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アロマティックス 1998年9/10月号 掲載

環境ホルモン問題は、何が問題か(その2)

ー化学物質による環境汚染の推移ー

西川洋三(三菱化学株式会社 環境安全部部長)

 

1、はじめに

 前報1)では環境ホルモン問題全般についての私の見方を説明した。幸い多くの方に関心をもっていただき、さらに直接説明する機会も何度か与えていただいた。今回は、そういう機会に感じたこと及びその後の事態の推移をふまえて、焦点を絞って説明したい。なお、前報は今も新鮮なので併せ読んでいただきたい。

単位は、mg/Lは ppm、μg/Lは ppb、ng/Lは pptに、ほぼ同じである。

 

 

2、日本で問題にされている野生生物の異常

 私は日本では環境ホルモン問題は起こらないはずと考えていた。それにもかかわらず問題になってしまったのは、合成化学物質が原因とはいえない異常現象まで環境ホルモンのせいにしたり、すでに規制を行い解決済みといって差し支えない問題をあたかも新しく生じた問題であるかのように報道されたからだと考えている。

 

2.1 多摩川のコイのメス化

 多摩川のコイはメスが多い。オスでもビテロゲニン(普通はメスにのみ生成する卵黄となる蛋白。詳しくは4.2を参照のこと)が生成している。オスの精巣が貧弱である。すなわちメス化現象が生じていると報道されている。日本の環境ホルモン問題の中で、私が最も関心を持っているのはこの問題である。メス化の原因となっている物質が、私の推定しているようにヒトの尿中にある女性ホルモンであれば、「環境ホルモンがヒトの内分泌系を攪乱しているのではなく、ヒトの分泌するホルモンが環境を攪乱している」ことになるからだ。メス化現象はし尿を下肥として畑で使用せず、下水処理に回すようになった40年前から生じていたことではないだろうか。気が付かなかっただけのことと思う。

 多摩川のコイ研究グループがこのテーマを選んだのは、英国で同種の問題が起こっていることを知っていたからであろう。その英国では1996年11月に「主たる原因は尿中に含まれる天然の女性ホルモンである」と環境庁が報告しているのである。多摩川のコイ研究グループが研究し始めたのは、それから8か月後のことだ。それにもかかわらず、尿中の女性ホルモンには触れずにノニルフェノールが検出された、合成化学物質が原因と決めてかかっている。また、日本の環境庁も1997年7月に発表した中間報告2)および1998年5月に発表した環境庁の取り組み方針3)でも尿中の女性ホルモンについては全く触れていない。

 私が尿中の女性ホルモンが原因であると考える根拠を以下に示す。

 

2.1.1 英国環境庁の報告4)

 英国の7ヶ所の下水処理場放流水について、それぞれ3回づつ濃度を測定した。その測定結果と結論は次のとおりである。尿中の天然女性ホルモンだけでニジマスにビテロゲニンを誘導しうるという内容である。

イ)全ての検体から天然の女性ホルモン(エストロゲン)であるエストラジオール(E2)とエストロン(E1)が検出された。その濃度は表1に示すとおりである。経口避妊薬に用いられる合成女性ホルモンであるエチニルエストラジオールは3ヶ所、7検体から検出された。

 

 表1 下水処理場放流水中の女性ホルモン濃度 (ng/L)
  女性ホルモン名    平均濃度     範囲   
  エストラジオール  11.02.7〜48
  エストロン  17.31.4〜76

 

ロ)オスのニジマスに対してビテロゲニンを誘導する濃度はE2は10ng/L以上で、E1は100ng/L以上である。これらを同時に暴露した場合は相加的に働く。

ハ)放流水中には、他にはエストロゲン活性は見いだせず、下水処理場放流水のエストロゲン活性の主要成分は、これらのホルモンであることが示唆された。

ニ)このホルモンはおそらくヒトの女性の尿から来るものであろう。

ホ)このホルモンは尿中では抱合体で存在し、ホルモン活性はないが、下水処理の過程で抱合がはずれ女性ホルモン作用を示すようになる。

 

2.1.2 米国での報告5)

 米国でもラスベガスにあるミード湖に注ぐ川で魚のメス化が報告されている。報告の要旨は次のとおりである。

イ)オスの魚にビテロゲニンが生成した原因は、下水処理水中のヒトのホルモンである。工業化学品が原因ではない。

ロ)英国ではほとんどの河川でオスの魚にビテロゲニンが観察されたが、米国ではまれである。英国では人口密度が高く、下水処理水の比率の高い河川が多いからであろう。

 

2.1.3 イスラエルでの報告6)

