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| 「環境紛争処理北京WS」(1) |
| 《特別鼎談》 |
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◇ ◇ ◇
ワークショップ(WS)第1日目の公式日程が終わったところで、主宰した王 燦発中国側代表と、宇井 純、原田正純両教授の3人に話し合ってもらった。中国側は「初の試みだが成功したと思っている」とし、日本側も今回のWSの成果を「予想を上回るもの」と高く評価、今後も継続することが双方にとってより大きな果実が得られるという点で一致した。鼎談が終わって、王さんを中心に3人ががっちり握手したシーンが印象的だった。 ■ 日本環境会議など日本側の協力で成功した ■
―― 王先生にまず伺います。ワークショップ冒頭の主催者あいさつにもありましたが、ここまで3年の準備期間を経て本日開催の運びとなった心境はいかがでしょう。
( 王 ) 中国の民間組織が今後の環境を守るためにはやり遂げなければならないことがいろいろあるんだなということをまず強く感じています。 ―― 宇井先生は今回、北京にこられる前までにどういうことを期待したか、そして、第1日目を終わった時点ではありますが、これまでのところの感想をお聞かせ下さい。
■ 逃げ腰だったが協力し合うことで道は開けそう ■
( 宇井 ) 正直に告白しますと(笑い)、私は、これまで中国のこの種の問題についての取り組みには逃げ腰で、できたらあまり関わりたくないという気持ちでした。それは、中国の置かれた状況、実際に起こっている環境問題は私の想像を絶するような、とても私の能力では解決の糸口がみつからないような深刻な問題が多いであろうということを予想していたためでした。 しかし、そのいままでの認識は完全にと言って良いくらい覆りました。と言うのは、日本環境会議のメンバーというのは、いま、日本で環境問題に取り組んでいるグループとしてはもっとも強力なメンバーであり、それらが今回ここに集まっており、私自身、その中に加わることは自分一人で出掛けていって調べるという、これまでやってきた手法に比べると大分気が楽であり、今回、ここにいる原田さん初め北京にきている人たちは長い間公害研究を続けてきている人たちで、それらの人たちと協力して仕事ができるということは大きな成功の可能性がある、という考えに変わったわけです。 ( 王 ) なぜ、一人で取組まれることを恐れられるのですか?
( 宇井 ) うーん、私は技術者なものですから、どうしても一つ一つの問題に何か答えを出さなければならないという、一種の強迫観念のようなものに取りつかれてしまうんですね(笑い)。
―― 原田先生にもどのような期待をもって北京にこられ、それが実際にどうであったかということと、日中間で協力し得る可能性について触れていただきたいのですが。
■ 今後は現場同士の交流が重要ではないか ■
しかし、今回は大変感動しました。いままでと非常に違ったからです。というのは、いままでは私の方が一方的に話をして、聞いてもらうけれども中国側の情報はほとんど教えてもらえなかったのです。今回は、直に被害者の農民の人たちの声を聞けたことは正に涙が出るほど感激しました。 もう一つは、これまで私が話しにきたのはほとんどが医学関係の人に対してでした。しかし、今回は医学関係の人はもとより、法律家、官僚、裁判官などと幅が広いというか、バリアがないというか、そういう方々とお会いできたことにも感動しました。 私も裁判には医学の立場から関わってきましたが、裁判から私たちはいろいろなことを学びました。それだけに、今回のような交流の中で学んでいくことは双方にとって大きいと思います。 ただ、日本は確かに多くの経験がありますが、日本の経験がはたして中国とかその他の国にすぐ活用できるかという点では少し疑問をもっています。 それは、それぞれの国の自然環境とか文化とか経済とかいろいろ違いがあるからで、日本の教訓が即、役に立つとは思えない、ということです。 実は、日本の場合でも、同じ公害といっても一つ一つ違うのです。したがって、今後の交流というのは、日本から何かを教えるとか指導するということではなく、お互いの現場を大事にしながら学び合うというような交流が重要です。今日、被害者の人たちの直接の声を聞いてこれはできるという希望をもちました。きょうの歓迎宴の時に、農民の人がすごく喜んでおられたことを見て、私も日本の被害者との付き合いがありますので、あの気持ちが痛いくらい分かって、改めて王さんはすごいこともやってるんだなと思いました。
( 王 ) ありがとうございます。
■ まだ伝えきっていない公害問題の複雑さを伝えるのが残された仕事 ■
―― 宇井先生、今後の日中間でのこの分野での協力の可能性について敷衍していただきたいのですが。
そういう中で、私はかねて「公害には第三者はいない」という理論的な結論をもっており、今日もその考えはまったく変わっていません。第三者の調停の和解が勧められていることは、論理的には間違っているという姿勢を取っています。しかし一方で、私は10年以上住んでいる沖縄県の公害審査会の委員を務めていて、和解を勧めているという現実、矛盾があります(笑い)。矛盾する立場でこの問題と関わっており、そしてまた今の中国の現実の中で第三者による調停というものが必要であろうということは認めるけれども、究極的には公害には第三者は存在しない、という考え方は変わりません。 そういう複雑な側面を含めて、中国側に正確に伝えることは終わっていないというか、私の仕事では残っていると今回強く思いました。命がある限り努力するということが東洋における"サムライ"の仕事ではないか。そういう面での手伝いができれば幸いだと思ったところです。 ■ 中国の現状を諦めない。手を打てば必ず改善する ■
―― 王さん、お2人の話しを聞いていかがですか?
