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「環境紛争処理北京WS」(3)

 第4セッション


第2日のセッションは、双方の環境紛争処理のメカニズムを理解し合うことから始まり、 それを踏まえて実際に被害者の救済をどうするかという一歩踏み込んだ議論へつなげた。時間の関係で前日には取れなかった質疑応答もキチンと行い、充実した1日となった。この日行われたすべての報告(要旨)と主なやり取りをまとめた。 

【文責:司 加人】


◇第4セッション「環境紛争処理のメカニズム(2)−制度−」
1. 大久保規子「行政機関による環境紛争処理制度の現状と課題−公害等調整委員会の活動を中心として」
2. 張 義平「ある訴訟から見た中国環境法の適用」
3. 周 珂「中国における交通騒音汚染損害賠償事件の評価分析」


【質疑応答】






 
○「豊島事件」、住民側はで公調委の機能に着目し勝った○

「行政機関による環境紛争処理制度の現状と課題−
公害等調整委員会の活動を中心として」


大久保規子 =日本環境会議理事/甲南大学法学部教授=

大久保規子さん

  • 最近の日本での紛争処理は裁判外の紛争処理も大きな役割を果たすようになってきている。裁判外の紛争処理には、裁判所による民事調停と行政が行う紛争処理がある。 今回は最近注目をあびている行政機関の紛争処理について話したい。
  • 行政の紛争処理機関には国と地方公共団体の機関がある。国の機関は公害等調整委員会(略称=公調委)が東京に全国で唯一存在する。地方には各都道府県に公害審査会を置くことが出来るとなっており、現在、38の都道府県に置かれている。このほか各都道府県、市町村のレベルには公害苦情相談員が3000名いる。昨日、「日本では公害苦情処理を一体何件くらいしているのか」という質問があったが、この公害苦情相談員が処理している件数は99年度の統計で76,000件程度だった。
  • その主な事件は大気汚染と騒音だ。しかしながら、ここではそれらの詳細を述べる時間がないので、日本政府が出している『公害苦情処理白書』をセンターに寄贈するので参照して欲しい。
  • いくつかの事件で実績を上げている国の公調委の話しをしたい。公調委は常勤、非常勤の7人の委員で構成されている。この公調委の特徴は、公正な事件の解決を目指すために組織上さまざまな工夫がこらされている。委員は人格が優れていなければならないとされているが、さらにその任命には国会の同意が必要だ。国会の同意という権威、すなわち大臣に準じた地位を与えることによって高い権威が与えられている。
  • 公調委の委員には職権行使の独立性と身分保証が与えられ、実際には裁判官の出身者、学者、弁護士、医者などが委員を務めている。委員は7名だが、事件に応じてそれぞれ専門分野の専門委員を30名以内で活用することができる。
  • もう一つ、公調委の大きな特徴は独立した40名定員の事務局がある。この事務局では事件毎に担当班を構成するが、担当班のメンバーになるのは裁判官の出身者であったり、あるいは環境に関係する各省−環境省や経済産業省や厚生労働省などのエリートがここに派遣されてくる。このことにより、公調委は単に紛争そのものを解決するだけではなく、あるべき適正な解決の方向性を模索する任務を与えられている。公調委の紛争処理の方法には斡旋、調停など4つの方法があるが、これまで扱った事件のほとんどが調停事件であるため、今日は調停について話したい。