 排水処理前後のエストロゲン濃度の測定例として表2のとおり報告されている。

 

 表2 排水処理前後のエストロゲン濃度(単位:ng/L)

  処理前    処理後  
   1991年 7月   4536
   1991年 9月   13347
   1992年 9月   516

 

 排水処理施設は嫌気性と好気性汚泥処理の両方で行われている。高度な処理を行っているが、それでも除去率は20〜88%であった。したがって、エストロゲンは分解しにくい物質である。なお、エストロゲン濃度はエストラジオール(E2)とエストロン(E1)の合計濃度を示している。

 他のデータも報告されている。処理水中のエストロゲン濃度は夏期では 123 ng/L、冬期では 42 ng/Lであった。エストロゲン中のE2とE1は半々である。

 以下は私の注釈である。イスラエルでの特殊事情として、水は貴重品で、使用量が少ないので、エストロゲン濃度が高くなる傾向があるようだ。一方、処理水を再利用するために高度に処理しており、エストロゲン除去率が高くなっている可能性がある。

 

2.1.4 多摩川のコイといわれるが、

 多摩川に棲息しているコイにメス化現象がみられると報道されているが、正確に言うと府中市にある北多摩1号処理場の下水処理水に棲息しているコイである。7)多摩川本流に棲息しているコイではない。したがって、ヒトの尿中のホルモンが原因である可能性は高いと思われる。もっとも、多摩川の水量の80%は家庭下水の処理水である8)から、多摩川で棲息しているコイであっても大差ない結果になりそうではある。

なお、1998年4月の日本水産学会では中村先生(帝京大学)はつぎのとおり説明されていた。中村先生の説明はコイ研究グループの他の先生とは少しニュアンスが違う。「ノニルフェノールは濃度が低いので原因ではない。原因物質は他にある。精巣での異常は、水温、餌、その他が原因で起こることがあるので、必ずしも化学物質が原因とはいえない。なお、多摩川ではコイの稚魚を放流している。」

 以下は、私の解釈である。水温が影響しているとは次のことであろうか。コイは5月に産卵する。したがって、夏のコイの精巣は貧弱で、冬に充実する。しかし、下水処理水は冬でも温度が高い。まだ冬が来ないと思って精巣の発達が悪いのかもしれない。性比は放流する稚魚の性比にも左右される。また、現地で毎日コイを釣っているという人に聞いた話では、多摩川に小さなコイがいないのは、鵜が百匹〜2百匹の群でやってきて食べてしまうからという。このように、野生生物についての調査は多くの要因があって因果関係を求めるのは難しい。しかし、雄のコイにビテロゲニンが高いことが観察されるのは、水中に女性ホルモン様の作用をする化学物質があることを示すものと私も考える。その化学物質は尿中の女性ホルモンであろう。

 

2.1.5 下水処理水中のエストロゲン濃度試算9)

下水中のエストロゲン濃度を私が試算してみるとエストラジオール(E2)が12ng/L、エストロン(E1)が32ng/Lとなる。これは下水処理場の除去率によってはニジマスにビテロゲニンを十分誘導しうる濃度である。なお、この試算は次の前提に基づいている。女性が尿中に1日に排泄するエストロゲンは非妊娠期にはE2が5μg、E1が13μg、妊娠末期にはE2が500μg、E1が1,300μgである。10) 妊娠期間中の平均値は末期の1/3と推定した。下水量は200 L/人/日としている。8)

 

2.2 トリブチルスズ化合物による巻貝のインポセックス

 堀口先生(国立環境研究所)はトリブチルスズ化合物(TBT)汚染によってイボニシなどの巻貝にインポセックス(メスの巻貝にオスの生殖器が形成される現象)が生じており、それは深刻な状況にあるという。マスコミはそれを新しい問題であるかのように報道したために、国民は不安な気持ちにさせられている。

 しかし、水口先生(東京水産大学)は1998年4月の水産学会で、次のとおり説明されている11)。マスコミではほとんど取り上げられていないので詳しく紹介したい。

イ)TBTが原因でイボニシにインポセックスを起こすことは既に1980年代はじめに欧米で明らかにされている。学問的には新しい話ではない。

ロ)日本でもTBTによる汚染が確認されたので、関係官庁に働きかけて、1990年に化審法で規制することとなった。すでに対策も済んでいる。

ハ)TBT濃度は東京湾の底質で91年から92年の間に激減した。アサリ中の濃度は92年から93年にかけてピーク時の1/3から1/4に低下している。

ニ)次の例からインポセックスの症状も軽くなってきていることがわかる。

  日本全国の沿岸部でのバイ貝の観察結果では、前回(90年)にくらべ今回(97年)は、バイ貝中のTBT濃度は1/10に低下している。一部地域では漁獲量も増加している。ただし、東京湾など絶滅した地域での回復はまだ起こっていない。広島県東部の造船所が集中している地域では91年から94年にかけてイボニシが絶滅したが、97年の観察では回復している。

