)。 妊娠期間中のDES服用量は平均で1,400mgである。DES服用群828人、対照群676人について診断書で先天異常を調べた。実際に病院に呼んで検査したのはDES投与群265人、対照群274人で、検査項目によってはさらに少なくなっている。すべての検査項目で対照群と有意差は認められないという結果である。検査項目は先天異常、ペニスや睾丸の大きさ、精巣上体嚢胞などの異常、受精能力、成熟時期、性交頻度、性の満足度、結婚率、精子に関する検査、ホルモン濃度である。なお、精巣がんはDES投与群781人中に1人あるが、全国平均と有意差なしとしている。

3.3 まとめ
イ)DES高用量投与群では、生まれた男子に生殖器の異常の増加や精子濃度の低下が報告されている。しかし、結婚率や子供の数、性交頻度などには影響がみられないことから、異常の程度も軽度だったと思われる。
ロ)低用量投与群では対照群とすべての検査項目で差はみられないと報告されている。妊娠3〜4月での投与量は約2mg/日*で、これが無作用量と推定される。この投与量でもいかに多量であるかが表2と比較するとわかる。この量はビスフェノールAでは80,000 mg/日に相当し、毎日摂取していると死んでしまう量である。ビスフェノールAの一回投与での半数致死量は3,250 mg/kg-体重(ラット、経口)だから。(*2mg/日は妊娠期間中の合計投与量1,400mgと表1から推定した)
ハ)環境ホルモン問題では、主に子宮内曝露された男子の生殖能力への影響が問題になっている。以上から一般化学物質の女性ホルモン様作用による悪影響はあり得ないことと私は考える。



4、DESに子宮内曝露された女子への影響

4.1 DESの投与量の多い場合の疫学調査
シカゴ大学の調査集団についての23才時点での調査である。DES曝露者229人、対照者136人について検査している13)。 両群で差がなかったのは、結婚率、初潮年齢、性交経験率、ホルモン濃度である。がんは発生していない。 差があった項目について表ー5に示す。

表-5

 また、35才時点での調査の要旨を表ー6に示す15)。結婚率には差はないが、DES投与群は不妊率が高い傾向がある。

表-6

4.2 DESの投与量の少ない場合
 DESAD計画の調査集団について1980年と1984年の2度調査結果を報告している。1回目の報告は次のとおりである18)。 DES投与群618人と対照群618人との比較で、両群とも25才以上が53%である。表ー7のとおり妊娠経験者数では有意差ないが、 好ましくない出産(流産、早産など)率ではDES群が高い。

表-7

 2回目の報告は次のとおりである19)
イ)子宮頸部や膣に異常のある娘では母親のDES服用量の中央値は11,025mgであり、異常のない娘では中央値は2,530mgであった。
ロ)子宮頸部や膣の異常の発生率はDES服用量が12,001mg以上の場合60%、服用量701-12,000mgでは36%、700mg以下では7%である。対照群の異常発生率は 2.3%であった。
ハ)母親が妊娠14週までにDES服用しはじめた娘は、それ以降に服用しはじめた娘に比較して異常の発生率は4倍になっている。
ニ)膣や子宮頸部での異常のある人に流産(miscarriage)などの比率が高い傾向がある。
ホ)異常と診断された361人の内の41%は3年(1〜5年)後の再診時には異常はなくなっていた。この異常の消失は妊娠経験者で顕著だった。

4.3 膣及び子宮頸部での腺がん
 DESに子宮内曝露された女子に膣及び子宮頸部での明細胞腺がんが増加する。この腺がんの発生は14〜23才の範囲に集中しておりピークは19.2才である。 1951〜1953年に生まれた女性での発生率が、その前3年、その後3年に比べ高い。このことからDESの使用は1950年代の初期にピークがあったと推定される。 この3年に生まれた女子が24才までにこのがんに罹るリスクは千人当たり0.014人であった。その当時、妊娠女性の1〜10%がDESを服用したとするとDESに 曝露されて生まれた女子千人当たり0.14〜1.4人の発生率となる。1960年代のDESの服用率は0.6〜1.0%である。1950年代の服用率はそれよりずっと高かったので、 1950年代はじめでの服用率1〜10%というのは妥当な推定である。したがって、DESに子宮内曝露された女性であっても罹患するのはまれであった。 これは次の観察例とも一致する。Lanierらは818人のDES娘に1人のがんも発見できなかった。Kinlenらは英国でDESを服用した7,500人の母親から生まれた子供に 1人も生殖器のがんは発見出来なかった22)
 34才までに膣、子宮頸部の腺がんに罹るリスクは千人に1人という報告もある。
この報告では91%の人は15〜27才に罹患する。中央値は19.0才となっている23)
 膣及び子宮頸部での腺がんに罹った346人についての生存状況を1978年に調査している。 腺がんであると診断されてからの5年生存率は78%であった24)

