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「塩ビとダイオキシン」公開シンポジウムに多くの聴衆

「是」と「非」の両者が初の同じテーブルにつく
"科学的事実"の伝達めぐって白熱した応酬も




全国103の団体で構成する環境ホルモン全国市民団体テーブル主催の公開シンポジウム「塩ビとダイオキシン」が3月9日午後1時から4時半まで、 東京・日比谷の日比谷公会堂で約1200人の聴衆を集めて開かれた。同団体テーブルが"ダイオキシン・ゼロ宣言 NO!塩ビキャンペーン"の一環として、 「塩ビ是か?非か?」というテーマで企画したもので、パネラーは塩ビ業界代表と研究者、市民団体代表の4氏。 いわば是と非の両者が同じテーブルにつき、しかも多くの聴衆を前にしての公開シンポジウムは初の試みのため、多くの報道陣もかけつけた。 

シンポジウムは野田克己氏(大地を守る会)の司会で進められ、各パネリストの20分の基調発表、補足発言、聴衆からの質問などが約3時間よどみなく行われた。4パネラーの発言要旨次の通り。


先人の知恵、日本社会の柔軟性に期待したい

▼佐々木修一氏(塩ビ工業・環境協会専務理事)

  • 率直なところ、塩ビ業界は社会とのコミニュケーションがうまくなく、また十分でない。科学的に正しい情報を伝えてこなかったと反省していることをまず冒頭に申し上げたい。そこで、せっかく与えられた機会なので本日は科学的根拠に基づいた話をできる限りしたい。
  • ところで、みなさんの理解度を知りたい。非塩素系ラップを使った後に小型焼却炉で燃やしたらダイオキシンは発生すると思うか? 塩ビは他のプラスチックに比べてエネルギー消費は小さいと思うか?(などについて問いかけ、聴衆に挙手させる)。みなさん、正しい認識をもっておられる。
  • そこで、初めに申し上げたいことは「先人の知恵に学びたい」ということだ。科学的事実というスタンスでまず説明したいのが大阪府立衛生試験所が1973年以降測定し続けた母乳に含まれるダイオキシンのデータで、95年までの12年間に明らかに減っていることを示している。二つ目は、市民や行政が一体となってごみの抑制および焼却システムの向上に努めた結果、ダイオキシンの発生が顕著に減少したという事実。そして三つ目は、硬質塩ビに含まれるフタル酸エステル(DEHP)は危険だという指摘に対して、米国の科学者が医療器具では塩ビがもっとも安全とするアピールや欧州の一部の国で行われている乳幼児の玩具への規制に対して科学と環境フォーラムや米国環境庁(EPA)が新規ガイドラインで「DEHPが遺伝毒性を有しない」と再考察した事実などを上げたい。
  • 次に、「日本人の知的情熱と日本社会の柔軟性を尊重したい」ということを申し上げたい。我々日本人には他人の痛みを分かち合うシンパシーが根強くあるはずだ。安全・健康・環境を願う点では一致しているはずで、短絡的・刹那的でなく、科学的にものを考え、対策を講じるべきだ。例えば、行政や企業の目の届きにくい対策、たとえば野焼きなどの規制などは市民のネットワークが必要だし、非塩素化が叫ばれているが、素材を非塩素化することによって本当にダイオキシンは減るのか? かえって、エネルギーを浪費することにならないか。それよりもプラスチックをごみにしない、有効利用することの方が肝要ではないか―と、申し上げておきたい。
  • そして、「将来に責任をもつこと」を強調しておきたい。とくに"分からない"ということからくる不安を残さない努力、塩ビはリサイクルの先駆者としての自負を糧に、いっそうリサイクルを進めるという努力、使用済み塩ビに含まれる成分全てが工場で利用され、生活に戻ってくるような工夫を凝らす努力など、塩ビ業界はより一層努力して行きたいと考えていることを理解して欲しい。


行政はダイオキシンの発生原因をあいまいにしている

▼植村振作氏(大阪大学大学院助教授)