 環境庁のモニタリング結果から水質中TBT濃度と貝類(ムラサキイガイ、イガイ)中の濃度推移を表3、表4に示す。水中濃度は着実に低下しているし、貝類中の濃度も最近では検出限界(0.05μg/g)に近づいている。他の測定地点での貝類中濃度は1996年には全て検出限界以下となっている12)

 

 表3   水中のTBT濃度 (単位:ng/L)  

 1990  1991  1992  1993  1994  1995  1996 
  市原・姉崎海岸  46153<3<3<3<3
  横浜港  351394333
  大阪港  205555166119
  全国平均  8.85.74.43.22.92.52.1
 全国平均は検出限界(3ng/L)未満は1.5ng/Lとして算出した。

 

 表4   貝類中のTBT濃度  (単位:μg/g)

 1989  1990  1991  1992  1993  1994  1995  1996 
  山田湾  O.330.460.230.420.680.090.130.06
  三浦半島  0.090.070.07<0.05<0.05<0.05<0.050.07
  鳴門  0.610.300.050.080.06<0.050.070.06

 

 

3、安全性評価基準についてのダブルスタンダード

天然化学物質のホルモン作用の強さや曝露量は、合成化学物質のそれに比べてはるかに高い。それにもかかわらず合成化学物質だけが問題にされている。

 

3.1 植物エストロゲンとビスフェノールAの比較

 食物の中には女性ホルモン様の作用をする化学物質が含まれている。それを植物エストロゲンという。ニンジン、トウモロコシ、リンゴ、大麦、オート麦、大豆など普通の食物にも含まれている。特に大豆には多く、100g中に50〜300 mg含まれている。13,14)

 日本、中国、韓国の人は、欧米人に比べて乳がんと前立腺がんの発生率が低く、閉経時の更年期障害の症状が軽い。それは大豆の摂取量が多いことと関係しているといわれている。植物エストロゲンがエストロゲンレセプターに結合すると、作用の強い内因性エストロゲンが結合できなくなるので乳がんを防ぐ。また、植物エストロゲンが閉経時での内因性エストロゲンの急激な減少を補うために、更年期障害の症状が軽いと解釈されている。13,14)

ビスフェノールA(BPA)のエストロゲン様作用の強さは大豆の主要植物エストロゲンであるゲニステインの1/10 であり、摂取量は1万分の1にすぎない。1)  植物エストロゲンが健康に良いとされるのに、BPAが環境ホルモンとして問題にされるのは理解できない。植物エストロゲンはヒトが大昔から食べているので体がなじんでいる。そのため容易に代謝、排泄されるので問題がないと説明されている。しかし、3.3で説明するように代謝、排泄され方はBPAも植物エストロゲンも同じである。

なぜ植物エストロゲンはヒトに害がなく、合成化学物質は微量でも心配しなければいけないのか。専門家は次のように説明している。15,16)  高杉先生(元横浜市立大学)「植物エストロゲンは摂取量が少ない。すぐに分解する。」「植物エストロゲンはレセプターと結合してもすぐに離れ、体外に排泄される。合成化学物質は結合するとなかなか離れない。」 井口先生(横浜市立大学)「人類は進化の過程で、植物エストロゲンを食べても代謝によって容易に分解するなど、対応できるようになっているのではないか。」 これらは植物エストロゲンは問題ないとは言えていても、合成化学物質は問題であるという説明にはなっていないと思う。3.3で説明するように代謝、排泄され方はBPAも植物エストロゲンも同じである。BPAは植物エストロゲンよりさらに問題ないと考えた方が自然と思う。

 

3.2 尿中女性ホルモンとノニルフェノールの比較

2.1で説明したとおり、下水処理水には尿中からの女性ホルモンがニジマスにビテロゲニン(Vg)を誘導するのに十分な量存在している可能性が高い。一方、ノニルフェノール(NP)ではニジマスにVgを誘導するためには少なくとも10ppbの濃度が必要だが、多摩川でのNPの濃度は0.2ppb程度である。17,18)  したがって、多摩川に関してはNPの寄与率は尿中の女性ホルモンの寄与率の50分の1にすぎない。尿中の女性ホルモンに触れないでNPを問題にするのはおかしい。

