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| 【バックナンバー】環境ホルモンは何が問題か =>> |
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4. 異常例(世界編)についての考察 ヒトや野生生物で異常が生じているということに対して、次の反論がある。
4.1 精子濃度は減少しているか 精子濃度は減少していないという説明でなるほどと思ったのは次のものである。精子濃度は地域による差が大きい。同じ地域で考えると減少していない。1940年ごろの精子濃度が高かったのはニューヨークのデータが主だからである。ニューヨークだけ比較すると現在も精子濃度は高く減少していないという。 23) どうして地域差が生じるか。気温が低い地域では精子濃度が高く、気温の高い地域では低くなる傾向があるようなので、気候の差が原因ではなかろうか。精巣(睾丸のこと)が体外にあることを考えると自然な解釈のように思える。
4.2 乳がんの発生率は増加しているか 米国における乳がんの発生率は、一見増加しているように見えるが、死亡率は横這いである。がん検診の普及と検診技術の向上で見つける必要のないがん、放置しておいても死に至らないがんを発見したにすぎないという見方がある。もちろん乳がんを早期に発見し、治療効果があらわれた結果であるという見方もできる。前者が正しいと結論されている。 24、25) また、乳がんの発生率と女性の血液中のPCB、DDT濃度との関係についての疫学調査がいくつか行われているが、はっきりした結論は得られていない。26)
4.3 野生生物の異常 野生生物で観察された異常については、そういう異常が存在することも化学物質が原因であることも事実であろう。しかしながら、異常がみられたとして報告された例では、いずれもPCBやDDTなどに高濃度で汚染されている。通常の環境濃度で生じたものではない。 フロリダのアポプカ湖では1980年に事故のため多量のDDT類が流れ込んだことが原因である。五大湖や欧州の海はPCBによる汚染がすすんでいることは 3.3で述べたとおりである。
5. 日本での事情 環境ホルモンが原因と思われる事例は欧米のものばかりである。それで、日本の事情についての私の調査結果を紹介する。
5.1 精子濃度は減少しているか 精子濃度を正確に測定し、他の測定結果と比較することは非常に難しいものらしい。過去の測定結果はかならずしも正常者を測定対象者としていない。個人差が非常に大きい。測定条件での差が大きい。同じ人、同じ条件で測定しても変動が大きいなどの理由による。特に日本の場合、50年前は敗戦直後という特殊条件もある。結局、はっきりしたことは何もいえないというのが専門家の結論のようだ。しかし、あえて、私の調査結果をあえて記録しておく。これは他の人が私と同じ調査をする無駄を省くためである。 イ)日本人の正常男子のものと思われる精子濃度については次のとおり5例報告されている。単位は百万/mL、括弧内は報告年である。57.6(1953) 27)、48(1957)28)、106(1982)29)、70.9(1984)30)、78(1995)31)。ロ)最も重要なのは1984年の次の報告である。 30) 1975年〜1980年に、健康な自衛官 254人より精液の提供を受けた。無精子症の1人を除く253人の平均精子濃度は 70.9百万/mLであった。これらの自衛官の年齢は18〜36才であるが、年齢による精子濃度の差はみられなかった。同じ研究グループが1995年に次の報告している。31) 1985年〜1993年の間に83人の精液を採取した。この83人と先の報告の253人をあわせた平均精子濃度は78百万/mLであった。年齢による差がみられなかったこと、及びその後の追加調査でも減少傾向はみられなかったことから、日本人の精子濃度は減少していないといえそうだ。なお、これらの濃度は現在の欧米人のそれと同程度である。しかし、これは北国にある札幌医科大の調査なので、気候の暖かい地方の人の精子濃度は低いという説に従うと、平均的日本人の精子濃度はこれよりやや低い値になると私は予想している。 ハ)その他の興味ある報告内容として、次の2つを紹介しておきたい。 29)・睾丸を暖めると精子濃度が顕著に低下する。 ・1982年の報告では調査目的として、「20〜30年前と比較して精子濃度が低下しているという報告があったので」という記載がある。 なお、マスコミ報道では「私の調査では精子濃度は減少している」という趣旨の発言をしている先生がおられる。 32、33) これらの先生方には研究報告書としてまとめて発表するようお願いしたい。貴重なデータになると思うので。
