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| 公開セッションに先だって開かれたポスターによる研究会でも真剣な質疑が交わされた |
▼期待したい日本人研究者による目玉発表
1、全般
一般人向けの公開セッションへ参加者は1500人と昨年度に比べて倍増した。参加者が大幅に増加した原因は、『奪われし未来』著者の一人であるコルボーン女史が特別講演されたこと、及び過去2回は京都、神戸と関西圏で開催されており、今回が首都圏での初めての開催になったことであろう。専門家向けセッションへの参加者は約700人で昨年並みであった。環境ホルモン学会の発表件数は320件で昨年より80件増加している。研究活動は活発である。一方、マスメディアの報道量は、昨年より少なく減少傾向が続いている。
私はいくつかの学会に顔を出している。どの学会も1回目、2回目に出席したときは興味津々だが、3回目になると毎年同じ内容だなと思うようになる。この国際シンポジウムも今年で3回目だ。今回は、まだ大型の研究報告(PCBやダイオキシンに関する5つの疫学調査結果や五大湖でのPCBなどによる野生生物の影響事例)が集められたが、来年は、新鮮で魅力ある研究発表を集めることは難しいかもしれない。そろそろ目玉になるような研究報告が日本の研究者から出てきて欲しい。日本政府は毎年70〜80億円という世界一多額の研究費を使っているのだから。
2、多摩川のコイのメス化
環境ホルモン問題の中で私がもっとも興味を持っているのは、多摩川のコイのメス化問題である。これについて重要な報告があった。井口ら(岡崎国立共同研究機構)が発表した、「都市下水処理水に含まれる女性ホルモン様活性の原因物質の同定」である。尿中に含まれる天然の女性ホルモンだけで女性ホルモン様活性の99%を占める。ノニルフェノールなどの合成化学物質の寄与率は1%以下だという内容であった。同様の研究結果はすでに他の研究者からも報告されており、現在では専門家の間では常識になっている。
しかし、「多摩川に棲むコイがメス化している。その原因物質はノニルフェノールではないか。」と発表し、環境ホルモン騒ぎの火をつけた井口らが「原因物質は、実は人の尿に含まれる女性ホルモンでした。」と報告した意味は大きい。コイがメス化していると、3年前は繰り返し大きく報道したマスメディアが、今回の報告は取り上げてはくれない。そのため一般国民は、ノニルフェノールなどの合成化学物質が原因と思いこんだままである。
和波ら(都環境科学研)は東京都内の河川に生息するコイについて調査し、次のとおり報告した。雌雄の比は概ね1:1であった。下水処理水放流口の近くでメス化の指標となるビテロゲニン(卵黄になる蛋白)の検出率が高い。私は和波らの研究が好きである。野生生物について議論するには、とにかくフィールド調査が原点だと思うからだ。引き続き調査研究をお願いしたい。
▼浮き彫りにされた「環境ホルモン」と「内分泌攪乱物質」の違い
3、ホルモン様物質と内分泌攪乱物質
ホルモン様活性があるからといって内分泌攪乱物質であるとは限らない。ホルモン様活性によって通常より低い量で毒性が出るものが内分泌攪乱物質だ。現在OECDや米国でスクリーニング試験として開発中の試験方法は、ホルモン様物質を見つける方法である。内分泌攪乱物質であるかを見分けるためには生殖毒性試験をしなければならない。生殖毒性試験とは、親動物に化学物質を投与して子への影響を調べる試験である。以上のことを菅野(国衛研)がわかりやすく説明してくれた。環境ホルモンの定義は、内分泌攪乱物質、単なるホルモン様物質、及びそれらの疑いをもたれた物質の集合となる。
ビスフェノールAやノニルフェノールはホルモン様物質であるが、内分泌攪乱物質ではないというのが、我々メーカーの主張である。弱いホルモン様活性をもつために内分泌攪乱物質ではないかと疑われているのだが、すでに生殖毒性試験を実施しており、ホルモン様活性による毒性のないことを確認しているからだ。
▼ビスAの低用量効果はメーカーの見込み通りだった
4、ビスフェノールAの安全性
環境ホルモン問題で、最近最も関心を呼んでいるのは、いわゆる低用量効果があり得るのか否かである。「ビスフェノールAについてマウスを用いて試験したところ、これまで安全と思われていた量の千分の一程度の量でも影響が出た。すなわち、実際に人が摂取している量でも影響が出る。現行の安全基準を見直す必要がある。」とフォン・サールは主張する。この試験結果については2ヵ所の試験機関が、より信頼度の高い試験を行い、再現できないという結果を得たことで決着が付いたと思っていた。しかし、昨年のシンポジウムでフォン・サール以外の研究者からも低用量効果が認められるという報告がいくつか発表され、それに対してメーカー側が適切な反論が出来ず、もしかしたら問題かもしれないと一般の学者にまで受け取られてしまった。
今回は、日米欧のビスフェノールAメーカーがこれらの不安に答えるべく実施した生殖毒性試験の結果が発表された。通常の生殖毒性試験の費用は5千万円程度であるが、今回の試験は2億円もかかっている。使った動物(ラット)の数も9,650匹と膨大なものとなった。大がかりな試験となったのは、低用量群も加えたため6用量群と通常の倍の群数になったこと、親から子、孫、曾孫まで4世代にわたる試験を行ったこと、女性ホルモン様作用を検出しやすくするための検査項目を増やしたなどが理由である。結果は低用量ではビスフェノールAによる影響は認められず、従来の許容摂取量が正しいことを確認したものであった。また、日本の厚生省もビスフェノールAの低用量での2世代生殖毒性試験を実施しており、ビスフェノールAの影響が見られなかったと報告した。これらのことは一部のメディアを除いて報道してもらえなかったが、出席した専門家にはビスフェノールAは問題なさそうだと感じてもらえたと思う。そう思いたい。私はビスフェノールAメーカーの毒性担当でもあるので、この項はいささか宣伝臭くなってしまったがご容赦願いたい。
5、研究発表者へのお願い
研究発表者にお願いしたいことがある。科学者らしく、結論は謙虚に、発表はフェアにというお願いである。
こういうシンポジウムに出席して一番違和感をおぼえるのは、化学物質による環境汚染が年々悪化しているように説明する研究者がいることである。日本では1970年が環境汚染のピークで、その後は改善されてきているのが本当の姿である。「このまま環境が悪化していったら大変なことになる。」のではなく、「昔に比べて環境汚染は改善されたが、まだ十分ではないのではないか。新しい視点で検討する必要がある。」というのが環境ホルモン問題だと思う。
また、会場には各方面の第一級の専門家が出席しているのだから、発表者は自分が行った試験結果、自分の最も得意とすることだけを説明すべきだと思う。ところが、本題に入る前にノニルフェノールは有害な物質であると強調したり、些細な実験結果から日本人女子の初経が早まっているのはビスフェノールAが原因であるかのような飛躍した結論を述べる先生がいる。科学者ではなく、アジテーターではないかと言いたくなる。
パネルディスカッションの座長は酷かった。自分の考えに近い人にだけ発言させていた。座長に指名されることは名誉なことである。それだけに期待を裏切らないでほしい。
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