まして、BPAが水環境中から極微量検出されたとして騒ぐのは理解できない。BPAが水生生物に影響する濃度は、各種の試験でもっとも厳しい報告で1,000ppbである。19) BPAがVgを誘導する濃度はまだ報告されていないが、NPの例1)から推定して、すなわち、毒性を示す濃度とほぼ同じとすると1,000ppb以上であろう。BPAの水環境中の測定結果148のうち、検出限界(0.01ppb)以下が72%、0.1ppb以下が93%を占めている。12) 多摩川でのBPAの濃度の測定値はないが、仮に0.01ppbとすれば、BPAの寄与率は尿中の女性ホルモンの寄与率の10万分の1にすぎない。

 日本には環境中濃度を測定する専門家がいるのは確かだが、どの物質を測定すべきかを検討したり、測定結果を評価する専門家はいるのだろうか。

 

3.3 天然ホルモンとNP、BPAの代謝、排泄の比較

3.3.1 ヒトのエストロゲン10,20)

 エストロゲンは肝臓でグルクロン酸抱合や硫酸抱合を受けて、水溶性を高め尿及び胆汁に排泄される。投与されたエストロゲンは12時間以内にその50%が尿中に排泄される。残りは肝臓から胆汁中に分泌され、腸内に排泄されるが再び腸管から吸収され肝臓に行き、再び尿中及び胆汁へ排泄される。4〜6日で投与したエストロゲンの50〜80%は尿中に、1〜18%は大便中に排泄される。

 

3.3.2 植物エストロゲン21,22,23,24)

 イソフラボノイドは植物組織中ではグルコシドとよばれる糖の誘導体として存在する。グルコシドは人間の腸内でバクテリアの働きで加水分解され、ホルモン活性を持つイソフラボノイドを生成する。腸で吸収されて大部分は肝臓でグルクロン酸抱合を受ける。一部は硫酸抱合を受ける。これらは尿中に排泄されるか、又は胆汁中に分泌されて腸に出る。消化管にあるバクテリアが抱合を解離するので、イソフラボノイドとして腸で再度吸収される。

 経口的に摂取した場合、尿中の濃度は24時間後にピークとなり、48〜72時間後には元に戻る。

 

3.3.3 BPA、NP1)

 BPAやNPの代謝・排泄については前報で説明した。ラットを用いた試験では、体内に吸収されたものはグルクロン酸抱合を受けて、尿中あるいは胆汁を経由して糞に排泄される。1日で大半が排泄される。すなわち、内因性のエストロゲンや植物エストロゲンと同じである。

 

 

4、エストロゲン作用を見るための試験法と実施例

 妊娠期間中に母親が化学物質に暴露した影響が胎児にでる。しかもその影響は成人してから現れることもある。それが環境ホルモンの毒性の特徴、怖さといわれている。そういう毒性は新しい毒性で、今まで検査されてこなかったようにも思われているようだ。

 ホルモン作用があるということ自体は毒性ではない。その物質の毒性の現れ方を予測したり、理解したりするのにホルモン作用の有無が参考になるということにすぎない。胎仔や新生仔への影響をみる試験は昔から存在し、行われている。生殖毒性試験がそれである。ただ、試験費用が高価なので、試験をした化学物質は非常に少ないのは事実である。ビスフェノールAについては生殖毒性試験は実施済みで、その結果も織り込んで許容摂取量を決めているのである。言うまでもないことだが、それぞれの化学物質の毒性、例えばビスフェノールAの毒性は昔も今も同じであって変わったわけではない。

 

4.1 ラットを用いた生殖毒性試験

 妊娠中に化学物質に暴露された影響が子どもに出るのが心配とされている。それを調べるための試験が生殖毒性試験である。実際には雄親に暴露したときの繁殖力への影響も調べるために雌雄両方の親(F0)に試験物質を投与する。ホルモン作用の影響を見るための試験としては最も信頼の置けるものである。

 性の成熟時に影響が出ることも考えられるので生まれた仔(F1)は成熟するまで飼育し観察するのが望ましい。この試験は1世代生殖毒性試験という。さらに仔にも試験物質を投与して孫(F2)の出産状況まで検査する場合は2世代生殖毒性試験という。従来からこの試験法はあったが、ホルモン作用をより感度よく検出するために、性の成熟時期や雄では精子分析、雌では発情周期等の検査を追加することが提案されている。25)

 2世代生殖毒性試験で5千万円〜1億円と試験費用がかかること、試験期間として2年間弱必要であるという問題がある。

 