 DESは膣がんの原因になることが判明し米国では1971年に使用禁止となった。 しかし、その後も欧州の多くの国では切迫流産防止のために使われた。最後まで使われたのはオランダで、禁止されたのは1982年だった7)。 欧州では深刻な副作用と受け取らなかったのかもしれないと私は想像する。

4.4 まとめ
イ)DES高用量投与群では、生まれた女子に膣や子宮頸部での異常の増加、不妊率の増加が報告されている。しかし、結婚率は対照群と差はみられない。
ロ)中用量群では、結婚率、妊娠率は対照群と差はみられない。しかし、流産などが起こる率が対照群よりも高くなっている。流産の増加する原因は、子宮や膣の異常と関係するという見方もある。
ハ)膣、子宮頸部の異常の発生率はDESの投与量と相関がある。妊娠期間中の総投与量700mgは無作用量に近い。この用量は妊娠3〜4月での投与量で約1mg/日*と推定される。(*1mg/日は700mg/日と表1より推定した。)
ニ)DESによる膣や子宮頸部での腺がんの発生率は1万人当たり1〜10人と推定されている。 このがんとDES投与量との関係は報告されていない。しかし、このがんも生殖器の奇形もミューラー管由来の組織に発生している25)ので、 異常が発生しない用量ではがんも発生しないと私は想像する。



5、DESについての動物試験結果

 特に断らない限り経口投与での試験結果である。

5.1 子宮重量測定法による女性ホルモン様作用26)
未成熟ラットを使用した試験では0.9μg/kg-体重/日(餌中DES濃度5ppb)で、わずかだが有意な影響があり、1.9μg/kg/日で明らかな影響がある。

5.2 1世代生殖毒性試験27)
 餌にDESを0,1,10,50ppb混入し、マウスに投与した。投与量は 0,0.15,1.5, 7.7μg/kg/日に相当する。50 ppbでは約半数が妊娠しなかった。10ppbでは繁殖力の低下はわずかで、その程度は、1つの試験機関では有意であり、他の試験機関では有意でなかった(2つの試験機関で同じ条件で試験している)。 雌親への投与の影響が大きい。雄親への投与は影響が少ない。

5.3 臨界期(危険期)を探す試験28)
 ICR/Jcl雌マウスに、妊娠 7,9,11,13,15,17,19日に10mg/kgのDESを、または出生直後に50mg/kgのDESを1回皮下注射した。雌仔では15,17,19日の投与によって泌尿生殖洞などでの異常が、雄仔では17,19日の投与によって停留睾丸などの発生率が高くなった。他の時期の投与は影響なかった。 マウスでの妊娠15,17,19日は、ヒトではそれぞれ妊娠50-60日、80-95日、94-115日に相当する。
 エストラジオール20mg/kgを妊娠19日にマウスに皮下注射した試験では、雌仔にのみ頻度はDESの場合より低かったが同様の異常が生じた。 

5.4 まとめ
イ)子宮重量測定法では1μg/kg/日以上で活性を示す。この試験法が最も低用量で影響が出やすいようである。
ロ)マウスの妊娠15-19日での投与が生殖器への影響が出やすい。ヒトでは妊娠3〜4ヶ月に相当する。通常の催奇形性物質は器官形成期(ラットやマウスでは 妊娠6-15日、ヒトでは妊娠2〜8週)での曝露で奇形を生じるので、DESの危険期はすこし遅い。
ハ)ヒトで明確に異常がでるDESの服用量は妊娠3〜4月では20mg/日程度で、体重60kgとして350μg/kg/日となる。マウスでは5μg/kg/日程度と推定される。 従って、同じ悪影響を示すにはマウスよりもヒトでは体重当たりで約70倍の用量が必要である。
ニ)雄仔よりも雌仔に影響が出やすい。ヒトの場合と同じである。
ホ)DESに特異的に起こることでなく、天然の女性ホルモンであるエストラジオール(E2)を投与しても同様の症状がでる。両物質とも皮下注射するとしてE2では数倍の投与量が必要なだけである。天然のホルモンは母体の性ホルモン結合タンパク あるいは胎児のα-フェトプロティンと結合するので危険はないが、合成ホルモンはこれらと結合しないので危険であるという見方がある。 しかし、動物試験の結果ではDESとE2で胎児への作用に大きな差はみられないので、合成ホルモンにもなんらかの保護作用があるようだ。



