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「心臓がちょっと心配」な熟年サンへ−V
―現実は厳しくバイパス手術に―
誉 礼  
【1】



2泊3日の治療でザッツ・オールのはずが、計25日間の入院になってしまった。ハイライトは8時間半におよんだ手術だが、術後にかつて経験しなかったことをいくつか体験した。人情の機微にも触れた。「手術が成功した暁には報告そのV」をお約束した以上、その責務を果たさなければならない。手術入院は治療入院とは異なるということも分かった。これから経験される方のために少しでもこのルポがお役に立てば幸いである。



「治療」と「手術」は基本的に異なると思ったのは、手術前と手術後の処置が大きく違うからである。「そんなことも知らなかったのか」と病院慣れしている先輩諸氏からは言われそうだが、30数年前に盲腸炎で手術・入院した経験しかないだけに、 他の病院との比較もできないし、あくまで今回入院したI病院で体験し、感じたままの独善的レポートであることを改めてお断りしておく。単日にこだわらず、入院中に気がついたこと、I病院のさらなるサービス向上を願っての"クレーム&アピール"も織込んだ。


手術前

【第1日/入院】

いつものパターンで午前9時までに外来の受付をすませるが、なぜか入院受付の業務開始が20分も遅れる。 多くの人がウロウロ、ブツブツ。一緒になってブツブツ言うのはやめようと自らに言い聞かせるが、今回の入院時の最初のクレームだ。 一通りの検査を受けたものの、特記することなし。入院時の体重は66.2キロ。


【第2日/完璧なインフォームド・コンセント】

今回の手術で大変お世話になり、かつしつこい質問にも常に笑みをもって対応してくれたDr.Sから手術にあたっての事前説明を受ける。「一口で言うと、虚血性心疾患といって、冠状動脈がかなり詰まっているので、冠状動脈バイパス術を施します。手術の方法は、まず足の大伏在静脈を切り取り、バイパスに使うのと、内胸動脈を同じくバイパスに使いますので、その取出しをします。そして、心臓をきちんと止めた方がきれいに(手術が)できますので、人工心肺により血液を送ります。所要時間は6時間プラスアルファーというところでしょうか。この手術のリスクは100分の5は(生きて)帰れない可能性があります。脳、その他の動脈硬化があると脳梗塞になったり、もう一つは感染症の心配もあります。このために事前に頭部と胸部のCTスキャンを行います。なお、手術中には輸血を必要とする場合があり得ますので予めご了承下さい。(血液については)十分にスクリーニングしていますが、予期せぬこともあり得ます。術後は3−4日はICU(集中治療室)、その後2−3週間リハビリ、最後にカテーテル検査をして退院というはこびとなります。したがって、要入院期間は約1ヵ月と考えて下さい」。

十分に納得できる事前説明と感じた。この間、約1時間だったろうか。夢中で聞いていたのであっという間に過ぎた感じだが、あとでメモに目を通すと、Dr.Sの語り口はソフトだが、内容はかなり厳しいことにも触れていることに気がつく。
また、触診の結果「少し雑音があるので、心臓のエコーと肝臓のエコーを近くやりましょう」といわれる。

この日の午後はかなり"充実した半日"で、早速1600キロカロリーの糖尿食の昼食をいただいた後、ナースYから、より詳しい問診があり、さらに1時間後に同じく「手術(全身麻酔)の注意事項」の説明を受ける。また、薬局のHさんからは薬の一部入れ替えの説明がある。要は、これまでは血液をサラサラにするための薬を中心に飲んでいたが、手術に備えてその逆の効用の薬に切替えることと、神経性胃潰瘍の薬が加えられたとのこと。


【第3日/エコー検査でニンニク臭にKO寸前】

AM6:00の検温は別として、8:30の採血から検査ははじまった。採血してくれたSさんは新人でとても初々しい。気分を良くしてエコー検査室へ移る。だが、9:50からはじまった胸部のエコー検査でがっくり。綿密にチェックしてくれるのはありがたいが、小さな部屋での作業なので、その検査員の多分昨夜食べたであろうニンニクの臭いが強烈で「はい、胸いっぱいに吸ってください」はいいのだが、肺の中がニンニク臭くなったのではないかと思えるほど。終わった瞬間、廊下に飛び出し数回深呼吸。なぜか病院のロビーの空気が新鮮に感じられた。


