special report


第2回内分泌撹乱化学物質国際シンポに出席して

西川洋三(三菱化学株式会社 環境安全部部長)

環境庁主催、日本内分泌攪乱化学物質学会協力により第2回内分泌攪乱化学物質問題に関する国際シンポジウムが去る12月9日から11日まで、神戸国際会議場およびポートピアホールで開催された。 会期中の参加者は9、10日は千人弱、11日は約500人であったが、2回目ということで一段と突っ込んだ論議が行われた。自らも結びのパネルディスカッションに化学業界代表のパネラーとして参加した西川さんにレポートをお願いした。


質量ともより充実。だが一般の関心は低下気味

1、全般
最終日に行われたパネルディスカッション
右から2人目が西川氏
 
 一般の人の関心は低下し、専門家の関心は高くなったというのが第一の印象である。 初日、2日目の専門家対象のセッションは質量とも昨年より充実していた。非常に専門度が高いものが多かった。特に分子生物学的な面からメカニズムを研究した発表は私には歯が立たない感じがした。また、二つのセッションが並行して行われたり、初日はナイトセッションも行われるなど量的に約2倍になった。質量とも充実したのは、昨年度より準備期間が十分あり、適切な講演者を招待できたということであろう。
 日本人の研究は今回からが本番である。平成10年度から多額の国の予算が使えるようになり、その試験結果が本格的に発表される時期となっているためである。並行して行われた日本内分泌攪乱化学物質学会のポスター発表が昨年度は104件であったが、今回は241件と大幅に増えたことがそれを端的に物語っている。来年度も多額の予算がつくであろうから来年度もこの調子が続くと予想される。
 一方、一般の人も対象に含めた3日目(土曜日)の公開セッションは参加者約500人で昨年度の半分以下だった。1、2日は参加者が千人弱で盛況だったのと対照的だった。


目立った「精子」に関する研究発表

2、私の興味を引いた発表
 私に限らず精子に関する発表が最も興味を引いたように思う。身近な問題だし、何も予備知識がなくともわかるためであろう。この問題は1992年にCarlsenらが、61の調査結果をまとめて50年間で精子濃度は半減していると報告し、さらに、1993年にSkakkebaekとSharpeが精子濃度が減少しているのは環境中の女性ホルモン様物質が原因ではないかとの仮説を発表したことに始まる。減少説に反対の学者もいる。その代表がFischである。FischはCarlsenらの調査を見直し、一見減少しているように見えるが、40〜50年前のデータは精子濃度の高い米国のものが多い、1970年以降のデータは米国外のデータが多い。すなわち、経時的な差でなく、地域による差とも解釈できるというのである。地域による差というのは、気候の差、すなわち暖かい地方の地域の住民は精子濃度が低いということだと私は思う。しかし、Fischは地域差があると言うだけで、「多分」付きでは原因を言わない。そこが立派だと思う。 今回の発表で私がはじめて知ったのは次の内容である。

  • 夏の精子濃度は冬より30〜40%低い。したがって、夏の測定値と冬の測定値を単純に は比較できない。(Skakkebaek)
  • 精子濃度の低い年と高い年がある。その傾向はニューヨークとミネソタで類似している。(Fisch)
  • 35才で子供を産むと20才で産むよりも、男児が尿道下裂になる確率が1.2〜1,5倍に なる。子供に生殖器異常が増えているというのは子供を産む年齢が高くなっているため。(Fisch)

 Fisch先生と直接お話しする機会があった。 私「地域差とは気候の差ですよね。」 先生「その可能性がある。」 私「日本には金冷法があります。日本のバイアグラとも言います」 さて、私にしては上出来の冗談なのですが理解してくれたでしょうか。
 高齢出産ではダウン症の子供が産まれる確率が高くなることはよく知られている。精子は日々生産されるが、卵子は生まれたときにすでに一生分出来ていて、後は劣化するだけである。男性は晩婚でも差し支えない。しかし、女性には20才過ぎに結婚して子供を産んでもらわなくてはならない。晩婚化が進む日本の現況は困ったことである。Fisch先生の発表を聞いているとそう思う。


ビスA論争、今回はさらに白熱

3、低用量効果
 昨年度は、vom SaalがビスフェノールAについて、従来の無作用量の1/25,000の投与量でも影響があったという試験結果を報告した。それに対してAshbyが信頼度の高い試験条件で再現性を調べたが対照群と差はみられなかったと報告した。この両者間での論争が、もっとも関心を引いた。ビスフェノールAメーカーの行った試験でもvom Saalらの試験結果は再現できず、いわゆる低用量効果の仮説は打ち消されたと考えていた。
 しかし、今回のシンポジウムに標的をあわせたかのように低用量効果があったという試験報告がいくつか発表された。ビスフェノールAを試験対象にした報告が多かった。これに対して、企業側は適切な反論ができず、もしかしたら問題なのかもしれないと学者にまで受け取られたようだった。また、低用量効果があるかのように一部で報道されてしまった。


謙虚さと自信をもてた有意義なシンポだった

4、私自身についての報告と反省
 私はビスフェノールAの毒性担当としての業務の他、日本化学工業協会の推薦を受けてパネルディスカッションのパネラーとしての役目もあり、この1ヶ月間はシンポジウム対応に追われた。
 低用量効果についてのMyersやvom Saalの発表、発言に対して、もっと強く反論しなければダメという意見を多くの人からいただいた。しかし、次の理由で難しかったというのが実状である。

  • 専門的な学会で反論するには、我々の試験結果ではそうはならないということが言えるか、もしくはスタープレイヤーが必要である。今回はどちらもなかった。
  • 一般大衆やマスコミを意識した場(公開セッション)での活動は、Myersらの得意中の得意とするところであって、これに対抗するのは容易ではない。
シンポジウム終了後の記者会見
右から2人目が西川氏
 
 パネラーとして15分間の発表を行った。その内容は 「環境ホルモン問題は、何が問題か(その1〜6)」および投稿予定分をまとめたものである。聴衆は、世界の第一級の研究者から一般市民までレベル差が大きいし、立場も違う多様な人である。私の発表は全ての聴衆に関心を持ってもらえるものであるし、また、この点が検討不足であると具体的に指摘してもらえれば、それが今後の研究課題ですねと結べるという意味でも、3日間の最後を飾るにふさわしい発表だったと自負している。
 一方、ディスカッションでは反省する点が多い。経験不足を感じさせられた。それに比べて米国人の2人は上手だった。私も含めて日本人3人のパネラーとの間には役者の違いを感じた。
 次回の企業代表パネラーに次のアドバイスをしておきたい。ディスカッションでは5人のパネラーが均等に発言するのが理想である。しかし、どうしても企業対その他の構図になってしまい、企業代表の発言が多くなる。そのため、終盤になってから反論する必要が生じたときにも、発言を控えなければいけないと思ってしまったり、発言したくとも指名してくれないことになってしまう。 少なくとも前半は極力発言しないようにすべきである。

 第一級の研究者と私とのレベルの差の大きさを痛感させられ、謙虚な気持ちで過ごした3日間だった。それでも、私の発表内容も負けてはいないという気持ちは変わらなかった。謙虚な気持ちにもなれ、自信を失うこともなかったのは、人それぞれ役割が違うことを認識したのと、この問題に対する私の勉強量の多さ故のことであろう。これからも今回の経験を生かして勉強していきたいと思う。