5.2 乳がん、前立腺がんの死亡率 イ)日本女性の乳がんによる死亡率は表5.2に示すとおり欧米の 1/4〜1/5と低い。また、前立腺がんによる死亡率は日本人は米国人の約 1/7にすぎない。ただし、欧米と異なり日本では乳がんも前立腺がんも死亡率は年々増加している。 34、35)
ロ)日本の女性の乳がんの死亡率が低いのは、脂肪の摂取量が少ないことなどの食生活の差が主な原因とみられている。 35) 逆に、乳がん、前立腺がんの死亡率が増加傾向にあるのも食生活の西洋化にあるのであろう。
表5.2 がんによる死亡率の国際比較 (人口10万対)
ハ)日本人は植物エストロゲンを多量に含む大豆をたくさん食べることも乳がんの死亡率の低いことに影響しているらしい。 エストロゲンは乳がんの原因になるといわれているのに、植物エストロゲンは乳がんの発生を防ぎ、 更年期障害の症状を軽減する効果があるというのはおもしろい。植物エストロゲンがエストロゲンレセプターに結合すると、 作用の強い内因性エストロゲンが結合するじゃまになるので乳がんを防ぐ。 また、植物エストロゲンの弱いエストロゲン作用が更年期障害の症状を軽くすることになる。 36、37)
5.3 PCB、DDTによる汚染 日本はPCB、DDTによる汚染が欧米に比べて低いことは 3.3に述べたとおりである。
5.4 野生生物の異常例 1970年代前半には、原因が必ずしも明らかでない野鳥の大量死、ハゼの奇形、骨曲がりなどの異常魚がみられたが、その後は減少、もしくはみられなくなっていると思われる。 38、39、40)私は何軒かの大きな書店や図書館で、生物の異常例が載っていそうな本を全てといいたいぐらい調べたつもりである。それだけ調べても、生物の異常についての日本での状況の記載例は極めて少ない。 日本人の書いた日本人向けの本であっても異常例は外国の例しか引用していないのが普通である。 昨年(1997年)夏ごろからマスコミで環境ホルモン関係の報道が本格的に行われるようになったが、当初は異常例として取り上げられたのはTBTによるインポセックスだけであった。やはりこれだけなんだと思ったものである。
6. マスコミ報道内容に思う 日本のマスコミによる報道内容のうち、水生生物への影響について、補足説明および私の感じたところを述べたい。
6.1 TBTによる巻貝のインポセックス 有機スズ化合物は1990年に化審法で第一種および第二種特定化学物質に指定されており使用の禁止、または厳しい制限を受けている。さらに行政指導や業界自主規制により現在では全面的に使用禁止になっている。 その結果、環境庁の水質モニタリング結果では全国平均値で1990年の8.8ng/Lから1995年の2.5ng/Lに低下している。「規制の効果で、広島県の瀬戸内海にも絶滅状態だったイボニシが復活してきたことが昨年確認できました。」という報道もある。 41)しかし、TBTは分解性であることを考えるともっと速やかに低下すべきであること、魚介類中のTBT濃度の低下はわずかであること、 現在でもイボニシにインポセックスが生じていることから依然として問題であることは確かである。 全面的に使用禁止にしているのは日本だけで、欧米では船長25m以上の大型船では使用が認められている。 日本以外の東アジア諸国では規制されていないという。 42) マスコミにお願いしたいのは、なぜもっと速やかに濃度が低下しないのか、 低下させるためにはどうしたらいいかを追求することである。TBTが原因でインポセックスが生じているというだけなら8年前に報道できたはずだ。なぜ外国ではTBTを全面禁止にしないのか、代替品による環境汚染はないのかも知りたいものだ。