  • 調停というのは、公調委が積極的に解決案を提示して、当事者相互の納得を得ながら合意の成立を目指すという方法だ。具体的な「豊島事件」を取り上げて説明しよう。
  • 豊島というのは瀬戸内海に浮かぶ小さな島だが、産業廃棄物業者が長年にわったって不法投棄してきた。これに対し、島民549人が不法投棄した業者張本人と、この張本人を野放しにしていた、ちゃんと取り締まらなかったということを理由に豊島がある香川県を相手取り、不法投棄されたゴミを島の外に持ち出せということと、慰謝料を払えという訴えを起した。島民側は、この不法投棄によって水質汚濁などの様々な被害が生じていると主張したのに対し、県は汚染はないと当初主張していた。
  • これがもし裁判であれば、原告側が自分たちの費用で調査をして、加害者の責任を立証しなければならない。これに対し、公調委の特徴は自ら国の予算で職権調査ができるという点にある。この事件では公調委は自ら大蔵省と交渉し、2億3600万円という予算を獲得し、専門委員を任命し、公調委自らが調査にあたった。その結果、県の主張とは反対にダイオキシンやヒ素などが高濃度で検出され、廃棄物の総量も50万トンに及んでいるということが明らかになった。
  • 公調委の第2の特徴は、その後どうするかという多様な解決の方法を探ることができるという点にある。裁判であれば勝つか負けるかということになるが、調停では行政にどのような措置を取らせるかということにいくつもの選択肢が考えられる。日本では実は行政を相手にした裁判で、行政に何らかの措置を取らせるという、いわば原告が勝訴するということはほとんどなかった。裁判を起していたらほとんど勝てなかったかもしれないということがこの島民たちが調停という方法を選んだ理由でもあった。
  • ところが、県はあくまでも責任を認めず、島の中で必要最低限の費用で汚染対策だけはすると言った。島民は当然ごみはすべて撤去しろと主張した。調停はあくまでも両当時者の合意を前提にするから、このように主張が両極端に食い違った場合は調停は不調、打ち切られるということも十分あった。ところが、ここで公調委は次のような案を考えた。つまり、島の中に産業廃棄物を無害化するための研究施設を作るという案だった。この案によれば島からゴミは外に持ち出さないわけだが、将来的にはいずれゴミはごゴミでなくなるというまったく第3の案が提案されたわけだ。
  • この研究施設を作るのにも金がかかるが、当初、国は汚染処理に金を出すことは汚染者負担の原則に反するからできないと言った。ところが、公調委は研究機関を作るのだ。そして将来日本に散在する不法投棄の解決を目指すためにはこのような研究機関の設立が必要なんだということを各行政機関に説得した。結果的に、この研究施設に金を出すことになり、昨年、調停が成立した。
  • 以上のように、公調委の活動は法律が不備な分野において、それを補う一定の役割を果たしているということが言える。しかし、豊島の事件で明らかなように公調委が機能するためには単に法律上の整備だけでなく、条理、知恵、根気が必要だということを付け加えてここでの報告を終わりたい。        

