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新たな局面へ入った環境ホルモン国際シンポ


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『ルポ』 第3回環境ホルモン国際シンポジウム

青柳 優 (専門紙記者)


今回も議論百出−求められる"早期に、より明確な"科学的裏付け

環境庁が主催した第3回の内分泌撹乱化学物質問題に関する国際シンポジウムが、12月16日から18日にかけて、横浜市のパシフィコ横浜で開催された。化学物質による内分泌撹乱作用の研究に取り組む各国からの研究者などを招いてのこうした国際シンポジウムは、この問題が社会問題にも発展した98年に第1回が京都で行われ、99年は神戸で開かれた。

今回は、これまでのシンポジウムでの成果をさらに発展する意味合いも込められたものであったが、内分泌撹乱問題の解決に向けては、なお多くの課題のあることが明らかになった。シンポジウムでは、WWW(世界自然保護基金)科学顧問のティオ・コルボーン博士による特別講演をはじめ、「内分泌撹乱化学物質どこまでわかってきたか」と題したパネルディスカッション、野生生物への影響、健康影響、試験法、作用メカニズム、低用量問題、リスク管理の6セッションでの報告が行われた。

内分泌撹乱作用が疑われている化学物質は、現在のところ約40の農薬を入れて68物質(環境庁:環境ホルモン戦略計画SPEED'98/2000年11月版)ある。この中には、ダイオキシン類やPCB類、トリブチルスズ、カドミウム、鉛、水銀といった内分泌撹乱作用による健康影響が明らかになっているものもあるが、これから調査研究が必要とされる物質も少なくない。こうした物質については、環境中に存在している水準で、そうした影響があるとする報告がある一方で、影響は見られなかったという試験結果も報告されるなど、研究者の間で意見を異にするものもある。また動物実験でも明らかな影響が認められることを主張する研究者がいる一方で、動物への影響をそのままヒトにあてはめていいのかという問題を指摘する研究者も多い。今回のシンポジウムを通じても、このような物質の影響を判断するにはまだまだ研究データが不足していると強く感じた。




▼ダイオキシン、PCBのヒトへの悪影響は明らか

ただし、撹乱作用が明らかにされているダイオキシンやPCBなどによる、野生生物やンヒトへの影響については、今回も多くの報告が行われた。

特に人への健康影響では、スロバキアのランゲル教授(「PCBと他の有機塩素系物質に暴露した集団における甲状腺の状態、特定の自己抗体およびバイオマーカーの発現頻度」)が初めてスロバキアにおける汚染の実態と人への影響調査に入っていることを報告。また台湾のグオ教授(「PCBおよびジベンゾダイオキシンに暴露した油症患者における内分泌撹乱を示す証拠」)は、油症女性患者の子供は「身体的所見を伴う成長遅延状態で生まれ、認知の発達が遅延した」ことなどを報告した。

さらにイタリアのモカレッリ教授(「ダイオキシンとヒトの健康:セベソ20年間のデータ」)は、1977年〜84年に報告された女児が多く生まれたことのその後の調査で、「この影響は感受性の高い前思春期や思春期に暴露した父親にのみ恒久的に関連する」ことが分かったと発表した。いずれもこれらの物質による人への影響が今後も大きな問題として続いていくことを語っている。



▼もっともホットだったビスAの低用量問題

こうした影響が明らかなものとは対照的に、内分泌撹乱作用があるのか、ないのかに結論が出されていない化学物質については、さまざまな報告が行われ、今回のシンポジウムでも参加者の関心が最も高かったテーマであった。とくにビスフェノールA(BPA)の低用量問題は、いま一番ホットなテーマであるといえる。

低用量問題とは、毒性があるかどうかの基準として使われているNOAEL(無毒性量)よりも低い水準や、一般の環境中に存在しているようなごく低い水準での暴露による影響の有無を問題にしているもので、もし、そうした低レベルでの影響があるとすれば、これまでの毒性への考え方を大きく変えなければならないこととされる。

この問題については第1回の京都でのシンポジウムでミズーリ大学のフォンサール教授が、エストロゲン様内分泌撹乱物質の極めて低い濃度での暴露でマウスの胎仔が精子産生数の減少や前立腺肥大などの生殖器官異常を起こしていることが確認できたと発表し、その後のこのシンポジウムで主要なテーマのひとつとして議論が続いているものだ。



▼京都で議論沸騰したフォンサール報告めぐり依然両論

今回もフォンサール教授は「ヒト暴露レベルのビスフェノールAにおけるマウス発生の変異」の報告で、過去に報告された最小毒性量(LOAEL)の25,000分の1の低用量で、雌マウスの生後の成長速度が増大し、性成熟の速度が亢進すると発表した。妊娠しているマウスには、そうでないマウスに比べてBPAが蓄積すること、胎仔はエストロゲン様物質にとくに影響を受けやすいことから、マウスやラットの胎仔は一般環境で暴露されるような低いレベルでの暴露でも生殖器官の構造や機能が変化するとした。また東京大学の堤教授もフォンサール教授の研究結果と同様な結果が得られたとして、試験官内でBPAに暴露したマウスの胚を子宮に移植して出生したマウスを調べた結果、低濃度の暴露で発育が促進されることが分かったと低用量での影響があるとする発表を行った。

一方、こうした影響が見られなかったとする発表が、米国の試験研究所機関のティル博士と国立医薬品食品衛生研究所の江馬博士から行われた。ティル博士は「ラットにおけるBPAの混餌投与による3世代生殖毒性試験」で、BPAを濃度で0.015〜7500ppmの範囲6段階で投与して試験した結果、生殖毒性および出生後の毒性の無毒性量は750ppm(50mg/kg/日に相当)であることが確認され、低用量での影響はなかったと報告。また江馬博士も「ビスフェノールAのラットにおける2世代繁殖試験」で、BPAを経口投与した結果、生殖及び発生に有意な変化は見られなかったと発表した。

低用量での影響の有無については米国EPAが、これまでの発表論文などを再検討しており、この結果は2001年3月に公表される予定だ。



▼コルボーン博士、「インナースペース」研究の取組み提起

こうしたテーマを抱えながら進んでいる内分泌撹乱化学物質問題だが、この問題への明確な視点を示したのがコルボーン博士の特別講演「体内小宇宙:インナースペースをより良く理解するために」であった。博士はこの講演で、受胎から出生までにどのようなことが起きるのか多くの知識が蓄積され、内分泌撹乱に関する研究は広範囲の分野にわたる新しい学問分野になったとし、だが、標準化された試験法がないことを含めて、全体的な取り組みがまだ弱いことを指摘した。

内分泌撹乱の問題では、その物質がそうした作用を持つのかどうかを試験する標準化された方法の確立が急務だ。現在、OECDやUS−EPAなどを中心に試験法の確立が急がれているが、博士は、これまで標準化法の確立が遅れていることについて、十分な資金が投入されてこなかったこと、研究者間の連携がないこと、試験法でのパテントを取ろうとする動きがあることを指摘した。とくに、この問題では多くの関係機関が集まってチームワークの良い共同研究をすることが必要なのに、研究者あるいは研究所間での競争がこうした共同研究を阻害しているとした。さらに国などの機関が治療などの研究には多くの資金を投入するが、予防の研究に投入したほうが経済的にも効果的であることを理解していないと、国家や産業界の姿勢を批判した。また、子供たちにいま現れている多動や学習能力欠如、肥満、暴力、自閉症など多くの事例を挙げ、こうしたシグナルに対して環境医学の必要性も指摘した。