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【第7日/ついに手術。8時間半に及んだとか…】
泣いても笑っても手術の日だ。前夜の下剤の効果もあって便を出し切る。AM8:40、右腕に筋肉注射され、Sナースにベッドを押されて手術室へ。心配顔の妻に手を振り、
エレベーターで階下に下り、手術室へ入り、ストレッチャーに移されたところまでで手術前の記憶は途絶える。
したがって、以下は術後、Dr.Nから妻が伺った説明(要約)である。後で自分自身も聞きたかったので事前に了解を得て、先生の話を録音させてもらった。
- 手術は無事終わった。バイパスを3本、右と左の前と後に通した。左の前の方には胸の後の血管の大動脈を使って、あとの2本には右足から取った静脈を使った。
- 糖尿病のため、右の冠状動脈というところが全体に壁が厚いという感じで、動脈硬化になっていた。強かった。右の冠状動脈は2ヵ所太そうなところを開けたが、内壁はボロボロなので、そこは閉じて、もう少し先の方につないだ。したがって、少し余計に時間がかかった。
- 今、心臓は良く打っていて、血圧は136、脈拍は130で問題はないが、気になるのは頭の問題で、心臓に動脈硬化があれば当然頭にもあるだろうということで、頭にもしものすごい動脈硬化があると、手術を境にして脳梗塞などを起こす人もいる。(これからですか?という妻の質問に対し)起こすとすればもう起こしている。
ただそれは、いまは分からない。可能性があるということだ。
今は麻酔をかけて眠っているので判断できない。明日の朝くらいには麻酔は醒めるはずだから、その時に例えば左手が動かないとか、右手が動かないということになればそういうことが起こったと考えなければならないが、今は判断できない。(手術を)やった全体の感じとしては、あまり問題はないと思う。
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 (Y研修生のイラストから) |
- で、1回心臓を止めて手術をしたので、人工心肺というのを使った。そうすると、血の塊が落ちる。心臓の周りに血が貯まってしまうと、心臓が打てなくなるので、心臓の周りに血が貯まらないように、もし出たら外に血が出るように施してある。ただ、何かの原因でお腹に出血するということもなくはないので注意している。今のところはない。
- 輸血はしていない。すべて本人の血液で終了した。明日、明後日にかけてもう少し血液が薄まってきて、
ヘモグロビンが下がってくるが、それがあまり下がるようだと(血液を)入れなければならないが、もう少し頑張ってもらおうかと思っている。ただ、あまり我慢しすぎて幻覚など見ちゃうといけないので見極めたい。
- 今は麻酔がかかっているので、人工呼吸器で息をしているが、酸素濃度がいいとか、咳ができるとかにならないと、痰がつまって肺炎になったりするので、それらを見極めたい。
- (今後の注意事項などの質問に対して)糖尿病だから動脈硬化を起こしやすい。ということは、バイパスした血管にも動脈硬化は起こるということで、糖尿病を軽視してはいけない。タバコを吸ったり、コレストロールが高いのを放っておいたりすると早く詰まる。あとは内科の先生と良く相談をして欲しい。
- まあ、人それぞれの生き方だが、あれしちゃいけない、これ食べちゃいけないとかばっかり言ってると、ストレスで胃がんになったりする。それじゃあなんのために手術したのか分からなくなるし、全然違う所で足をすくわれたりする。ある程度は許容してやらないと…。但、基本的には患者さん次第だ。
少し長くなったが、後でテープを聞き返すと、かなり脅かされている?感じがしないでもないが、とにかく今は感謝していることは言うまでもない。
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《気がついたこと (2) : 録音の勧め》
ところで、先生の説明を録音するというのはあまりないらしい。しかし、ぜひ
お勧めしたい。というのは、術前の患者自身も術後の患者に近い者もほとんど
の人がまずは平常心を保ってインフォームド・コンセントなり、手術結果なり
を聞けない(その辺は先生の側も理解されていると思う)。そういう状況下で
生命にかかる大事な話を口頭だけで済ませるというのはいかがかと思うわけ。
ましてや、術後の説明などは患者本人が聞けるものではないので、余計、大事
な話はテープに取っておいて、後でゆっくり聞かせてもらうべきではないだろ
