 テレビクルーも入る中で議論は伯仲した
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水俣病に関連する様々な研究成果を自由な立場で発表し、意見交換する「水俣病事件研究会」が1月8、9の両日、大阪で開催された。1日目は大阪市立大学で、2日目は海外技術者研修協会関西研修センターで開かれたが、医師、化学者、社会科学者、弁護士、市民運動支援者、ジャーナリストなど幅広い層が北海道から沖縄までの広域から約70名が参加した。96年に新潟県で開催されて以来5回目。
1日目は午前10時半から、幹事の木野茂・大阪市立大学理学部講師の開会あいさつに続き、来賓として児玉隆夫学長があいさつ、世話人を代表して原田正純・熊本学園大学教授が「水俣病事件は医学の領域だけに閉じ込める狭い問題ではないというこの研究会の意図を今回も貫いてほしい」とあいさつして、各発表に移り、2日目は午前9時から午後4時過ぎまで行われた。
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今回研究発表されたプログラムは次の通り。
〈1日目〉
- 「胎児性水俣病患者に対する手術の小経験」(整形外科医/所沢 徹)
- コメント「新潟における妊娠規制について」(熊本学園大学教授/原田正純)
- 「水俣病と動脈硬化」(木戸病院健診センター所長/斎藤 恒)
- 「阿賀野川・信濃川・関川の流水中の浮遊物の総水銀値」(河辺医院長/河辺広男)
- 「『水俣病に関する医学の略年表』について」(朝日新聞科学部記者/西村幹夫)
- 「水俣病医学における抹消神経症状の変遷」(古賀総合病院副院長/鶴田和仁)
- 「科学哲学から見た『水俣病の診断』」(岡山大学医学部/津田敏秀)
- 「阿賀野川流域における生活世界の変容」(長野県自然保護研究所/堀田恭子)
- 「水俣湾における初動態勢の反省」(環境カウンセラー・元千葉県水産部漁政課/松橋鐡治郎)
- 「写真を記録する側、また撮られる方の狭間で…」(報道写真家/桑原史成)
〈2日目〉
- 「『水俣病という病』をめぐって」(帯広畜産大学/関 礼子)
- 「企業犯罪とその制御−熊本水俣病事件からの考察」(奈良大学/平岡義和)
- 「水俣市民意識調査の分析から」(熊本学園大学/大野哲夫)
- 「認定裁決書はなぜ放置されたか」(朝日新聞社会部記者/杉本裕明)
- 「環境庁『水俣病に関する社会学的研究会』報告書の批判的検討」(元NHKアナウンサー/宮澤信雄)
- 研究会メンバーからのコメント(原田正純・宇井 純・富樫貞夫・高峰 武)
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各講師の講演エッセンスは次の通り。(文責:SW編集部)
- 所沢 徹氏:尖足拘縮(せんそくこうしゅく)やスワンネック変形などの手術を経験
したが、原因療法とならなかった。私見だが、若い人(年令的には40歳くらいまで)なら手術は施すべきだと思う。
- 原田正純氏:裁判で1965年8月に新潟県が頭髪水銀が50ppm以上の妊娠可能な女性78
人を対象に受胎調節指導を行ったことが判明した。それまでは知られていなかったことだ。水俣病とはそういう深い問題提起も行っているのだ。水俣でも調査はできないか提起したい。
- 斎藤 恒氏:頚動脈エコーの所見などを総合すると、メチル水銀の汚染は汚染後30年
経過しても動脈を硬化させている。生田教授が89年に証言された剖検所見でも水俣病の影響が大きかったことが推定できる。どうして30年たってもこうなるかはまだ解けていない。今後さらに追跡していきたい。
- 河辺広男氏:阿賀野川・信濃川・関川の3川で年間総水銀量の調査を行っているが、
川としてはもっとも短い関川の水銀量が最も多く、かつ増えている。環境庁の河川測定法は実態をつかめない方法なのではないか。
- 西村幹夫氏:なぜ現在から年表を始めているかというと、「水俣病事件」はまだ終わっ
ていないという認識からだ。とくに医学界のレビューはこれからだ。
- 鶴田和仁氏:神経内科の立場から「水俣病」を検証しているが、1940年にイギリスで
初めて4人のメチル水銀中毒患者の臨床記述がされたことは周知の通りだが、ハンターら3人の報告者の中には臨床医はいない。いずれにしても現時点ではまだきちんとされていないことが多い。
- 津田敏秀氏:実は「水俣病」の診断は難しくない。厚生省にデータを読む力がないだ
けの話だ。故に、学習や反省は生かされていない。
- 堀田恭子氏:人々はどうやって乗り越えたのか越えられなかったのか。日常生活から
「水俣病」を考えたい。
- 松橋鐡次郎氏:川崎製鉄・千葉の例や、本州製紙・江戸川工場の例などを見るにつけ、
いかに企業も自治体も事が起こった時の初動が大切かということが痛切に感じられる。とくに水俣においては漁獲量の激減を看過した罪は大きい。熊本県が間違ったことは明白だ。それが調停者ヅラするのは心外だ。
- 桑原史成氏:写真には撮った側に著作権があり、撮られた側に肖像権があるが、それ
は薄氷の上の関係だ。おそらく21世紀になると安易に他人を撮って発表することはできなくなろう。文化庁の判断もあるが、我々自身が考え、きちんと整理する必要がある。
- 関 礼子氏:新潟水俣病を捉える視点は様々なことが考えられるが、社会科学的見地
から考えると「ニセ患者差別」がある。また水俣病は終わっていないということだけでなく、なにが終わっていないのかを考える必要がある。
- 平岡義和氏:フィリピンのササール銅精錬所の公害問題を追ってきた。その過程で、