  • 情報のレベル合わせのために、最初に「塩ビとは−」について申し上げる。塩ビとは、樹脂単体では成型できないもので、何らかの可塑剤を加えないと体を成さないものである。そして、その添加剤なり可塑剤なりの一つが問題なのだ。
  • 素材としては酸、アルカリに強いのでとくに容器などの用途では強みを発揮し、また対候性もあり、自己粘着性があり、電気絶縁性がよい−などの特長をもっていることは事実だが、加熱(燃焼)することによって問題が出るところに問題がある。
  • 次に、ダイオキシン汚染問題の捉え方だが、ダイオキシンとは何か? 汚染の状況はどうか? どのような対策をとるべきか? などがあるが、その中で「何が原因か?」という点を行政はあいまいにしており、この点が大変問題だ。
  • 環境中のダイオキシンを見ると、1940年代から明らかに増えており、これは日本の産業構造の変化や化学工業の発展と明らかに深い関係があり、その主な発生・汚染源も火災によるもの、生産活動によるもの、交通機関によるもの、農薬などダイオキシンを含む物質の使用によるものであるが、もっとも問題なのは廃棄物燃焼処理にともなう発生で、この点について佐々木氏は科学的事実が伝わっていないと言われたが、伝わっていないのではなく、ねじれて伝わっている、あるいは伝えていないのだ。
  • 塩ビ工業界はこれまで塩ビと社会の関係でこれこれに貢献しているとか、塩ビとダイオキシンについて、塩ビを除いてもダイオキシンは発生する、食塩から塩化水素が発生することなどを上げ、「塩ビは社会に貢献しており、都市ごみ焼却時のダイオキシン発生の元凶ではない」と主張しているが、これは間違いだ。
  • 塩ビ環境対策協議会が96年の実験結果として、塩の含有量と排ガス中の塩化水素の発生をグラフにして公表しているが、この実験には活性白土を使用しないとこうならないのに、そのことはどこにも書いていない。科学的事実を意図的に伝えてないと思わざるを得ない。
  • 以上の結果、塩ビの使用削減・中止、生産の削減・中止、ソーダ工業の変革と化学製品多量消費社会の見直しを主張したい。


「脱塩ビ社会」のために総合的な判断不可欠

▼藤原寿和氏(「塩ビとダイオキシンを考える」東京市民会議事務局長)

  • 結論を先に申し上げると「脱塩ビ社会」を改めて提案したい。そして、その場合、製造から使用・廃棄・処理・リサイクルまでのリスクを含めて総合的に判断する必要がある。
  • とりわけ、原料のモノマーの製造段階で"塩ビ病"が発生している。これについては、否定論もあるが、十分に立証されていないまま今日に至っている。
  • 使用段階や廃棄段階での環境汚染や健康障害が発生している。発生していないはずがない。今すぐ発症するかは別として、このままでは必ず悔いを残すことになる。そして、これ以上災いを広げない未然の防止が必要不可欠だ。
  • リサイクルの率がただ高くなれば解決するわけではない。なんといっても、使わないことが根本的な対策だ。
  • 塩化水素の発生を中心に塩ビ論争はすでに20年続けられている。しかし、業界は「塩ビは主犯ではない」といった責任逃れの主張や、「ダイオキシンの発生は燃焼の仕方が悪いからだ」といった無責任な主張の繰り返しで、不毛な論争になっている。いい加減に終止符を打つべきだ。あくまでそういう主張をするのなら、業界自らがドイツのように処理すべきだ。
  • フタル酸エステルについて、デンマークを初め欧米各国は規制している。なぜか? を考えるべきだ。
  • 具体的には@実験条件を統一して共同調査を提唱する。A行政や産業界は非塩ビ材への転換が進むよう代替素材の開発を積極的に進めるべきだ。B行政が率先して塩ビ製品の使用を止めるべきだ。C塩ビ製品の表示および可塑剤・安定剤等添加剤の種類・量の表示や告知の義務化と塩素税などの賦課を行うべきだ。D中長期的には塩素産業を転換し「塩素サイクル」の見直しをすべきだ。E海外で操業している塩ビ工場の操業実態や影響、製品の移動状況などを公表すべきだ−などを提案したい。


短所だけで"塩ビ主犯説"は短絡的過ぎる

▼原田 浩氏(塩ビ工業・環境協会環境委員会渉外部会長)

  • 塩ビを評価するには、良い面、悪い面を総合的に考えて評価して欲しい。
  • 焼却時のダイオキシン発生抑制には、燃やすものを抑制するよりも燃焼条件、燃焼設備を管理する方がはるかに合理的・効率的であることは明確だ。ダイオキシン発生を理由に塩ビを排除する考え方は不合理だ。科学的ということで言えば、塩ビとダイオキシンの問題はないとする文献もあるとするものと同じ量はある。
  • フタル酸エステル類などが環境ホルモンとして疑われているが、現時点でこれによる被害は観測されていないし、科学的には影響ありとの結論は得られていない。だから、問題ないと言い張るわけではない。欧米と協同して調査研究を続けて行きたい。
  • 塩ビ業界はリサイクル技術の開発と実現に向けてさらなる努力を続けて行くが、リサイクルという点でデータを少し説明したい。日本のプラスチックの全生産量は1500万トンで、うち国内は1100万トン強、廃棄されるプラスチックは950万トンで、うちリサイクルされるのは400万トン、マテリアルリサイクルされるのは113万トンだ。これは12%に相当する。これを塩ビで見ると、国内生産は250万トン、国内消費は200万トンで使用済みは120万トン強、残りは10年、50年と長く使われる。うちリサイクルされるのが38万トン強で、マテリアルリサイクル量は23.7万トンと19%になっている。もっともマテリアルリサイクルが進んでいるということがお分かりいただけると思う。
  • もう一つダイオキシンの発生量について数字を申し上げたい。平成9年から10年にかけて厚生省や自治体のご努力で、わが国のダイオキシン発生量は6300グラムから2900グラムに減った。主因は、一般廃棄物焼却炉からの発生量が4320グラムから1340グラムと3分の1になったためだ。それでは塩ビが3分の1になったかというとそうではない。これで(塩ビとダイオキシンの発生が)関係あるかと言えるか、と申し上げたい。
  • 確かにデメリットもある。しかし、長所も十分にあるわけで、短所だけで排斥すべきではない。"塩ビ主犯説"はぜひとも考え直していただきたい。