うか。むしろ、病院の方で患者側の意向を聞き、望むのならシステム的に録音
して、そのテープを患者側に提供するということがあってもいいのではないか
とすら思う。もはや、カルテを公開するという時代なのだから。
それによって、失礼ながら先生の方も話し方などについて、より工夫がされる
のではないだろうか、と考えるがいかがだろうか。
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手術後
【第10日/麻酔から醒める。さながら地獄から戻った感じ?】
素人判断で恐縮だが、麻酔は非常に良く効いたように思える。術前の右腕の筋肉注射を最後に、「その後の時間・曜日・前後左右の風景などいっさいが混濁している」と、術後3日目のメモにあやしげな字で記してある。「Dr.H、Dr.S、ICUのT婦長、ナースMには迷惑をかけたようだ」とも…。(方々にはこの場を借りてお詫びしたい)
自分の頭の中でこの術後の2日間を懸命に思い出してみるが、どう考えても幻覚としか言い様がない断面と、辛うじて記憶として残っていることが何の脈絡もなく思い出される。先生方やナースさんたちに素朴な質問をぶつけてみるが、スカッとした答は得られなかった。
ただ、みなさんの説明を総合すると「心臓麻酔はもっとも強い麻酔なので、錯乱、幻視、幻聴などを起こす
“譫妄(せんもう)現象”といわれる症状に陥ったのではないか。いわゆる麻酔が醒める時に引き起こす幻覚と
ICU症候群の典型」ということのようだ。どうしてももう少し麻酔のメカニズムについて知りたくて、数日後、外出許可を得て近くの図書館で調べたが、麻酔をめぐるメカニズムはまだ未知の部分があるようだ。いずれにしても、50数年の人生の中で幻覚は初めての経験だけに興味深く感じ、今後の私的研究テーマにしようと思う。
それにしても、目覚めるまでの喉の渇きは半端じゃなかった。与えられた氷のおいしかったこと!
長い一日だったが、この日はAM9:30からDr.Sにより腹、右手、首に入れられていた管がすべてはずされ、ICUの若いナースさんたちが「あり得ない」と言っていた便意もにわかに催し、歩行禁止のためベッドサイドですますなどの初体験も加わった。
そして、告げられた時間よりも1時間余り遅れたものの、陽光サンサンたる普通病棟に移された時には、いささか大げさに聞えるかもしれないが、地獄(ICU)からシャバに帰った感じがした。
後日、何が違うか考えた。ICUで聞える音が気になった。気にしてみると、病院って意外に音があるものだ。
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《気がついたこと (3) : 病院の音 》
この世の中、音のない世界なんてあり得ないのだが、音にも"気になる音"
と"心地よい音"があるように思う。耳を澄ますと、病院にも結構「音」は
あるものだ。気がついた中で、最小の音は検温時の電子体温計の音。腋の下
にはさみ一定の時間がくるとチリリという音を発するが、秋の虫の音にも近
い。これは可愛い音だ。可愛いといえば患者が発する、いわゆるオナラにも
ひと様々というか、いろいろあって面白い。面白くない音も残念ながらある。
前回の検査入院時の経験だが、入った部屋はナースセンターに近かった。
昼間はあまり気にならなかったが、夜中、寝静まってから、まるで雷が落ちた
ような音が定期的にする。自動製氷機だ。氷ができる音、出来た氷が落ち出
てくる音。置き場所も考える必要があるが(これは病院の問題)、PL問題、
一種の製造者責任ではないかと思う。良くテレビで宣伝していた厨房機器
の専門メーカーのものだ。これが最悪だった。夜中と言えば、ナースセン
ターのナースさんを呼ぶ、あのピンポーンという音も場所によってはかな
りの騒音だ。一工夫あっても良いのでは。ついでに調子に乗って言わせて
もらうと、ナースが巡回の時に使う器具類を積んでくる車の音だ。まるで
平安時代の牛車のような音がする。来ましたよ、という情報発信かもしれ
ないが、メンテナンスの問題では。
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しかし、それもつかの間、少し厳しい表情でH主任から小型心電図を装着すること、歩くのはトイレまで、メニューに従いリハビリを行うこと−などを言い渡され、たちまち現実に戻る。
午後、家族と久々に会った感じがしたが、「なに言ってるのよ、毎日会ってたけど覚えてないだけよ」とぴしゃりとやられる。
