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「環境紛争処理北京WS」(3)

 大学生に聞く


【日本の院生の初めての中国】
[発言順]
知足(ちあし)章宏さん(立命館大学大学院修士課程・国際関係研究科)=1978年生まれ
安田 加世さん(一橋大学大学院経済学研究科修士課程・応用経済専攻)=1977年生まれ
野田 浩二さん(一橋大学大学院経済学研究科博士課程・応用経済専攻)=1976年生まれ
司  会 : 司 加人
【2001年9月18日、北京友誼賓館にて】
⇒中 国





日本の大学生は
左から知足さん、安田さん、野田さん
WSの日本側参加者の中に、3人の大学院生が加わっていた。いずれも中国は初めてで、見るものも聞くものも新鮮だったようだが、4日間の予定が終わったところで "感じたこと"を率直に出し合ってもらった。話しはそれぞれの進路にまで広がった。

▽    ▽


―― みなさんが今回のワークショップ(WS)に参加したメンバーの中でもっとも若い層ということで、シンポジウムと現場調査が終わったところで、どのように感じたか。また、一橋のお2人は北京に入る前に上海なども見てきたわけで、新鮮な感触を聞かせていただきたいとお集まりいただきました。まず、今回参加した動機というところから聞かせて下さい。

( 知足 )今年から国際関係研究科に進学し、主に中国の環境問題についての研究を始めました。しかし実際に現地の状況や、現地の人々に話を伺ったことはなく、今回は少しでも現場の状況を知るちょうど良い機会と思って参加させてもらいました。

( 野田 )毎年というわけではありませんが、(指導教官の)寺西先生のゼミの海外研修に博士課程の者がついていくということがありまして来ました。但し、私の専門は、中国研究ではなく、水問題ですが。

( 安田 )私は、何にでも機会があれば参加したいと思っている人なので(笑い)、この話しを伺って手を上げました。私も中国研究ではなく、分野もまったく違いますが、学術分野を超えた先生方と直接触れ合う機会を与えていただいて嬉しかったです。


▽ 経済開放のスピードに格差広がってる感じ:安田 ▽

安田さん
安田さん

―― きっかけは別として、来る前にイメージしたことと、きょう一連の日程を終わって一部ではあるけれど実際に見聞きして感じたことはどんなことでしょうか。

( 知足 ) 来る前に文献を読んだ感じでは、中国の環境問題についてのイメージ、とくに地方では垂れ流し的なイメージを単純に抱いていたのですが、実際に来て見せていただいたりしたところは環境設備もじょじょに整備されてきているんだなという印象をもちました。

( 安田 ) WSのために資料を読んだりということはしてきませんでしたが、北京の前に上海の見学があったので、そちらの蘇洲川についての資料を少し読みました。あとは何の先入観も持たずに白紙で来たという状況です。

―― その白紙には、何か色がついた?

( 安田 ) そうですね。ただ、専門でないために法学分野の方たちのお話などでは細かいところはよく理解できませんでしたが、大きく言えば経済のスピードがあまりに早すぎて、それに乗っていける人と乗っていけない人の格差が広がってきているという印象をうけました。上海では、高層ビルがたくさん建っているのを見ました。あれは、開放経済政策にうまく乗って成功した人たちなのだと思います。事実、中国の学生さんに話を聞いてみると、「今がチャンスだと思っている」「上海に行けば稼げる」と言っている人がいました。でも、ちょっと郊外へ出てみると、すぐに牧歌的な風景が広がっている。ワークショップの現地調査では、そういう所に住んでいる人たちが環境汚染の被害を受けやすく、環境問題に対する知識も乏しいようで、どう対処したらよいか分からないでいる、という現状を見てきました。そういった中国の二面性を見て、やはり大きな差が出てきているんだなということを感じましたね。

それともう一つは、経済は開放するけど政治的なところはいまだに支配されてることが分りました。こういった状況では、環境問題に対する裁判を起してもきちんとした訴えが届かないところがあるようです。特に、地方ではこの傾向が強いようで、司法にまで見放されては被害者は増えていくのではないか、という感じをうけました。


▽ 地方政府の力に意外感持った:野田 ▽

野田さん
野田さん

( 野田 )細かい裁判のことは分かりませんが、これまでに時々、中国の環境法などについて勉強する機会はあったものの、ボクがイメージしていた環境紛争と、こちらで見た具体的な環境紛争とでは、少し質が異なっているように思われました。今回お聞きした例はどちらかと言うと普通の民事訴訟的なケースではないかと思います。 もう少し不特定多数の人たちが絡むような事件かなと思ったら個々の一対一に近い事例が多かったことに驚きました。
もう一つは、中国は中央集権というか中央政府の力が強いというイメージを持っていましたが、それとは裏腹に、地方政府の発言力が、意外に強いことを実感しました。その結果、中央政府が環境保全を推進しようとしても、地方政府が経済成長を優先した場合、なかなか、環境を保全することが難しいのではないでしょうか。

―― 2日間のシンポジウムと2日間の現地調査の中で、印象に残ったことやものはどういうことでしょうか?