《気がついたこと (1) : 病院の臭い》

いわゆる病院独特の臭いは多くの人が経験していることなのでここでは省く。
この日のニンニク臭だけでなく、入院中気がついたことの一つに「臭い」がある。 やはり気になるのは口臭だ。口臭は誰にもあり、一概に攻めるつもりはないが、 入院中、看護婦さんたちに喫煙者が多いことが分かった。自分が吸わないことと、 入院中ということで神経質になっているためといえようが、食事の時のオシンコ の残臭など(当然、看護婦さんは歯を磨いているはずだけど)感じてほほえまし く思うこともあるが、とにかく患者はナーバスになっていることをお忘れなく。


CTスキャン
午後はCTスキャンだ。このI病院は77年に導入したとか。ちょうどSF映画に出てくる ような感じで、足を下に円筒の中にじょじょに入っていく。流れてくる音声もSFばりだ。 良く見ると、正円の中を360度回転しているものがあり、それからレーザーが発せられ、反対側で受けて"輪切り"にしていく仕組みのようだ。これにもドイツのSEMENSの名が入っていた。この間約15分。

(写真左・最新のCTスキャン)






【第4日/術後の各部署の説明ラッシュは逆にプレッシャーに?】

この日初めて執刀してくださるDr.Nの問診を受ける。発する言葉がユニークな先生だ。「(手術は主治医の)Dr.Hに言われていやいや受けるの? 痛いのいやでしょ? 痛くないようにするよ。医者を信じるしかないよ。便秘ない? あったら下剤もらって」。この間約1分。風のように来て、風のように去る。以後、Dr.風と命名する。 ところで、後から振り返ると、この日から術前の3日間にわたって計6人の人たちのごあいさつというか、ご説明というか(これもインフォームド・コンセントなんだろうが)来訪を受ける。こもごも話してくれたことはこんな感じだ。

  • やせ我慢するな。
  • 術前と術後の姿は違うけど驚くな。
  • 声が出ず、話ができないけど問題はない。
  • 入室後30分で意識はなくなりますよ。
個人を責めるつもりは毛頭ないが、こう入れ替わり立ち代りこられて、異口同音に「大丈夫ですよ、心配ありませんよ」と言われると、患者側は逆にプレッシャーになってしまうのではないか。
ただ、この一連のインフォームド・コンセントの最大の目的は、このところ世間で相次いでいる患者の入れ替えミス防止、すなわち彼女たちが患者の顔を見にくる。そう"面通し"にあるのではないか。こちらは、たとえ麻酔からさめても彼女たちは皆白衣を着て、マスクをしているのだから事前に会っても分からないのだから…。

ここで一つ紹介したいイラストがある。言葉の説明とともに、一枚の文書をもらった。題して「手術室のご案内」。はじめにこう書いてある。「私達は、少しでも安心して手術を受けて頂けるようにご案内させて頂きます」と。ご覧のイラストがどなたの作品かは取材しそびれたが、手作りで、ほほえましい。緊張している患者を少しでもリラックスさせようという心配りがヒシヒシと感じる。

手術室スタッフ
手術室の中の様子
手術室スタッフ
手術室の中の様子
(手術室のご案内)



【第6日/プレッシャー? 深夜に目がさめラジオを聞く】

これがプレッシャーというものなのだろう。前夜というか、手術の前日のAM2:30頃、目が醒めてしまった。どうしても眠れない。仕方なくFMしか入らないラジオを聞く。聞いたようなベテラン女性アナの声(あとで山根基世と分かった)と倍賞千恵子、浅丘ルリ子、勝新太郎、石原裕次郎、渥美清らの晩年のでなく、全盛期にレコーディングしたと思われる伸びのある声が流れてきた。"唄う映画スター特集"のようだった。間に、聴取者からの便りが紹介される。「カワセミは背中が美しい」とかそうではないとか。数時間後に手術を受ける身からすれば浮世離れした話に聞える。後で知ったことだが、この深夜放送、いまアダルトの間で人気を呼んでいるとか。なぜか渥美清の寅さんの主題歌に涙が溢れるのを止められなかった。まんじりともしないうちに夜が明けた。

この日のもう一つのエポックはなんといっても手術のための剃毛だ。前2回の経験である程度は慣れたとはいえ、こんどは違う。なんと全身の毛を剃るというのだ。ベテランナースのIさんはこちらの緊張をほぐすために絶えず話しかけてくれたが、いささか自意識過剰の当方は緊張のしっぱなし。全身と書いたが、本当に全身なのだ。腋の下も例外でなく、昨今、男のエステというものがあり、脱毛するそうだが、正直なところいい気持ではない。Iさんのカミソリさばきも時々手が滑って、その後の全身消毒を兼ねたシャワーでは相当しみた。でも顔中汗だらけにしてやってくれたIさんに文句は言えない。