中国の環境問題が深刻だからと言ってどうしようもない、繰り返しのつかない状況ではない。何とかすれば状況を好転することができると考えています。 環境問題への取り組みは、政府が大きな役割を果たすことは言うまでもありませんが、民間組織にも果たすべき役割があり、とくに市民が参加するということは非常に大きな意味があると考えています。以前は被害者はあちこちにいましたが、彼らが実際に環境訴訟を起こすということは非常に少なかった。しかし、我々がセンターを立上げてから1年余りですが、その間にセンターの活動およびマスコミを通じて報道されることによって北京の環境訴訟は、それだけで数倍になりました。 訴訟には確かに困難があります。たとえば地方の行政機関は汚染をしている企業の利益を優先して保護しようとしますが、裁判をやっていくと勝訴する方が敗訴するよりも多いのです。 汚染被害者が裁判で勝つということは単に賠償金を取れるというだけでなく、その事実自体が汚染をしている企業に大きな圧力を与えることになるわけです。環境を汚染し、その結果、被害が出たら、誰かが訴えることによって、彼らに圧力を加えるという意味があるからです。もし、こういう環境訴訟を民間組織の援助のもとに全国で、普遍的に行うことができれば、全国の汚染源となっている企業に対して非常に大きな圧力となり、結局は汚染の減少へとつながると思うのです。 ■ 公害健康補償法など日本の諸制度に学ぶ点多い ■
―― 日本と中国の協力関係についてはいかがですか?
( 王 ) 同じような道を歩んでいるのかなと思います。中国の指導者は先進国が歩んだような、先に汚染をしてから後で(汚染を)処理するという道は歩まないとよく言いますが、実際には多くの地方行政機関はすでに同じ道を歩んでしまっています。
■ 人体への影響問題での訴訟もいま慎重に調査中 ■
―― 昨年、王さんのセンターとアジア経済研究所の間でスタディがあったり、今回の1日目の論議を聞いたり、要旨集を拝見しても、確かに中国における環境訴訟は多いですが、あくまで財産などの被害賠償の範囲に限られているように思いました。しかし、環境紛争処理の究極は人の生命、健康に帰すると、日本の水俣病事件をはじめ数々の経験から考えます。その点について中国の状況はどうでしょうか?
( 王 ) 良い質問ですね。実はご指摘の点については私たちもすでに注視していますし、活動も始めています。実例を上げますと、福建省の化学工場の周囲でガンの発生率が上がっているということが起こっており、現地の人の話によると、この1−2年の間に8名が死亡しているということが実際に起こっています。センターとしても専門家と弁護士を派遣して、はたして訴訟することができるかどうかを確認しているところです。ただ、訴訟に持ちこめるかどうかは微妙なところですが、こうした活動をやったことが意味がないということでなく、むしろ県が改めて本格的に調査を始めている。つまり何らかの措置を取り始めた。ということは、我々の調査活動が何らかのプレッシャーを与えたということです。
■ 健康問題への取り組みは難度が高いがぜひ取り組みたい ■
今回の会議に、環境医学の専門家を2人招きましたが、実際には太原の先生(高増林さん)だけが出てくれましたが、これは今後私たちが健康問題に関わっていこうという一つの布石です。 中国で健康問題に関わるということは非常に難度の高いことです。というのは、中国にはまだ公害認定の制度がありませんし、公害病関係の調査データは秘密の中でもレベルの高い秘密とされているので、情報が開示されるのは非常に困難なわけです。しかし、困難がいかに大きくても私たちはこういうことに取り組んでいきたいと考えています。 ―― 宇井先生何か?
