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「環境紛争処理北京WS」(4)

 ル ポ




現場調査・2日目…… 懐柔県養殖場汚染事件現場
<ミニルポ> 昼休みにはおじいちゃんが迎えに…




 

現場調査・2日目

北京WSの最終日・第4日は、紛争現場への現地調査の第2弾として、午前から午後にかけて、北京郊外・北北東約50キロの村を流れる懐河で、上流の養豚場からの汚染排水により養殖していたアヒルが壊滅するという被害を受け、提訴の結果、勝訴。賠償金を獲得した「懐柔県養殖場汚染事件現場」を訪ね、現場と被害者の人たちの話を直接聞いた。               

【司 加人】

懐柔事件現場へ

【WS第4日】 2001年9月18日

美しい郊外を眺める間もなく車内で議論始まる

■09:10
この日の"主役"陸弁護士(中央)
この日も北京は気持ち良く晴れた。目指す現場、懐柔県は北京市の真北に隣接するが、その間約50キロという説明を聞いて、前日は往復600キロを走破しただけに、車内にはなんとなくほっとした雰囲気が流れる。 走り出して間もなく、「きょうの現場は川のほとりでアヒルを飼っていたが、上流にある養豚場の汚染排水でアヒルが死亡したという事件が起こったところです。 事件の担当弁護士の陸宏達さんをご紹介します。陸さんは英国スコットランドのダンディ大学で環境法を学び、マスターを取り、センターに弁護士としてもっとも早く支援に駆けつけてくれた人です」と王さんが口火を切る。 マイクを受け開口一番、陸さんからは英語での挨拶が。車内にどよめきが起こる。すらりとしたスタイル、ハンサムな顔にサングラスが良く似合う。「さすが、ダンディ大学…」との声も。



■09:20
ところが、ミスター・ダンディ、なかなか挑戦的であり、もっと言えば少しキザ。ご自分の実績を誇らしげに語るところに若さが溢れる。

「美しい北京の郊外にようこそ! こんなに美しい郊外ですが、流れる川はほとんど汚染されています。そのため、私たち弁護士は美しい環境を守るために何らかの貢献をしたいと考えています」
「これからご案内する現場は、川の流れが汚染を受けたところで、上流には国家企業の養豚場がありました。そのさらに上流には懐柔県の県庁所在地があり、そこからも生活排水など汚染物質が排出されていました」
「下流には何軒かのアヒルを飼っている農家がありました。99年に続々とアヒルが死ぬという現象が発生しました。農家はアヒルが死んだ原因は養豚場からの排水にあると考えました。ただ、そういう疑いは持ちましたが、本当に養豚場の排水という証拠は持っていませんでした」
「みなさんは専門家なので伺いますが、このような状況下で農家は養豚場を訴えることができると思いますか? ぜひ答えを聞かせてください」

沈黙が流れると、陸弁護士、再度促す。ようやく誰かが「できると思うよ」と答えると、すかさず「裁判に勝てると思いますか?」と畳み込む。「因果関係が立証できればね」と日本側。 えたりと、陸さん「この事件ではっきりしておかなければならないことはその点です。実は、証拠は何もありませんでした。日本にそのような例はありますか? 因果関係が証明できないのになぜ勝訴できたかお考え下さい」
挑発的な陸弁護士の話にややしびれを切らせた感じで淡路教授が口を開く。「中国へきて、被告側が立証しろということをさかんに聞いたが、それではないか?」
「そうです」と陸さん。「挙証責任の転換はすごく難しいです。なぜなら、アヒルの死亡原因はいろいろあるからです。ぜひお考えいただきたいのは因果関係の証明がないのに、あえて裁判所が原告の主張を正しいと認めたのはなぜかをぜひ考えてください」
「この裁判の過程で、養豚場側は一つの証拠を提出しました。それは現地の環境保護局が提出したものでした。すなわち、この川はすでにいろいろな汚染を受けている。そもそもこういう所でアヒルを飼うのに適していない、というものでした」