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○石炭煤塵訴訟で顕在化した法律、裁判上の欠陥○

「ある訴訟事件から見た中国環境法の適用」


張 義平 =北京市弁護士事務所=

張 義平さん

  • 初めに、中国では環境法が人民法院でどのように適用され、それがどういう形で解釈されているかという点から、客観的な立場で話をしたい。
  • 紹介する案件は、被告のある石炭貯蔵所は原告となる住民と10メートル足らずの距離にあり、被告は石炭の生産と運搬にあったって大量の煤塵と騒音を発生させて、原告側に被害を与えたいうもので、被害者は27世帯の77人。被害者たちはすぐ裁判所に訴えず、現地の環境保護センター経由で行政の面から処理して欲しいと申し出た。再三にわたり保護センターに催促したが、一向にラチがあかず結局人民法院に訴訟することになり、77名全員が署名した。しかし、私自身も経験したことだが、法廷において納得できないいくつかの事態があった。それについて紹介したい。
  • 第1点は、人民法院は77名が共同で立案するのではなく、一人ずつ訴訟を起せという要求があった。交渉の結果、最終的には各家庭が代表者を1名選出して、それで訴訟を起すということで法院も納得し、結局27件の訴訟が成立した。しかし、2ヵ月後に人民法院から、いきなり人民法院に訴訟を起すのでなく、まず行政機関経由で陳情しなければならない。故に今回は不成立で全部却下ということになった。
  • 原告側は、これに対し、不服を申し立て、第2審に進んだ。2審では本来30日以内に結論を出さなければならないが、7ヵ月間かけて最終的には1審の判決はおかしいということで1審のやり直しを命じた。しかし、区の法院は再度審議した結果、原告側が訴訟を起しているのは煤塵の排出についてだが、煤塵の排出は国家汚染物排出基準を超えていないとして、原告側の申し立てを再度却下した。
  • 中国の訴訟事件においては、原告側は代表人訴訟を取れることになっている。それによって、原告側の精神的負担を軽くできるが、今回は代表人訴訟は採用されなかった。私の解釈だがその理由の第1は、多分、人民法院側としては社会を安定させるための政治的な配慮があったのではないか。第2は、人民法院も多くの裁判費用を取るためにそうしたのではないか。私の試算によると、77名が個々に訴訟を起した場合、その訴訟費だけでも15万元くらいかかるのではないか。しかし、77名の連名訴訟となれば裁判費用としては1案件になるので2万元にしかならない。第3は、裁判官の業績というか経験を積むためにわざとこの案件を分けろという気配がうかがえる。というのは、裁判官の出世やボーナス、給料は実際に携わっている件数によるからだ。そして第4番目の理由は、原告側の訴訟難度をさらに高めることによって敗訴に導こうとしているわけだが、それは現地の経済発展を守るためにとった手段だと考えられる。
  • 代表訴訟を取らなかったことによって生じた危害は、一つは誤った判決が出しやすくなる。第2は、裁判官の経験を積むためにわざわざバラバラにしろということにしたと考えられるが、その理由はたとえば今日、27件の案件をやれば結局翌日も案件は違っても裁判官は処理しやすくなるという、経験を生かしやすくなるわけだ。このような訴訟案件は原告側として自分の正義を守れないからやむを得ず取った最終手段であるのにだ。
  • 一方、人民法院はあまり審議したくないという現状がある。これはわが国の法律に明らかに反することだ。残念ながらわが国には審議拒絶罪というのはない(笑い)。
  • 訴訟事件においては原告側が訴訟を起した場合、まず原告側が証拠を立てて申し立てなければいけないが、それに対し被告側が反論があった場合、証拠集めなどすべてを被告側がやらなければいけない。住民たちはいまの現状を改善して欲しい、良い悪いということじゃなくて、被告側にこういう現状を改めて欲しいというようなことなのだ。それに対して、立証人が法廷に来るこないということはそれほど問題ではないと考える。これは原告側にかなりの負担と難度を高めることにつながった。
  • 私自身、これに関わって残念ながら結果は良い判決を得られなかった。この種の環境紛争においては被告側が立証する責任は重いと思うし、原告側は今の現状を申し立てればすむことではないかと思うが、これについての明確な規定もない。一方、人民法院からもどこまで立証しなければならないという規定もない。この点もおかしいと思う。
  • そのような法律が完備されていないために、裁判官にいい口実を与えたのではないかと思う。つまり、誰がどこまで立証しなければいけないということが自分の判断で勝手に決められるようになったわけだ。1審における判決は、被告側が排出した煤塵が国家汚染物排出基準を超えていないという理由で敗訴した。いくら排出基準を超えていないからと言って人体に被害を与えないということにはならない。推測だが、裁判官は国家基準を超えていないから違法ではないという判断から判決を下したと思う。この、基準を超えていないから過ちも犯していないという判断は解釈と比較したら若干抵触しよう。
  • このような訴訟案件では弁護士は本来なら大きな役割を果たせると思う。人民法院が正しい解釈をすることを望む。環境保全は飾り言葉ではない。青空が見られるように頑張っていきたいし、そうでなければ今やっていることはすべて水の泡だし、やる気もなくなる(笑い)。


○現状は残念だが、頑張っているので理解と協力を○

【王 明遠座長のコメント】


  • 今の報告は、環境紛争のみでなく、わが国の民事訴訟においても多々見られる現象と言わざるを得ない。昨日、呂裁判官が今の裁判所の状況を説明したことを思い出していただけば合致する。
  • 改めて、整理すると−
    1. 立法上の問題である。環境法を含めて法律的に完備されていないためだ。
    2. 裁判官の素質があまりにも低すぎる。
    3. 地方の経済発展のために個人を犠牲にしたり、裁判官個々の出世や収入のことばかり考えているため、公正・公平・平等という裁判の原則を全てなくしている。しかし、それが中国の現状だと言わざるを得ない。ぜひとも改善しなければいけないと思う。
  • かと言って、日本の方々は諦めないで欲しい。中国は発展するとともに、改善していかなければならないと、学者、医者、弁護士、被害者などが改善への道を頑張っているので理解と協力をお願いしたい。