6、経口避妊薬ピル

妊娠しているのに気がつかずにピルを服用することがある。そうすると胎児はDESと同程度の女性ホルモン様作用のあるエチニルエストラジオール(EE)に曝露される。曝露量は少ないがDESの事例と同じことになるので考察する。

6.1 子宮重量測定法による女性ホルモン様作用
 EEは未成熟ラットに経口投与した試験で1μg/kg/日以上で活性を示す29)

6.2 経口避妊薬
 低用量ピルのエストロゲン成分としてEEが0.035mg/日配合されている。この量は体重を50kgとすると0.7μg/kg/日に相当する。 妊娠しているのに気づかずピルを服用することがある。それでも胎児への影響がないようである。第1報でも記載したことだが再度引用する30)
 「毎日一錠ずつ服用すべきピルを服用し忘れたために妊娠してしまうことがある。それに気づかず、ピルの服用を再び続けるということはまれなことではない。米国全体では、毎年7万人以上の胎児がピルに曝露されていることになる。」「大部分の報告はピルの催奇形性に関し否定的であり、広く世界の女性にピルが服用されるようになってからも先天異常の発生頻度には変化がないことから、両者の関連性はまずないものと考えてよいであろう。」

6.3 まとめ
イ)エチニルエストラジオール(EE)0.035mg/日は無作用量と考えられる。
ロ)EEとDESは女性ホルモン作用が同程度である。EEは0.7μg/kg/日でヒトにホルモン様作用を示すことになる。すなわち、ラットやマウスでもヒトでも女性ホルモン様作用を示すDESの用量は1μg/kg/日程度で差がないようである。
ハ)DESが明らかに毒性を示す量はヒトでは350μg/kg/日、マウスでは5μg/kg/日であった。したがって、マウスではホルモン作用を示す量の5倍で毒性を示すが、人では350倍の量が必要ということになる。



7、疑惑の試験

 第2報31)では(1)Dr.McLachlan の相乗効果、(2)Dr.Sharpeの低用量試験について、また、(3)Dr.vom Saalの低用量試験の中間経過を説明した。(3)についてその後の経過を説明する。

7.1 Dr.vom Saalの低用量試験(BPA)
 CF1マウスを用いて、妊娠11-17日にビスフェノールA(BPA)2及び20μg/kg/日を経口投与した。 仔の雄マウスが成長後、前立腺重量を測定した。BPA投与群では重量が約30%増加した。2μg/kg/日は、 BPAの生殖毒性試験の無作用量である 50mg/kg/日の25,000分の1である32)。 また、精巣上体の重量低下や精子生産効率の低下がみられたとも報告している33)。 vom Saalは以上のことから、ホルモン作用を持つ化学物質は、従来の常識では考えられないような低用量でも毒性を示す。 また、高用量では影響がなくとも低用量では影響を示すと主張している。
 この vom Saalの主張を調べるために、SPI(米国プラスティック工業会)、Dr.Ashby(ゼネカ社中央毒性研究所)及び CIIT(化学工業毒性研究所)の3者が独立して再現性試験を行った。 3者とも再現出来ない、すなわち、そういう低用量では影響は見られないという結果である。
 SPIは vom Saalの試験条件に出来るだけあわせるべく、vom Saalとも相談して行っている。ただし、信頼性を高めるために、 イ)用量を0.2,2.0,20,200μg/kg/日と広げた。 ロ)一群当たりの妊娠動物数を4倍の28匹、妊娠動物当たりの検査した仔数を4倍の4匹としている。 ハ)検査項目を増やした。どのBPA投与群のどの検査項目も対照群と有意な差はみられないという結果となった34)
 Dr.Ashbyの試験も vom Saalの条件に出来るだけあわせて行っている。だだし、信頼性を高めるために一群当たりの動物数を 増やしている。前立腺重量、精巣重量、精子生産効率ともBPA投与群と対照群とで差はないという結果である35)
 CIITの試験は、妊娠2日から離乳まで母ラットにBPAを溶かした飲料水を投与して、仔の生殖器への影響をみるものである。 投与量は 0.5〜5000μg/kg/日と非常に大きな幅をとって試験している。対照群(BPAを投与しない群)との差はみられないと 速報されている36,37)