4.2 エストロゲン作用をみるためのスクリーニング試験

生殖毒性試験は費用が高いので、すべての化学物質について試験するわけにはいかない。しかし、エストロゲン作用の強い物質については生殖毒性試験をして、その影響を確認すべきだ。そのためにエストロゲン作用の有無、強さを検査するスクリーニング試験があると考えると理解しやすい。スクリーニング試験としては次のものが提案されている。

イ)ラットを用いた子宮重量測定法

 エストロゲン作用によって、子宮粘膜の肥厚が起こることを利用する。まだエストロゲンを分泌していない未成熟のラットか、卵巣を摘出してエストロゲンを分泌できなくしたラットを使用する。化学物質を投与して子宮重量が増加すればエストロゲン作用が有るとする。

ロ)魚でのビテロゲニン合成試験

 メスの魚はエストロゲンの作用を受けて肝臓でビテロゲニン(卵黄になるタンパク)を合成する。オスは通常エストロゲンを分泌しないので、オスの魚からビテロゲニンが検出されれば、外部からエストロゲン作用を受けた証拠となる。

 より簡便なスクリーニング試験として in vitro(試験管内)試験があるが、これについては他の文献26)を参照願いたい。

 

4.3 ノニルフェノール(NP)

 NPについては、子宮重量測定法で女性ホルモン様作用のあることが確認されている。そして、女性ホルモン様作用を感度よく検出するための検査項目も織り込んだ3世代生殖毒性試験も実施済みである。その結果は前報1)に紹介している。要約すると、女性ホルモン様作用によると思われる影響がでるよりも低い用量で腎臓への毒性がみられる。女性ホルモン様作用の強さがNP程度であれば、問題にならないと解釈できる結果である。

 

4.4 ビスフェノールA(BPA)27,28,29)

 BPAについても子宮重量測定法で女性ホルモン様作用のあることが確認されている。1世代生殖毒性試験と2世代生殖毒性試験がすでに行われている。これらの結果から生殖毒性試験での無作用量は50mg/kg/日と求められている。試験条件と結果の要旨は次のとおりである。

イ)1世代生殖毒性試験:

・ラットを用いて餌にBPAを混入して投与した。F1にも成熟するまで投与した。

・ラットに毒性を示さない量(無作用量)は50mg/kg/日であった。

・150mg/kg/日以上ではF0,F1とも体重増加量の減少がみられた。

・生殖毒性はみられなかった。精巣、卵巣の重量にも影響はみられなかった。

 

ロ)2世代生殖毒性試験:

・マウスを用いて餌にBPAを混入して投与した。

・全体に投与量が高すぎたため、無作用量は求められていない。低用量(437mg/ kg/日)群でも体重増加量の減少及び肝臓、腎臓で相対重量の増加と病理学的所見が観察された。

・中用量(875mg/kg/日)、高用量(1750mg/kg/日)群では出産仔数の減少、出産仔の体重低下がみられた。

・F1の低用量群でも雄の生殖器(精巣上体、精嚢)の重量が低下した。しかし、顕微鏡観察の結果では異常はみられなかった。

・精子分析(濃度、異常率)ではBPA投与による影響はみられなかった。

・前立腺重量には統計的に有意な影響はみられなかった。

・仔(F1)への影響は母獣(F0)で全身毒性がみられた用量で生じたものである。

 母獣への毒性の2次的影響が仔に出たもので、生殖毒性とはいえないとみられている。 

  

(参考)BPAの許容摂取量の根拠

・生殖毒性試験の無作用量は50mg/kg-体重/日である。慢性・発がん性試験では最も低い投与量である50mg/kg/日でもわずかに体重増加が低下した。したがって、推定無作用量を5mg/kg/日とした。

・ヒトの許容摂取量は、動物実験での推定無作用量の1/100 とするので、0.05m g/kg-体重/日となる。

・ヒトの体重を50kg、食物を1kg/日摂取するとすると、食物中のBPA許容濃度 は2.5ppmとなる。

  0.05mg/kg/日 x 50kg ÷ 1kg/日 = 2.5mg/kg(=2.5ppm) 

・現行の許容摂取量は昔に決められたものである。女性ホルモン様作用があることを考慮するともっと厳しい値にすべきでないかという質問をよく受ける。しかし、この基準は生殖毒性試験を実施した上で決めている。しかも、生殖毒性試験の無作用量は50mg/kg/日であって、慢性毒性試験での推定無作用量の5mg/kg/日に対し10倍の余裕がある。

 

4.5 フタル酸エステル、スチレンオリゴマー

 フタル酸エステル類30)とスチレンオリゴマー31)は子宮重量測定法で女性ホルモン様作用のないことが確認されている。

 



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