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○前例がないので将来に備え被告を確定した○

「中国における交通騒音汚染賠償事件の評価分析」


周 珂 =中国人民大学法学院教授=

周 珂さん

  • 今、座長が中国の司法や裁判のあり方に問題点を述べたが、私も大賛成だ。ところで、昨日からの討論で、中国の現状について悲観的に感じたとしたら、私の話しは少し明 るさを感じてもらえると思う(笑い)。これから紹介する件は、交通騒音汚染に関する賠償事件で、近々、わが国最高裁の判例に記載されると聞いている。
  • 中国の判例も日本の判例と同様に、今後同様な事例が起こった時の参考になるのではないかと思う。この案件の詳細については資料集に書いてあるので参照していただくとして、ここでは概略を説明したい。
  • この事件の原告は一個人だが、実態は団地の住民たちである。しかし、中国では先ほどもあったように、社会的理由からあまり集団訴訟は起されたくないという政府の考えがある。日本ではデモ行進ができても中国では、少なくても政府はデモを見たくない、という方針である。これが背景としてあるのではないかと思う。
  • 原告は善良な市民であり、決して無理難題を持ち出す住民ではない。私がこれまで接触した限り、日本でも中国でもみなそうだ。
  • 70年代、私がまだ小さい頃、日本から来られた先生方は「中国の経済はこれから大きく発展しよう。その過程で強制的な撤去などもあろうが、政府の行為にみなさんは気持ち良く協力している。環境問題についても住民たちは政府に協力している。これは日本ではそうはいかない」と言われたことをいまだに覚えている。
  • ところで、この原告は北京市中心部に住んでいた。市が開発整備のため、郊外へ引っ越さなければならないという命令が出された。その際、市から提示された交換条件は専有面積を若干広くするということで、通勤など様々な不便が生じるものの、合意に達した。原告側は市政府の要請によって郊外へ引っ越したが、北京市もハイスピードで経済成長を遂げており、それにともない車の量も増え、そこから生じる人体が感じる騒音は基準の数倍に達している。それは地震の体感と同じだ。
  • しかしながら、これに対する賠償は少額だった。毎月たったの60元だった。原告側は訴訟の前に街に出てデモをする気にもならなかった。理由は、被告側が北京市政府の関連の建築会社の一つだからで、デモをやられれば政府の面子がなくなることになるからだ。そういうことを全て考慮して、裁判官が一部は原告側が求めていないことも判決に加えたものもある。
  • この案件は中国における最初の道路騒音汚染訴訟だったので、法院も非常に慎重に審議した。私も含め多くの学者が呼ばれ、一緒に審議に携わった。ここにいる王先生も参加している。
  • この案件は、原因究明、因果関係の立証という段階でとくに複雑ではなかったが、どのように処理するか、どういう判決を下すかという点で、前例がなかっただけに慎重に処理せざるを得なかった。
  • 第1に、被告を誰にするか、これだけでも難しい問題だった。騒音汚染を起した被告は誰だということで、当初は6者を想定した。うち1社は不動産会社だった。というのは、こういう道路に近いところにマンションを建てたたねだ。次に道を作った道路局、3番目は車の出入りを決める交通局、4番目は車を生産している自動車会社、5番目はこの住居を建てる際の適否を調査すべき環境保護局、6番目は都市建設などを企画・計画する北京市政府の一行政機関になるが北京市政府の企画委員会を訴えられるのではないかと考えた。そして、最終的に人民法院と話し合った結果、不動産会社と道路局の2者を被告側とした。なぜこの2者に絞ったというと、たとえば自動車メーカーを考えた場合、95年の時点ですでに6000社もあり、したがって数が多く、どこの会社のどの車によって引き起こされたのかを断定することはできないからだ騒音汚染ということでは6者全てが関連してくるが、被告側を一つに断定し難い性質も持っている。騒音を直接的に引き起こしたのは車だ。しかし、どの車がどのくらいの騒音を出して、それをどう処理するかということを断定するのは非常に難しい。別の言い方をすれば、被告をどう位置付けるかということは裁判官にとって非常に大きな問題だ。
  • 中国における環境関連の法体系はまだまだ隙間だらけで、完備する必要があり、この中で人民法院そのものも整備する必要があるが、中国は発展しつつある中で、環境保護総局の責任もさらに重くなると同時に、行政関係も正していかなければ行けないが、こういう現状の中で完璧に改善されていない中では裁判所としてある程度臨機応変に処理していかなければならない面もあることは事実だ。したがって、今回の訴訟案件の中で誰が利益を得たのか、誰が一番重い責任を負うべきなのか、ということを分析していくと、家を建てて儲かる不動産会社が家を建てるのに適した所に建てたことが原因ではないか。それからなぜ道路局を被告席に送り込んだかというと、これからの経済発展においてはさらに道路作りをしなければならないが、その際、車交通による騒音と住民との関係を道路建設局としても真剣に考えていかなければならないということを考えさせるために、この両者を被告にしたわけだ。
  • この判決において、基準を超えてなければ無過失として判断するのか、過失はあるがその程度によって判断していくのか、さらに原告側の環境権を侵害し、損害を与えているか否かで判断するのか、それともあくまで不動産売買契約について裁判所の中でいろいろな検討がされた。
  • もう一点申し上げたいのは本WSで勉強になったことがある。というのは、中国の学者たちがこれからどのようにして環境保全問題に携わっていかなければならないかという点で、日本の学者たちの積極的な行動は素晴らしいと思う。私を含めて中国の学者たちももっともっと真剣に環境問題に取組んでいかなければならない。