( 宇井 ) これからは多分、自然科学的な所見といいますか、たとえば理学部の人、生物学の人などが研究の輪に入ってもらうことが必要ではないかという方向は予想しています。
■ 今後は自然科学分野の専門家にも参加求める ■
( 宇井 ) その場合に多分二つの方向が同時に進行するであろうと考えられます。一つは、専門家というのはともすれば分かりやすい、精度の高い、お金のかかる研究計画に引っ張られやすいのですが、それでもいろいろな工夫はあるものです。たとえば、水や空気の汚染の時に、すぐ水や空気の汚染を測るというのはあまりうまい手ではありません。非常に濃度が薄くて、変動が大きくて、傾向がつかみ難い。それよりもその地域の鳥たちを調べることの方が得策です。鳥というのは、空を飛ぶために非常にたくさんのエサを食べてそれをエネルギーとして消費しますから、エサの中にある汚染物質をどんどん蓄えます。それから貝です。水の中の食べ物をこして摂っていますから、その時に水の中の汚染物質を貯めていきます。
( 王 ) 鳥というのはあちこち飛ぶわけで、それをキャッチアップするのは逆に難しいのではありませんか?
■ 地域住民や若い人たちの協力も欠かせない ■
( 宇井 ) はい、それで鳥の専門家の出番になるのですが、どの鳥が渡り鳥で、どの鳥がその地域に生息するかということは分かるのです。とくに渡り鳥を捕まえれば、その渡り鳥が遠いところから渡ってくる経路の汚染状況が分かりますし、そこに住んでいる鳥であればそこの地域の汚染状況が分かります。これは工夫すれば結構役立ちます。 それから、たとえば1本の木があった時に、それから細い鉛筆の芯くらいの木を切り出すことによって、その年輪のどの場所が汚れているかということを分析することができます。いつ頃から汚染が進行したかということを鉛筆の芯くらいの太さをくりぬくことで測れるのです。こういう研究は自然科学者でなくてもできます。 もう一つは、たとえば中学生なんかが簡単な試験法とか自然の観測を積み重ねていくことによって、公害の分布を調べることができます。手間のかかる方法ですが、日本の場合、ムラサキツユクサのおしべの色が変わることを利用して原子力発電所から漏れる放射能を調べた例があります。これは地域の市民が協力し合ってやりました。さらに、お墓の石についているコケの分布を調べることで大気汚染を調べたケースもあります。そういうことから言うと、若い人たちが自分たちの環境教育の研究として行動するということももう一つの方法として出てくるように思います。 今までの私たちの経験から言いますと、公害というのは調べれば必ず減ります。さきほどの王先生の、調べれば行政への圧力になるというお話のように、地域住民が公害を調べれば必ず圧力になって、公害は減っていきます。したがって、そういう方向での改善というものも入ってくるでしょう。ですから、二つの方向で同時に進行するであろうと考えられます。
( 王 ) 私にとっては専門的な話ですが、これまでそういう方向ではあまり注意していませんでした。
■ 弱者のために活動する王さんの活動に共鳴 ■
もう一つは、日本の公害の場合はわりと単純なんです。たとえば神岡鉱山のカドミウムとか、チッソ水俣工場のメチル水銀とか土呂久鉱山のヒ素中毒とか…。しかし、いまから起こってくることはそう簡単ではないだろうし、そこが難しいところだと思われます。 もう一つは、かつての水俣のように、あんなに大量には(汚染物質を)流さないでしょう。したがって、これからは長期にわたる微量汚染の影響が問題になります。 さらに付け加えると、長いこと環境問題を研究してきましたが、この問題を勉強するということは単に環境問題という一つの分野を研究するというよりも、一体、研究というのは何のためにするのか、たとえば法律というのは誰のためにあるのか、医学というのは誰のために、何のために研究するのかという根源的なことが徹底的に問われてきたと思うんです。ですから、中国でいま王先生たちがやられていることは、小さな環境問題ではなくて、学問のあり方を問うことにつながっているのではないかと思います。 法律も医学も病人とか弱い人のためにあるんだということが今回の会議でも確認されたと思うんです。そういう点に今回は非常に強い共感を覚えました。 ―― 良いお話を聞かせていただきましたが、最後に王先生から一言。 ( 王 ) 私たちは共通の家である地球を守るために勉強している仲間なので、これからも共にやっていきたいと考えています。
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