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| インターネットが沖縄を変える | 厚生省国立医薬品食品衛生研究所 神沼 二真氏 |
| 海辺に漂着するプラスチック粒 | |
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環境中に出た汚染物は最終的に海洋に移行します。とくに工場からの廃水に含まれている重金属や農薬などの汚染物質は海の生命体に取り込まれて濃縮されます。さらにこの生命体が別の生命体に食べられるという食物連鎖によって、もっと濃縮されます。妊娠中の女性の場合は、母親の体内の汚染物質が、さらに高濃度で胎児に移行し、明らかな影響を及ぼすことが考えられます。よく知られている水俣の有機水銀中毒もこうした例です。
最近、私達の研究グループは、海に漂う小さなプラスチック、とくにレジンペレットに注目しました。レジン(樹脂)ペレットは、あらゆるプラスチック製品を形成するための中間材料です。それが海に漂っていることは、1970年代にアメリカの科学者によって報告されました。わが国では水産庁が海洋の表面に漂っていないか調査しています。また、渡り鳥の研究者がオオミズナミドリなどの鳥が胃の中に飲み込んでいることを報告しています。さらに海岸のゴミを回収しているボランティアが海辺に漂着したものを多数見つけています。 そこで私達は少し新しいアプローチを試みました。第一はインターネットによって海洋環境中のプラスチック粒を監視し、漏出を防止するための協力ネットワークをつくろうとしたことです (PD Watchers, http://www.nihs.go.jp/pdw/index.html )。第二は採集したレジンペレットを詳しく分析してみようとしたことです。こうした分析は、外部の専門家にお願いしています。このようなアプローチによって、海岸に漂着しているレジンペレットの起源や防止、有害性を明らかにしようと考えたのです。 この調査研究では私自身、湘南海岸、高知、北九州、種子島、沖縄本島、久米島などの国内の海岸を見て回りました。そうした中でレジンペレットが最も多量に見つかったのが湘南(鵠沼、くげぬま)海岸でした。つぎは種子島の熊野浦の海岸です。また久米島の奥武島の畳石の先の海岸や、沖縄本島の本部、崎山海岸などにも大量に見つけました。海外では台湾の最北端に位置する野柳(イェリュウ)海岸でも数個拾っています。ベトナムのハロン湾のある島も調べましたが、こちらはプラスチック類を含めゴミは多くありましたが、レジンペレットは見つかりませんでした。なお沖縄では私達の研究協力者である海洋深層水研究開発組合の森川直樹氏が、とくに本島全部を克明に調べてくれています。
こうした海辺を回って気がついたのは、九州や南西諸島の海岸に打ち上げられている外国製の(ハングル文字や中国文字の)ペットボトルなどのゴミの多さです。日本の海辺のゴミの問題は最早日本だけで解決することは不可能であり、フィリピン、台湾、中国、韓国、北朝鮮、極東ロシアなどと問題解決の枠組みをつくらねばなりません。もちろん沖縄の場合はこれに米国基地の汚染が加わります。
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| 環境地理情報システムの重要性 | |
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情報技術をベースにしながら、健康から環境問題に関心を広げて気がついたことは、いわゆる地理情報システム(GIS)の重要さです。例えば何かの化学物質が有害(hazardous)だと言っても、それに暴露(expose)される機会がなければ危険性(risk)は無きに等しいのです。したがってリスクは環境中のどこにいるかということと表裏の関係にあります。広い意味でいえば、
「どこに」という情報は地理情報システムによって扱われます。したがって環境問題でリスクを論ずるならインフラストラクチャーとして地理情報システムを整備し、そこに環境中の有害要因とヒトとその健康指標をマッピング(関係づけて表示)しておく必要があります。このことは、公害問題が環境問題へと質的な変換をとげている現在、とくに重要になってきました。PRTRはその好例です。
米国ではPRTRはTRI(Toxics Release Inventory)と呼ばれている。これについてはEPAがCD-ROMを発行している。入手先:U.S. EPA, TRI User Support (TRI-US), 401 M St. S.W. (7407), Washington, DC 20460, Phone: (202) 260- 1531; Fax: (202) 401- 2347, Email: tri. us@epamail. epa. gov
地理情報システムは、ディジタル地図データとそれを扱うソフトウェアから構成されます。衛星写真のような画像データも利用できればなおよいでしょう。この他に作成した地図画像をインターネットのWWWページに載せるためのインターフェース技術もあります。これらの技術はまだ発展途上にあり、商業的にも注目されています。 私達は、日本全体の2万5千分の1のディジタル地図を基礎にいくつかの環境健康地図を作成しています。最初に作ったのはO-157の発症地図 (http://www.nihs.go.jp/topics/o157/o157.html)ですが、現在はレジンペレットの分布地図を試作しています。 | |
| 環境から資源へ | |
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どんなに技術が進んでも、環境問題は科学や技術だけでは解決できないでしょう。根源的解決には、やはり経済システム、価値観、人生観、生活様式を変えることが必要でしょう。すなわち知性だけでなく知恵が必要です。価値観や社会システムの転換はそう容易なことではありません。社会全体の構成員全部が相当のショックを受けるような悪い出来事でも起きない限り、人々はつい今日の続きで明日を考えてしまいます。