■10:00 
このあたりから、日本側も逆襲?に出る。村松弁護士が口火を切る。「短期間で大量のアヒルが死んだ。もし定期的に排水していたら、このように集中的に被害が発生するのはおかしいのでは?−という見方になるのでは」
陸弁護士「どうして集中してアヒルが死んだかは分からない」
こんどは加藤教授「その事実をもってして、ある程度の因果関係は推定できるのではないか?」
陸弁護士「だから、裁判に勝った」。いっせいに「ラッキーじゃない」の声と拍手。
「証拠がないのに裁判にどうして勝てたか?」。陸さん、さらに意気込んで紙に図を書いて身振り手振りよろしく熱の入った説明をしてくれる。

「ここが本流、こちらには支流が流れています。養豚場は両方に排水をしていました。この下流に6軒と1軒の養殖農家があります。これらのアヒルは死にましたが、上流のアヒルは死にませんでした。これで養豚場が原因だと証明しました」。すかさず、淡路教授「立派な因果関係じゃない」。 突然バスが大きく揺れる。幹線道路から枝線に入った。未舗装のかなり年季の入った?道路になる。

現場は近いということで、陸さんの話が加速する。要約すると、原告側は養豚場の排水口付近の排水検査をしたら、phが9.6あったこと。しかし、その水でアヒルを飼ったが、特別異常はなかったものの、正常じゃない死に方をしたものが多かったこと。裁判官と激しいやり取りをしたこと、などなど。そんなやり取りをしているうちに、最初の現場に着く。全員が陸さんの熱弁を拍手でねぎらったのは言うまでもない。



■10:30 
農家の2人がバスに同乗した。うち一人が主役の1人・杜少余さん(74歳)だ。小柄で、贅肉のない体つきをしている。もう1人は名前は聞き漏らしたが、杜さんんらに続いて、今、訴訟中のアヒルの養殖農家の人だ。北京オリンピックの帽子を終始かぶっていた。
この間、バスの後部では、この事件の被告は陸さんが説明した国家企業ではなく、いわゆる郷鎮企業だという議論が日本に留学して一時帰国している林 晨さんと片岡教授らの間で議論されている(どうやら、正しいらしい)。そう広くない道をバスは進む。途中、収穫した植物を横幅倍以上に山のように積んだトラクターとすれ違ったりする。下ろされたのが、問題の懐河の下流地点。そこに、杜さんに次いで提訴し、やはり勝訴した張金虎さん(34歳)の家があり、犬のけたたましい鳴き声と共に合流した。

現場で淡々と説明をしてくれる杜さん(左)


左側の草地はかつては河だった
道が広い河川にぶつかった時、大学院生の野田君が「水が流れてない!」と普段物静かな振舞いの彼にしては珍しく興奮した様子で声を上げる。上流の工事でそうなったとの説明に「こっちの方が問題では…」と。 河川敷を羊の群れや牛の群れがのんびりと歩んでいる。とても汚染事件が起こった現場という雰囲気はない。まさに牧歌的な風景だ。患者代表の松さんが「ええとこやね」と関西弁でつぶやく。

被害者と弁護士とを囲んで、3つほどのグループができ、それぞれ説明と質疑が繰り返されている。

途中の用水池にはアヒルとカモが仲良くのんびりと泳いでいる。宇井教授が水を手ですくって見る。「この池くらいで十分に畜産廃棄物を処理できますね。いま、沖縄でやっているのと良く似てますよ」と、目下実践中だけに宇井さんの話は説得力があり、周囲の人たちがうなずく。要は、「農業」という枠の中でのリサイクルであり、リユースということのようだ。



■11:30
操業を停止した汚染源の養豚場(対岸のレンガ作りの建物)も今は静寂さの中にあった
最初の現場を離れて、一度街中へ出ると、ちょうど午前中の授業が終わったようで、学校から多くの子供たちが出てくる。習慣として、昼は家に戻って昼食を取るとか。あるいは午前中で学業が終わって帰宅する子供もいるのだろう。ふと見ると、歩きとは別にご老人が自転車の後ろに子供たちを乗せて走っている姿が見える。