これらの基調発表の後、質疑があり、最後に4パネラーは補足説明を含めて、次のように総括した。
植村氏 分子量の長いものを作る必要があろう。これからは、今のように塩ビは作れないのではないか。棲み分けを考えるべきだ。いま塩ビ業界がしていることはかつて水俣病事件の時の 化学業界(日本化学工業会)のように思えてならない。水俣病事件の二の舞は絶対に避けるべきだ。
佐々木氏 意見広告の中にフタル酸エステルについて「環境ホルモン物質と指定されている」という表現があったが、欧州の科学者の「EUのフタレートへの規制決定は不当だ」というコメ ントをもう一度提示しておきたい。また、最新の情報として、オランダなどでの見解も"白"とする結果が出ていることを合わせてお伝えしたい。
藤原氏 塩ビだけでない。弗素系、臭素系などについても減らすべきだ。要は、いまの厚生省の維持・管理で本当に大丈夫かという原点だ。脱塩ビ社会についても、通産省が6、7年前に 塩素系はいずれは規制されると言っていたことで、なにも事新しい話ではない。
原田氏 新聞広告を最初見た時、"No.1塩ビ"と読んでしまい、素晴らしい広告だと思ってしまっ た(笑い)。今日のこのシンポジウムでも主張は異なるが、ダイオキシンを減らそうという ことでは同じ思いであると感じた。そこで"減らすのは塩ビじゃなくてダイオキシン"ということを申し上げたい。




レベルアップしたデベート。全国規模に広がることを望む
――公開シンポを傍聴して

この日の公開シンポジウムは、まず2月24日付の有力紙の1ページ全面を借り切った意見広告に端を発している。"No!塩ビ"のキャッチフレーズを全面に押し出したこの広告は、さながらアメリカの新聞のイメージを彷彿とさせる。 (しかも公開シンポジウムの翌日、こんどは業界側が有力4紙に全面広告を出したことでますますその感を強くした) そして、当日。写真のように、日比谷公会堂にはこの種の催しには珍しい長蛇の列が見られた。会場の雰囲気もなにか違う。後でパネラーの一人、大阪大学の植村さんが「きょうの(会場の)雰囲気はいつもの集会とまったく違う」と述懐していたが、 見るところ両"陣営"とも動員した感じが濃厚だ。とりわけ、No!塩ビと声高に運動されては死活問題になりかねないという危機感をもった業界の人と見受けられる中高年令層の聴衆が目立ち、事実、研究者として塩ビ否定論的な言動をしている植村さんに対して、 会場から鋭い声が飛び、植村さんも一部発言を訂正するなどの一幕もあった。おそらく市民グループの会だったら、このようなシーンはないだろう。 ただ、コーディネーターの公平な司会ぶり(たとえば発言順位をジャンケンで決めるとか)もあり、「申し上げたいことは申し上げ、聞いていただけたと思う」(佐々木さん)という業界側パネラーのコメントや業界人の実名入りで「さわやかなシンポジウムだった」 との意見も公開された通り、一部にかみ合わない部分もなきにしもあらずだったが、この種のデベートによくある一方的な罵り合いや意見陳述でなく、企画者が意図した「それぞれの立場の論点の明確化」はほぼ目的を達したと言って良いだろう。 各パネラーの控え目な表現、聴衆の節度ある態度がその要因である。 今後、こういう積み重ねをしていけば「塩ビ問題」のみならず、いま我々に欠けている「本当の話し合い」の生きた見本として、人々の間に浸透していくという副産物も得られるのではないかという感を強くした。この日、日比谷公会堂の外は寒風が吹いていたが、さわやかな気分で帰路についたのは私一人ではなかったはずだ。

【司 加人】





市民グループが出した意見広告
(2月24日付・朝日新聞)


塩ビ業界が出した意見広告
(3月10日付・読売新聞)




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