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【主な質疑応答】

▼公調委調停の法律的効果について―

Q(大久保講師へ)
日本の公調委は環境紛争に関しての調整、また調整の結果に意味が あるか? 法律的な効力があるかどうか? 当事者が調停の結果に従わず、履行しな い場合どうするのか? さらに苦情相談員がワイロをもらった場合はどうするのか?

A(大久保講師)
まず、合意の効果についてだが、裁判所による民事調停と公調委によ る調停の結果で大きく異なる。裁判所の民事調停は成立すると、裁判所の和解と同一 の効力を生じ、したがって確定判決と同様の執行力を持っている。 それに対し、公調委による調停にはそのような強制力は認められていない。当事者間   で合意があったということに止まっている。この点では公調委の調停は裁判所のより も力が弱いように見える。但し、公調委が扱う事件は社会的な事件が多く、マスコミ などで伝えられることが多いので、むしろそれが社会的な力によって履行が確保され ると考えられている。 第2の点の、義務を履行しない場合は、公調委としては義務違履行の勧告しかできな い。但し、裁定の場合、フォローアップの仕組みが設けられている。たとえば新幹線 問題を例に取ると、新幹線が開通したあと、公調委の委員と申請人とが一緒に調査を するというような条項が定められていることが多い。その調査結果は、公調委が発行 する雑誌等にも発表されている。 次の苦情相談員がワイロを受けるということは、私は聞いたことがない(笑い)。この 相談員が実際にやっていることは、例えば被害者からの電話を受けて、加害者に電話 をかけて行政指導を行うという程度のものだ。つまり相談員はワイロをあげるほどの 権力を持っていないということだ(笑い)。ただ、そこで処理できない事件は県の公 害審査会に回されることもある。 第2の質問に関して、淡路先生から補足があったので追加したい。
・調停内容を当事者が履行しない場合、公調委としてできることはさきほど説明した  義務履行の勧告だけだが、しかしながら裁判を通じてであればそれを履行させるこ とができる。つまり調停の内容を相手側が履行してくれないということを裁判で認 めてもらう、判決をもらうわけだ。そういう判決が出れば通常の判決と同様に確定 力が生じる。

▼政府の責任について―

Q(中国側から)
政府の責任について聞きたい。たとえば、裁判所が政府が汚染者とし ての責任を負わなければいけないということを判断した場合、どのような法律に従ってそれを適用したのか?  政府と汚染発生源、企業との関係についてだが、もし訴えられた場合、政府の責任は優先に考えられ、 その次は汚染発生源の企業になるか、あるいは政府と汚染発生源は全体の責任をになうことになるのか?  それから政府が訴えられ場合はその責任で担うのか?

