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映画:エリン・ブロコビッチ

=『エリン・ブロコビッチ』を観る=
「環境問題」「裁判」がメインテーマなのに
底抜けに明るい典型的なアメリカ映画に

【誉 礼】 



なんとも"明るい映画"である。
配給会社がポスターなどでPRしているこの映画のキーワードは、「1993年」「離婚2回」「子供3人」「元ミス・ウィチタ」「失業中」「預金残高16ドル」「水質汚染」「3億3300万ドル」などである。これらを社会的要因に思い切って集約すると「環境」と「裁判」ということになろうか。それから想像するに、もっとシリアスで、暗いのではと実は観る前に言い聞かせて試写室に入ったが、観る前と観た後の気分がこれほど異なる映画にお目にかかったのは久々だ。筆者が高校生時代、いわゆる"映研"に属し、折からの3本立てを片っ端から観ていた時代に、ストーリーは二の次で、したがって鑑賞後あまり覚えていないものの、とにかく観た後楽しくなった往年のアメリカ映画の本来もつ明るさ、たくましさを存分に感じさせる映画と言って良い。老若男女、各界各層の幅広い人たちにお勧めしたい作品だ。

実際に起こったことであり、実在の人物が体験したことを「ほとんど脚色せずに作った」(脚本担当=スザンナ・グラント)という。 もっとも、エリン本人が指摘している「私はいつもブラのひもを肩から外に出していたようなことはしなかったわよ」程度の脚色はあったようだが、エリン・ブロコビッチ自身も出演(レストランのウェイター役)していたり、ロケーションも実際の場所で行われ、エキストラの多くも実際の事件に関わった人たちが出演しているというように、スティーブン・ソダーバーグ監督は徹底的に「事実」にこだわった。

エリン・ブロコビッチ
エリン・ブロコビッチ
ストーリーを簡単に紹介しよう。
主人公エリン・ブロコビッチは元ミス・ウィチタ。写真のように主役を演じるジュリア・ロバーツ顔負けのグラマー美人だ。しかし、生活環境は金(故に「預金残高16ドル」のキーワードになる。以下同じ)も仕事(同「失業中」)もなく、おまけに「離婚2回」(同)の「子供3人」(同)を抱えるという、いわば八方ふさがりの状態。その上、交通事故をもらってしまう。事故は相手が信号を無視して突っ込んできたのに、駆け込んだ弁護士(これも実在の人物、エド・マスリー)は和解金さえ取れない。さらに、子供の面倒を頼んでいた隣人が引越すので面倒をみれないというつきのなさ。(もっとも、その後に引越してきたライダー風の男が面倒をみてくれ、彼女の人生が光り始めるきっかけになる)。

しかし、ここからエリンのなりふり構わない行動が始まる。マスリー弁護士の事務所に押しかけ勝手に仕事を手伝う。 しぶしぶ雇うマスリー弁護士。こうして、後に法律の練達とダイナマイトのようなバイタリティとセクシーな容姿と服装と男性顔負けの隠語を操り相手の度肝を抜くエリンの奇妙な、 しかし強烈なエドとのコンビが成立する。
挑発的な服装と言動で事務所の同僚のひんしゅくをものともせず、エリンは退屈なファイル整理をさせられるうちに、ささいな不動産案件の書類に医療記録が含まれていることを見つけ、不審に思う。 大手電力・ガス会社PG&E(Pacific Gas&Electric Company)がロサンゼルス郊外の砂漠町ヒスクリーである住民の土地買収を企てていたのだ。動物的な直感でエリンはこの件の調査をマスリー弁護士にOKさせる。

映画:エリン・ブロコビッチ
それからエリンの八面六臂の活動が始まる。買収対象の土地の所有者はもとより、毒性学者に会ったり、水道局の職員から色仕掛けでデータを引き出したりする。その結果、PG&E社が人体に有害な6価クロムによる水質汚染の事実を隠蔽しようとしている企みに気付く。地味な弁護士のマスリーは相手が巨大会社だけに及び腰だが、エリンははっぱをかけ、最終的に地域住民634人全員の同意書を走り回って取り付ける。そういう中でストーカーまがいの男が酒場で「PG&Eで働いている時、水質は汚染されているが、その情報を洩らしてはならない」との重要文書を処分させられたとリークしてくれる。曲折を経て、最終的に和解に持ち込み、米国史上最高額の「3億3300万ドル」(同。約350億円)を勝ち取り、エリン自らも2億円以上の破格のボーナスを手にする。
「1993年」(同)に実際に起った訴訟事件である。

アメリカでは3月に公開され、最新情報によると、初登場で3週連続トップの人気で、1億ドルの興行成績を上げているという。主演のJ.ロバーツは早くも来年のアカデミー賞の最有力候補と言われている話題作である。 さて、主人公エリンを"シンデレラ・ガール"と称する論評があるが、むしろ"ジャンヌ・ダルク"と言った方がフィットするのではないか。インタビューで住民たちがエリンについて語っていることも興味深い。雑誌『ピープル』から紹介しよう。

  • いわく「短い期間にこんな巨額のお金を勝ち取ったのは奇跡です。エリンは重要な役割を果たしました。エリンが車から降りるとき"私の神様"と思いました」(住民。V.ブルース夫人)
  • いわく「たとえエリンは言葉使いが悪くても、理屈がどうあろうと素晴らしかった」(ブルース夫人の姉。J.ナイト夫人)
  • いわく「エリンは強い意思を持ち、執着心がある女性だ。彼女のあらゆる面、例えば超ミニスカートまで私は学ぶべきだ」(現在の3人目の夫。俳優。E.エリス氏)
ところで、本人がこの訴訟中に、サンプルの汚染物と接触したのが原因で鼻に腫れ物ができてしまったことはあまり知られていない。文字通り身体を張って奔走した証しでもある。この勝利を契機に彼女には(弁護士でもないのに)その後7件もの訴訟が持ち込まれていて、今も大忙しとか。


写真提供:ソニー・ピクチャーズエンタティメント
2000年/コロンビア映画・ユニヴァーサル映画提供/ ジャージー・フィルムズ製作/ソニー・ピクチャーズエンタティメント配給
上映時間2時間11分
5月27日から松竹系映画館で上映中。