そこで以下では、根源的な難しいことではなく、今日でもその気になれば実行可能な、そして私自身多少関与している技術的な課題を紹介しましょう。 | |
| 海洋深層水の利用技術 | |
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海の深いところの水は表層部の水と混合されることはなく、地球をめぐる大循環をしています。これが本当の海洋「深層水」です。こうした深層水の温度は表面の水よりかなり低く、だいたい5℃ぐらいです。それは熱帯海域でも変わりません。そこで、海面と深層水の温度差を利用した温度差発電が日本の技術でナウル共和国で試みられました。
この実験は成功しましたが、実用化が期待できるものではありませんでした。その後米国(ハワイ)や日本の研究者達が数百メートルの深さの海水でも、表層水より低温であり、化学的な汚染物質や微生物が少なく、さらに栄養塩と呼ばれるリンや窒素の含有量が多いことを利用する研究を始めました。例えばハワイ島や高知県室戸岬にある海洋深層水研究所では、
水産物、高級魚の養殖、アトピー治療への応用、食品への応用などが研究されています。
沖縄において県が進めているのは、こうした実験研究施設の建設です。ただし沖縄にはもうひとつの研究グループがあります。それは県が支援し民間企業も出資している海洋深層水研究開発組合です (http://www.lizard.co.jp/deep-sea/home.html)。この組合が研究しているのは洋上に設置したブイに長いチューブをつけ、1000m前後の深さの海水を汲み上げ、これを利用することです。さらに、組合は深層水の微量成分の活用という新しいテーマを追求しています。 興味深いことに、この装置は特別な動力を用いなくとも、波の上下動によってのチューブの下部の取水口から海水を汲み上げ、海面に放水できることです。深いところの海水はリンや窒素など海洋の生物生産に必要な養分を豊富に含んでいます。そこで、この装置の周りの海には栄養分が広がり、これによって植物プランクトンが増殖し、それをミジンコやエビなどの動物プランクトンが食べ、それを魚の幼魚が食べ、という具合に食物連鎖により、より大きな魚が増殖する環境がつくられたらしいのです。これは大変興味深い現象です。おそらく世界で初めての実験ではないでしょうか。しかし、本格的実験にはより大きな研究費が必要でしょう。例えば、海上ヘリコプター基地への応用が検討されているメガフロート技術などと組み合わせれば、海洋の大規模な肥沃化による漁場の育成実験ができるかもしれません。 | |
| 植物資源の研究戦略 | |
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現在、開発により地球上の生物種が急速に絶滅していると言われています。とくに深刻なのが熱帯、亜熱帯における森林の伐採、開発による減少と消失です。そこで消失の危機に瀕している植物を、せめて再生可能な株や種子として保存することが考えられます。もともと列強と呼ばれた国々は、植民地の植物を採集して本国に送ったり、現地に植物園をつくるなど国策として植物資源の収集と保管に力を入れてきました(小山鐵夫、資源植物学フィールドノート、朝日新聞社、1992年)。それが今では、環境問題として重要な施策にもなってきたのです。
現在急ぐべきは、森林の消失が著しい東南アジアの植物資源の調査と保存です。沖縄は熱帯亜熱帯の植物資源を保存しておく適地であり、亜熱帯総合研究所もあります。しかし、植物資源保存で最も重要なのは施設よりも(植物)種を識別できる専門家です。こうした専門家は速成がききません。したがって然るべき機関と提携する必要があります。私が具体的な調査対象として有望と考える候補地はベトナムです。 例えば、ベトナムの植生(地域に存在している植物群)の調査をベトナムと日本の国の研究機関が行うことにし、その実行において沖縄の機関や関係者が協力するというプロジェクトを構想してみてはどうでしょう。また、こうした調査で見い出された植物を沖縄で栽培し、共同で利用法を研究してみることも可能でしょう。とくに興味深い対象は、伝統医学で使われている薬草類(生薬)です。 | |
| 国際的な環境健康と天然資源研究センターのネットワーク | |
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沖縄になぜ米軍基地が必要か。それは、不安定要因を抱える極東アジアには米国の軍事プレゼンスが必要だからであると説明されています。しかし、21世紀になるとアジアの不安定要因は、イデオロギーの対立から、民族や文化的な多様性、経済や科学技術、資源(特に石油や水産)開発、環境問題に移って行くでしょう。
20世紀の人類は科学、技術を基礎とした自然資源の収奪破壊型の工業社会の建設にひた走ってきました。その弊害を見て、素朴な昔の暮らしや、消滅した民族の生き方を賞賛し、憧れる論調があります。しかし、この種の議論のほとんどは郷愁を誘い、それゆえ甘美ではありますが、実際の問題解決には役立ちそうにありません。 私は地味かもしれませんが、再生不可能な自然資源の食いつぶしをやめ、自然資源を活用しながら、生物の多様性を保持する方向へと、科学、技術を発展させることが重要だと考えます。 そこで環境と健康、植物資源、海の資源、破壊された自然環境の復元、環境に調和した生産技術、美術工芸などに関わる国際的な研究センターを沖縄や東南アジアに沢山つくり、それらを高機能の情報ネットワークで結び、人の交流を盛んにすることを考えてみてはどうでしょうか。 これは際限なく加速されるメガコンピティションの脅威にさらされた20世紀型の無機質な都市でなく、自然と調和したエコシティ型の国際都市を支えるインフラストラクチャーになるのではないでしょうか。さらにこうしたネットワークはこの地域の緊張緩和をもたらす助けにもなるでしょう。そして究極において沖縄の軍事基地削減の一つの力ともなりうるのではないでしょうか。 | |
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