6.2 多摩川のコイ 多摩川のコイにはメスが多く、精巣が正常に機能していないという研究について考えたい。英国で下水処理施設の排水溝の下流で魚のメス化が生じていると問題になっている。 初めは経口避妊薬に使われる合成エストロゲンであるエチニルエストラジオールと羊毛洗浄に使われる界面活性剤の分解生成物であるノニルフェノールが原因ではないかと疑われた。 確かにテレビで放映されるエア川の例ではNPの濃度が最高180ppbもあったこと 43)、 魚に影響を与えるであろうNPの濃度は 10ppb程度であることからNPが原因であったのであろう。しかし、その後の英国環境庁の調査では、全国的にみると、ヒトの女性の尿に含まれる女性ホルモンそのものが主たる原因であると結論されている。 14) 英国で長年この研究を行ってきたジョン・サンプター氏は次のように反省の弁を述べている。「結果はこうなるはずだという先入観を持ってはいけないというよい例だ。」44) 日本は人口密度が高いから女性ホルモンそのものが原因である可能性がさらに高い。このところを調査しないと問題の解決には近づけない。日本でのNPの濃度は多摩川のコイ研究グループが測定している。その結果では多摩川で0.029〜0.058ppb、隅田川で0.071〜0.51ppbで十分に低い。 45) しかしながら、測定点数も測定地点も少ないのでこれだけで問題なしとはいいいきれない。環境庁で全国規模での測定を是非お願いしたい。その際、女性ホルモンも同時に測定していただきたいと思う。BPA濃度については1996年度の環境モニタリング結果が発表されている。これによると、測定検体数148のうち検出限界(0.01ppb)以下が107、他は0.01〜0.268ppbである。 46) 水生生物に影響を与える濃度は100ppb以上と推定されるので、問題ないことが確認されたと考えて差し支えないだろう。
6.3 タイのオスとメスの比 タイのメスの数がオスにくらべて多い。精巣に卵が共存しているという研究について。海は女性ホルモンに汚染されていると言いたかったのでしょうか。 しかし、「同じ個体が卵巣と精巣とをもっているタイプはメスオス同体といい、かなり広い範囲の魚に見られます。メス先熟型メスオス同体は性転換を行い、若年ではメス、年を経るとオスとなります。マダイはこのタイプに属します。 メス先熟では大きなオスが多数のメスを独占して子孫を増やそうとする方向に進化したグループと思われます。」 47)とあるように、正常な現象であったものと思われる。魚の世界には不思議なことが多い。遺伝子的にはオスであっても、孵化直後に過剰の女性ホルモンに暴露されるとメスになる。ギンブナのようにメスしかいない魚もいる。 47) 研究は正常な状態を知ることから始めなければならない。
6.4 マスコミ報道のチェックポイント マスコミの方には環境ホルモンの報道をする際には、次の点にも触れるようお願いしたい。環境ホルモン問題を正しく理解するためには必要なことだと思うから。 イ)日本人はかなりの量のエストロゲンを食物から摂取している。 ロ)英国の河川でのオスの魚のメス化現象は、英国環境庁の結論では女性の尿中の女性ホルモンが原因としている。 ハ)水生生物の異常をいう場合には、正常とはどういう状態かを説明しているか。
ニ)TBT汚染については全面的に使用禁止にしているのは日本だけである。 ホ)PCBやTBTの汚染度は緩やかだが低下しつつある。 へ)環境ホルモン(PCB)による汚染度は日本は先進国の中で最も低い方だ。 ト)BPA、NPは蓄積性が高いなどのPCBの性質は持っていない。 チ)複数の環境ホルモンによる相乗効果によって、単独の場合よりも百倍から千倍の効果を出すという報告は、報告者自身によって否定された。 48)
7. 各種エストロゲン摂取量の比較 各種のエストロゲン様物質の摂取量の比較結果を表7.1に示す。これからBPAの摂取量は食事から摂取している植物エストロゲンの 1/100,000 にすぎないこと。また、流産防止用DESはいかに大量に投与されていたかがわかるであろう。
表7.1 各種エストロゲンの摂取量比較
この比較についてはすでに S.Safe が行っているが 49)、私なりに改良したものである。 それぞれの作用の強さを補正した後の摂取量には採用したデータの信頼性から1桁程度の誤差が考えられる。比較する場合には合計2桁の誤差が生じている可能性がある。しかし、大勢には影響ないと考える。
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