( 安田 ) もっとも印象に残ったのは、内蒙古から見えた農家の方(韓祥さん)の日焼けした指に土がついていたことですね。その手で、大事そうに、自分のところから持ってきた葉っぱ(汚染により枯れてしまったもの)を取り出した姿も印象的でした。言葉の通じないのも構わずに、何か必死になって話してらっしゃったのも心に残りました。

( 野田 ) ボクは、今日(9月18日)見せていただいた懐柔県で、養豚場からの汚染排水で養殖アヒルがやられたということとは直接関係ないかもしれませんが、近くのかなり幅広い河に水がまったく流れていなかったことにむしろショックを受けました。河が牧草地帯に変わっていましたが、あれで水をどうやって供給しようとしているのかなと思いました。


▽ 王先生の身体を張った研究活動やりたい:知足 ▽

知足さん
知足さん
( 知足 )ボクは、王先生がやられているNGO的活動に強烈に感動しました。大学教育という本来の仕事以外に無料で法律相談を受けて、裁判にまで出ていっているという身体を張ってやっておられることに感銘を受けました。

―― 将来のあなたの方向に何か示唆を受けたとか?

( 知足 ) それに近いですね。部屋の中でのというか、頭の中での研究だけでなく、ああいう仕事をしてみたいと思いましたね。

―― 21世紀の研究者のあり方というか、アカデミックな研究とフィールドワークの合致というか、一つのパターンと言っても良いのでは?

( 知足 ) そんな感じですね。

( 安田 )まったくそうですね。今、現場で何が起こっているか、そして、その現場での学術的にどういうことが求められているかということをキチンと把握して、その上での学問だと思うんです。現場から上がって来る要求に応えようとするような学問を私はやりたいと思っていますし、多分、先生方もそう思って指導して下さっていると思うのですが…。


▽ 自分の今後にどう近づいていくかのヒント得たい:野田 ▽

―― 野田君は3人の中で時間的にもっとも近い所にいると思うのですが…。

( 野田 ) おっしゃる通りです。ただ、これまで環境問題に取組まれてきた先生方と、僕達の世代とでは、向き合う問題も異なりますし、求められることも違ってくるのではないでしょうか。つまり、僕らは、各論を求められています。先生方の思いや、先生方が築かれてきたものを、どうしたら、自分達の問題として翻訳できるのかが、僕の課題だと思っています。そういう意味で、今回の調査は、これを実践する絶好の機会でした。

―― ところで、私の世代からあなた方の可能性と期待という点で見ると、あなた方はコンピュータを駆使できる能力と環境を持っているところに、失礼ながら今回北京へいらっしゃってる環境分野の先駆的な研究活動をやった先生方と決定的に違うところがあると思うんです。そこで、今回中国へ来て、短時日ではあるが、これからの人生に活かせるヒントのようなものを感じた点があるのではないかと思うのですが、いかがですか?


▽ 研究結果を行動に、行動を研究に反映させたい:知足 ▽

( 知足 ) さきほどの話しの延長になりますが、やはり王先生がやられている研究と実際の行動、そして実際の行動が研究にまた活かせていければいいなと思いました。


▽ 学生同士、メールの交換で独善排したい:安田 ▽

( 安田 )私は、研究者になりたいと思っていますが、今後は人とのつながりが大事だと考えていまして、そういう意味で今回ご一緒させていただいたいろいろな分野の先生方とお話しできたこと、王先生とお知り合いになれたこと、さらに被害者の方たちとお会いできたことは、とても嬉しいことでした。それから、日本の先生方と王先生を初めとする中国の先生方が、交流を通して相互に学んでいらっしゃる様子を拝見して、私たちは私たちで学生同士での交流をしていきたいなと感じました。それこそさきほど出ましたE−メールで簡単に通信できるわけですから、価値観の違いなども含めて理解しあい、独り善がりの研究をしないようにしたいなと思いました。


▽ 知識と現場調査は、どちらも必要:野田 ▽

( 野田 ) 今回、二つの現場に連れて行ってもらえたわけですが、特に、排水問題の現場を見ることで、その地域が抱える、あるいは、近い将来生じるであろう他の環境問題の存在を、自分の目で確認することができました。具体的に言えば、水資源問題です。これは、同じ場所に行くとしても、人によって関心が異なりますから、どうしても、他の人のフィルターを通さざるを得ないことを表していると思います。つまり、「現場に行く」ということは、その直接的な問題だけを調査するのではなく、自分で行かなければ分からなかった他の問題と向き合うという、二つの意味があるのではないでしょうか。そしてこれは、現場調査と自分の頭との、絶えざる往復があってはじめて、感じることができるのだと思うのです。知識と現場調査は、表裏一体だと思っていますので、どちらも磨いてゆきたいです。

―― そういう意味では、百聞は一見にしかずということと、環境問題についての見方の違いが分かったということ?