水俣病におけるチッソの行動イコール企業犯罪という図式が成立するの ではないかと考えるようになった。組織としての責任を問えるのではな
いか。いずれにしても、市民のパワー、世論が起訴にもっていく事ができたわけだ。
- 大野哲夫氏:99年1月から3月までに水俣市民2513人に意識調査を行い、1182票の
回答を得た。その結果、様々なことが浮き彫りにされたが、一つの顕著な傾向は年代によって「水俣病」に対する意識、認識が異なり、若い世代に「水俣病は終わっていない」という認識が多かったことだ。
- 杉本裕明氏:熊本県に水俣病の認定申請をして棄却され、環境庁に不服の申し立てを
していた元チッソの男性社員(故人)とその家族に、環境庁が認定の裁決書を作成しながら、交付しないで放置していたことを記事にしたが、要約すると、熊本県の猛反対によって環境庁が決断ができず、明るみに出るまでは動かなかったり、官僚機構上の問題がネックであった。
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ハイライトは最後の講演者の宮澤信雄氏が昨年12月に国立水俣病総合研究センターが主導して「水俣病に関する社会科学的研究会」名で作成・公表した『水俣病の悲劇を繰り返さないために−水俣病の経験から学ぶもの』と題する報告書をめぐる批判であった。
まず宮澤氏は、この報告書をまとめた「水俣病に関する社会科学的な研究会」の姿勢について取上げ、@行政の無策を正当化したにすぎない。「奇病発見以来12年を要した」がこの12年間は原因究明過程ではない。「行政」はすべきことが分かっていながらやらなかったのだ。A「法的責任」を気にして、大事な事実を無視したり曲げたりしている。B通産省、熊本県への遠慮と庇い立てが目立ちすぎる。早過ぎる報告書だ。(報告書の冒頭に"参考"として掲げている)総理大臣談話(平成7年12月15日付)と同じレベルだ――と、この報告書の基本的なスタンスを批判した。
そして、内部の具体的検討に論を移し、もっとも大事だった初期の対応の叙述の少なさや、「第5章 考察と教訓」はとくに問題で、「重要さの考察・教訓がない」とし、さらに1957年7月、県の対策会議が食品衛生法の適用を決定したにもかかわらず、告示・適用されなかった事実や、認定制度発足のくだりでは「審査を受けようとする患者は…」を「見舞金を求める者は…」と変えて、本人申請を正当化しようとしていること、住民検診実施にまったく触れていないなど、事実誤認や脱落部分を具体的に指摘し、最後にこの水俣病事件研究会のメンバーから4人も加わっていることを「残念に思う。この報告書を書いた責任は誰が負うのか」などの問題点を指摘するとともに、訂正や書き直しについて迫った。
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| 質問に立つ日吉フミコさん・元水俣市会議員は84歳だ |
これらの指摘について同調する意見が数人から出された後、委員に名を連ねた原田、宇井、富樫、高峰の4氏がそれぞれ弁明した。要約すると、@具体的な指摘は宮澤氏の指摘通りである。事実の詰めが甘かった。A委員のスケジュール合わせは至難の業で、ほとんどが休日・祝日だったが、既存の資料を使いこなし書上げる余裕はなかった。B初めは1年でやってほしいとのことだったが、やってみると2年半かかった。走りながらの議論で、本当は5年はかかる仕事だと思った。C「教訓」についてもすべて議論していない。D公表した以上は事実誤認の訂正はともかく、基調を変える書き直しなどは不可能だろう。E心打つ文章だ、良くやったという評価も少なからず寄せられていることも事実だ――などであった。
さらに、これをベースに英文版が発行される予定についても明らかにされたが、このまま翻訳されたら国際的に大きな誤解と問題を生む懸念も複数の参加者から指摘され、具体的にどうするかは世話人会に委ねることで討議を終了した。
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全体を通じての感想は、盛り沢山の発表で、研究成果のはん濫という感じであったが、率直なところ各界各層の人たちが様々な切り口でいぜん「水俣病事件」に真摯に取り組んでいる姿勢には感銘を受けた。とくに、ハイライトとなった"国水研報告書"をめぐる議論は率直で、この研究会の性格を反映していて心地よい議論だったし、これまで"攻め"一方だった4委員たちが"守り"一方に回ったのは他では見られない風景だろう。ただ、発表者も参加者も総体的には年齢が高く、もっと若い層が参加する方向につなげていく努力がより必要ではと感じた。しかし、全体的には実りある2日間だったといって良いのではなかろうか。
(司 加人)
=次回は来年1月、水俣で開催予定=
水俣病事件研究会事務局によると、次回第6回研究会は2001年1月13、14の両日、水俣で開催する予定。事務局は熊本学園大学。
=メールかFAXで「報告書」入手できます=
国立水俣病総合研究センターが水俣病に関する社会科学的研究会報告書『水俣病の悲劇を繰り返さないために−水俣病の経験から学ぶもの』(郵送料・実費とも同センター負担)を提供してくれることになった。但し、1人1部で、申込は下記のメールかFAXへ(電話は受け付けない)。《さうすウェーブ》で見たことを明記のこと。
●国立水俣病総合研究センター/国際・総合研究部社会科学室
〒867−0008
熊本県水俣市浜4058−18
Tel 0966−63−3111 Fax 0966−61−1145
E-mail:tazusa@nimd.go.jp
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