A(淡路)
国が訴えられるのは三つのタイプがある。一つは、規制権限を持っているの に規制をしなかった場合。国家賠償法という法律があって、その1条で請求できると いうもの。二つ目は、国道など国が設置者、管理者として責任を取る場合、2条で責 任をとる。三つ目は、国であっても私人、当事者として関わる場合がある。国営会社 のように。 それで、一つ目の場合は過失責任になる。たとえば現在、水俣病の訴訟で国の責任が 権限を行使しなかった。つまり排水を止めなかった、あるいは魚介類の漁獲を禁止し なかったのは国の責任なのかどうかということで争われていたが、下級審の裁判所は 国の責任を認めた判決が3、認めなかったものが3あるが、そのうちの1つがいわゆ る関西訴訟といわれる大阪高等裁判所まで上がり、それは国の責任を認めた。次は、 果たしてそれで良いのかどうか最高裁で審理が進んでいる。 薬害の訴訟で国の責任を認めた例もある。その責任の範囲は、普通は全体責任、両方 に責任がある。しかし、内部的には国の責任は3分の1とか4分の1とか言って、被 害者との関係で国の責任を少なくしている判決もある。 二つ目の場合は、最近では大気汚染訴訟で、道路の管理者としての責任が認められた。 昨日の被害者代表の話の通りだ。その根拠の国家賠償法の2条というのは、過失とい うのではなく、設置管理の瑕疵−欠陥ということだ。道路公団の責任が最高裁で認め られたケースもある。 それから損害賠償だけでなく、民法上の人格権の侵害に対して差し止めが認められて いる。最近の例では道路公害に関して国は、沿道の一定の範囲内に一定の基準を超え た粉塵を出して使用させてはならないという判決が昨年2つあった。

▼北京騒音訴訟での専門委の設置について―

Q(中国側から)
さきほどの周報告で、専門家による委員会の設置の話があったが、こ れは今回だけなのか、人民法院は今後も調整機構になるのか? このような委員会で の結論は法的位置付けはあるのか?

A(周)
一般行政部門でもある。裁判が正確かつ迅速に行われるようにする手助けの手 立てであって、なんら責任はない。ただ、実際の行政部門、司法部門に判決しやすく するために我々はこういう委員会に積極的に協力していくつもりだ。いつのタイミン グでこの種のものが設けられるかは、難しい判断が求められる場合や前例がないため 今後に影響力を及ぼす場合は慎重を期して設置すると聞いている。 また、この委員会の結論は必ずしも多数決ではない。ただ、メンバーが個人的に自由 に発言できる。今回の場合は、大多数のメンバーが無過失責任ということで考えてい たが、私は被告側に責任があると主張し、今回はたまたま少数派の意見を採用したと いうことになる。

▼中国の裁判の時間と費用について―

Q(日本側から)
日本の裁判は長い歳月と時間がかかるが、中国ではどうか?

A(周)
中国の場合、変なところで時間がかかるのと、逆に早く判決が出ることもある。 日本のように何十年もかかるという例は聞いたことがない。とくに環境問題を巡る訴 訟そのものが少なく、それ以前に行政への陳情、陳述で解決されるものも多々ある。 金がかかることは事実だ。一般の生活レベルに比べると訴訟費用は高いと言わざるを 得ない。それともう一点は、今は人民法院は中央政府、地方政府の任命によって成り 立っているので、誰も自分の上司、親、行政機関に喧嘩をうるつもりはない(笑い)。 したがって提案はするが、実際にどの程度の実行力があるのかは別問題だ。午前中に 紹介した判例はまだまだ少ない。ほとんどが原告側が満足できる判例は少ない。そう いう意味で、時間がかかるかからないというよりも、もう少し方法の改善や環境法、 権益侵害法など法律の整備の方が先決だ。そうしない限り、中国の国民が人民法院を 安心して頼ることにならないであろう。なによりも法整備が必要というのが中国の現 状だ。

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