( 野田 ) そうですね


▽ 気になったゴミの処理:野田/安田、車の排ガス問題:知足 ▽

―― 最後に、一般的なことを含めてどうですか。たとえば、野田、安田両君は上海から北京へ入って来たわけですが、両市の印象は随分違ったのでは?…

日本の大学生は
寺西教授(右端)と話合う左から野田さん、知足さん、安田さん〔CLAPVで〕
( 野田 ) 違いますけど、想像した以上ではありませんでした。第一に、治安がいいし、中国人の国民性なのでしょうか、意外にゆったりしているなという印象ですね。あと、素朴な疑問ですが、ゴミはどうやって処分しているのかなと…(笑い)。

( 安田 ) 私も、ゴミをリヤカーで運んでいる姿をよく見かけましたが、あれから先がどうなるのかなと気になりましたね。とにかく天安門広場なんかすごくきれいに清掃されていますよね。

( 知足 ) 今、ボクは京都に住んでいますが、上海も北京も交通渋滞、車の排気ガス問題などがますます厳しい状況になって大変だろうなと思いました(笑い)。

( 野田 ) 身近なところでは、水が良くないということもあるのでしょうが、ペットボトルがめちゃくちゃ多いですよね、、これには驚きました。問題になるのでしょうねえ。

―― このWSのスタイルは2年後に日本で行われるようですが、その間の日中の事実経過がどうなるかということと、あなた方のような若い世代の交流がより活発化すればいいですね。いろいろありがとうございました。


▽    ▽


●後日談
WSが終わって1ヵ月半。3人は学生生活に戻っているが、北京で感じたことはそれとして、今、日本に戻って何を思っているのか寄せてもらった。

▽ 帰国後また考えさせられた中国の環境問題 ▽

  • 知足 章宏さん
    帰国後、来日している中国の方に会う機会があり、中国の環境問題についてどう思うか、率直に尋ねた。帰ってきた答えは「中国の環境はひどいのか?」というものだった。ごく一部の意見ではあるが、非常に率直な意見であったと思う。環境問題には必ず被害者が存在し、特に我々の目の届かないようなところで深刻な被害を受けている。しかし、目に見えた被害を受けないものにとっては、未だに蚊帳の外のような話である。(これはもちろん中国だけの話ではない) なぜ、環境問題を扱うのか、なぜ改善に取り組まなければならないかという根本的なことを、改めて考えさせられた気がする。中国は膨大な国であり、全ての地域の環境を保全し、悪化を改善していくことは不可能かもしれない。しかし、国民意識の改善や、政策の強化などまだまだやらなければならないことは山積みされている。今後、そういった分野の研究に取り組んでいきたいと考えている。


▽ ウォッチしていきたい中国の「水問題」 ▽
  • 野田 浩二さん
    帰国後、「水の商品化」あるいは水問題についてのテレビ番組や記事を見た。そこでは、「水の商品化」のひとつの指標として、ミネラルウォーターの流通・消費をあげていたが、実際、中国でも、かなりの量が流通していた。単に、ファッション感覚でミネラルウォーターが購入されているというよりは、それしかないから買っているという印象だった。
    現場で見て素朴に感じたことが、本当に問題となっていることに驚きつつも、自分が考えてきた現場調査と知識の不可分性が確認されたような気がする。いずれにしても、ミネラルウォーターの流通・消費の増大の意味を簡単に述べることはできないが、今後、中国の水問題における注目点だと思われる。


▽ 今後も継続的に中国の動向見つめたい ▽
  • 安田 加世さん
    今回のWSが終わった後に、私は一人で数日間北京に残ったのですが、その間に王先生のセンターでボランティアをしていた院生や、彼女を通して知り合った方達と話をする機会に恵まれました。座談会の時にも話したのですが、こういった出会いが大切だと思っています。彼女らとは、今、E−メールのやり取りをしています。最近は、中国でイタイイタイ病らしき症状が見つかったというニュースについてやり取りしました。王先生のセンターには、人命に関わるような環境被害の訴えが出始めているのに、公には問題があまり露呈していないということを、彼女から聞いていたのですが、帰国後に耳にしたのが、中国・山西省に重度のカドミウム中毒がおきているというニュースでした。E−メールでのやり取りで、彼女は「これからどんどん出てくると思う。日本との協力はますます重要になるね」と言っていました。日本の日常に戻って、前と変わらない学生生活をおくっている中で、彼女たちと交わすE−メールは考える機会を与えてくれる大切なものになっています。今回が初めての中国訪問だったのですが、これから継続的にその動向に注目して、中国の変化を見ていきたいなと思っています。




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