7.2 Dr.vom Saalの低用量試験(DES)
 CF-1マウスに妊娠11-17日にDESを経口投与する。妊娠動物当たり雄仔1匹を8月齢まで飼育して前立腺重量を測定する。 表ー8に示すように 0.02あるいは0.2μg/kg/日という従来の常識では考えられない低用量でも影響があるという38)

表-8

 この試験に対する再現試験はまだ行われていない。しかし、次のことから再現できない可能性がきわめて高いと考える。
イ)BPAについてSPIとDr.Ashbyが行った再現試験では、vom Saalのすすめで陽性対照としDES0.2μg/kg/日投与群を置いた。しかし、SPIの試験でもDr.Ashbyの試験でも対照群(BPAもDESも投与しない群)との差は認め られていない。すなわち、vom Saalの試験で最も前立腺重量が高く出た用量(0.2μg/kg/日)でも対照群と差がない結果となっている。
ロ)DESを経口投与した試験では影響がでるのは1μg/kg/日以上である。これより少ない用量でも影響があるというのは vom Saalの報告だけである。
ハ)BPAについての類似の低用量試験は、3者の独立した信頼性の高い試験で再現できていない。
ニ)BPAについての低用量試験で再現できなかったことに対する vom Saalのいいわけは、 まともな科学者のものとは思えない。vom Saalは「陽性対照で活性が認められなかったので試験全体が無効である」という。 しかし、DES0.2μ g/kg/日という陽性対照は vom Saalのすすめで置いたものである。 こんな低用量では活性が出るはずがないと思いつつも vom Saalのすすめで置いたものである。また、「企業が行った試験は信用できない」 とも言ったらしい。こういうことを言うようになっては終わりである。人間誰しも失敗はするし、誘惑に負けることもあるだろう。 しかし、それがわかったときは素直に認め、後始末をつけてほしい。後始末を誤った vom Saalは、まともな科学者からは相手にされなくなるであろう。

 なお、vom Saalの試験は低用量で逆U字型を示すとしても知られている。低用量でも影響があるということと、逆U字型とは別の問題と考えるべきである。逆U字型は生体に必要な化学物質なら起こりうる。低用量でも影響があるという部分がおかしい。

7.3 多摩川のコイのメス化
 これはきわめて自然で、適切な研究テーマである。英国では10年前から河川での魚のメス化が生じていることがわかっており、 主たる原因物質は尿中の女性ホルモンだと報告されている。原因が人の尿なら日本の方が人口密度は高いのだから、日本の河川でも メス化が生じている可能性は高いからだ31)
 私が疑惑と考えるのは、この研究グループが尿中の女性ホルモンが原因物質である可能性に全く触れずに、ノニルフェノールや その他の化学製品が原因であるかのように言っている点である。これでは、この研究グループは化学製品全体のイメージを落とす ことを目的にしていると受け取られても仕方がないであろう。
 大学の先生方や日本子孫基金のようなNGOが化学製品の安全性に疑問を投げかけていただくことは有り難いことと思っている。 そう思わないといけないと自分に言い聞かせている。それはヒトの健康や環境への悪影響を防ぎたいということを目的にしていると 思うからだ。しかし、多摩川のコイ研究グループは目的が違うように思う。 そういえばリーダー格の井口教授(横浜市大)はvom Saalの説を日本語に翻訳し紹介している39)。vom Saalがお好きなのだろうか。 多くの人は、大学教授を尊敬すべきものと思っている。だからこそ大学の先生の発言は影響力が大きいのだ。そういう気持ちを裏切る 先生がいるのは残念なことである。



8、おわりに

 環境ホルモンはきわめて微量でも問題だと報道されている。私は逆にどれだけ多量に摂取しても、女性ホルモン様作用による人の健康への悪影響はないはずだと考えている。ビスフェノールAやノニルフェノールを想定したとき、女性ホルモン様作用による悪影響が出る前に一般的な毒性が出てしまうからだ。DESのように他の作用にくらべて女性ホルモン様作用が圧倒的に強いものにかぎり悪影響が出得るのである。PCB,DDT,ダイオキシン、トリブチルスズの場合はホルモン様作用があることではなく、他の作用(酵素誘導、Ahレセプターとの結合、酵素作用の阻害)が毒性の原因なのだと考える。
 多量のDESに子宮内曝露された男子ですら生殖能力には影響なかったと報告されている。PCB、DDT、ダイオキシン、トリブチルスズは厳しく規制され汚染は改善されてきている。なぜ環境ホルモンを問題にせねばならないのだろうか。
 なお、本稿は私個人の見解を述べたもので、特定の団体の意見を述べたものではないことをお断りしておく。



引用文献
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