【第11日/入院10日のダイエット効果は4キロ強】
朝一番に義務づけられたことは体重測定だ。寝ていても腹がへこみ、あばら骨が目立つのでどのくらい減ったか楽しみにしていたが、61.8キロと、入院10日にして4キロ強のダイエットということになる。
ただ、麻酔の後遺症か頭痛がしばらく続き、あまり食欲もない。腰痛もきつい。ベッドを柔らかい方に替えてもらうお願いをする。「検査(入院)で使うようになったら返してくださいね」と、ナースIに言われたが(後日、その通り取上げられた)、自分の腰にはソフトベッドが合う。効果はてきめんでその晩からとても楽になる。
【第12日/術後もっともきつい不快な1日を経験】
AM5:00くらいから計10回ほど胸に痛みが走る。腰痛もかなり厳しい。朝の検温では36.4度だが、氷枕がはなせない。腰にも当てて気分転換を図る。
PM3:00のDr.Sの回診では、いわく「手術の時、内胸膜をはがしているから、これからしばらく痛むかも」。
その後だった。強烈な便意があるのにどうしても出ない。ナースさんたちがメントールのホットタオルを
お腹に置いてくれ、瞬間的にはいい感じなのだが、なにせ古いコルクの栓がしっかり閉まっているような感じで、
トイレでふんばるが顔さえ出してくれない。便秘経験がないだけに余計苦しく感じる。悪戦苦闘すること2時間。
PM5:30ついに出る。苦しさの後の爽快さ…とメモにあるが、その字は大いに乱れている。
"不快な一日"のもう一つの現象は(またまた素人判断だが)幻覚の残りではないかと思うのだが、
眠っていると時々、唇に、あたかも冷たい水滴が一滴当る感じがすることだ。術後、麻酔が醒める過程で
味わったすさまじい乾きの中で与えられた一個の氷塊の冷たさと何か(深層心理的に)関係ないのだろうか。
これも要研究テーマとしたい。
【第13−14日/静脈を取った右足にむくみが出はじめる】
微熱状態が続く。おりしも日曜日で数人の見舞い客との対応も心では感謝しつつ、肉体的にはかなりの疲労感が残る。新たな現象として、バイパス用に切除した右足の静脈の末端(くるぶしを中心にして)がブヨブヨという表現が当てはまるほど腫れる。Dr.Sの説明は「どうしても動脈からきた血がいままでの静脈のルートがなくなったので、行き場を探していて、時間とともに他のルートに流れて行くけど、落着くまで出る現象」とのこと。少し右足を高くして寝ているように言われ、またかなり強い弾性をもったネットを与えられるが、時間の経過とともにひざ上のところが締めつけられる状態になり痛み出す。しかし、目ざとく見つけてくれたナースTがネットにはさみを入れ、締めつけを和らげてくれる。さすがベテランというべきか、ミセス・ナースの気配りというべきか。
そして、この日から2日後に再び便秘による"死の苦しみ"を味わうことになるのだが、ちょうど(ご本人には不幸だったが)この日から、病院直営の看護学校の学生さんが実習にきた。小生の担当はYさん。ミセスとか(2、3日後、結婚指輪をしたまま現れて判明)。
午後、ナースKによって久々の洗髪。手術の前日以来だからちょうど1週間ぶりだ。すこぶる気持良し。Kさんに言う。「ナースは床屋や美容師にもなれるね」。
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リハビリの一つというより最初のリハビリがはじまる。呼吸機能回復訓練なるもので、「スーフル」という器具を使うのだが、説明によると、普段何気なくやっている呼吸も病気の時や手術後には深くできないことがある(現に傷の痛さを意識して暫時できなかった。痰も出しにくいくらい)。浅い呼吸ばかりしていると、肺の中で使われない部分(無気肺)ができ、肺炎などの肺合併症を起こしかねない。この予防のために呼吸機能を回復させる器具が「スーフル」だ。ついているマウスピースを口に含み、鼻で呼吸しないようにノーズクリップ(早い話が洗濯バサミ)で鼻をはさみ(実際には省略したが)、ゆっくり、長く息を吹くとブゥーという音がする。良く言えば船の汽笛、あるいは楽器のホルン、悪く言えば誰かのオナラに似ている(これに最も近い?)。これを1日数回、1回当り2−3分繰り返すというものだ。初めのうちは結構苦しい。1日遅れで手術をした同室のNさんは体格が良いだけに、その音にも迫力がある。
(写真左・呼吸練習をするN氏)
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