間もなく第2の現場に到着する。こちらの川には水がそう多くはないが流れている。やはりアヒルとカモが混在している。すると、杜さんが 「あれが養豚場だ」と指をさす。ちょうど対岸にフラットな外壁がレンガ作りの建屋が数棟見える。問題の排水口の姿もはっきり見える。まさに問題の現場に来たことを確認する。ただ、目に見える限り、そういう現象が起こったとは思えない景色だ。
杜さん「ここから下流が被害を受けた。苦労したが、裁判後は養豚場は閉鎖している。いまはアヒルが飼えるようになった。でも環境としてはまだまだだ」。対岸の養豚場からはもちろん何の反応もない。繰り返しになるが、柔らかい陽射しに包まれ、ゆうゆうと泳ぐアヒルたちの姿を見る限り、ここが汚染されたとはとても思えない風景だ。



■12:00
昼食後も熱心な質疑が行われた(レストランで)
第2の現場を離れ、レストランへ移動する。例によって、多量の食事をいただいた後は、ディスカッションの場に。
片岡教授が口火を切る。「7戸がすべて損害賠償金を得たようだが、総額でどのくらいに?」には正確な答えがなかったが、陸弁護士が「ここにいる杜さんと張さんが初めに訴え、次に2軒、そして今、2軒が先月訴えたばかりだ。但し、残りの1軒は訴えていない」
続いて、磯野教授からかなり細部にわたる質問が出た後、「損害賠償金の査定の基準は?」の質問に、陸弁護士「杜さんと張さんの単価が違うのは、訴えた時期が異なるからだ」との回答。 (解説資料から単純単価を計算すると、 杜さんの被害は700羽で23450元の賠償要求だから1羽当たり33.5元に、張さんは2700羽で108000元だから同40元になり、 これに対し判決が下った額は杜さんに13000元(1羽当たり18.5元)、張さんに98820元(同36.6元)の賠償金の支払いが命じられた)

さらに村松弁護士が矢継ぎ早に質問。
Q:何が原因か継続的に調査したか?
A(陸):した。保護局が基準を超えたことを認めた。
Q:被害者が最初躊躇したそうだが、なぜか?
A:提訴しても勝つとは言い切れなかったからだ。
Q:提訴した原告への何らかの圧力は?
A(杜):なかった。
Q:裁判所がきちっと扱ってくれるという信頼感はあったか?
A(陸):正しいと思っていたので自信はあった。
Q:裁判費用の問題が(裁判を起すかどうかの)判断材料になったか?
A(陸):1羽18元に低くしたのはその点も考慮したためだ。

さらに、中国側から、この事件で大きなプレッシャーとなったのはマスコミが取り上げてくれたお陰だったとの補足説明も行われた。
そして、満を持していた?ような感じで、宇井教授が促されて「きょう、この現場を見せていただき、かつ、るるお話を伺っての感想を述べさせていただくと、 これくらいの大きさの川で、豚100頭前後だったらそう大した問題ではなかったと思われる。その程度だったらむしろアヒルの餌が増えて、 川自身が排水を処理しながらアヒルを養うという健康な状態だったろう。しかし、2000頭を超えれば処理しなければ間違いなく環境に影響が出よう。 直感だが、原因究明はでき、日本では因果関係は成立と見なされよう。みなさんも日本の経験を生かしていただき、因果関係の成立に役立たせてほしい。それから、2000頭規模の豚舎の排水は環境破壊の反面、資源の損失でもある。排水中に含まれている貴重な栄養分を川に流してしまうことは、貴重な水と肥料分のどちらも捨ててしまうことになる」との感想が述べられ、さらに、今、宇井さんが指導している沖縄の方式を中国で実践すれば、おそらく日本の単価の10分の1くらいでできるのではないか」との見解も明らかにした。



■14:00
  すでに、予定時間を大幅に過ぎているという王さんの締めで、全員が拍手で被害者に謝意と激励の意を込めて席を立ち、最後の訪問先、公害被害者法律援助センターへ向った。



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