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第1回「沖縄」と「環境」を考えるセミナー講演録
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インターネットが沖縄を変える 厚生省国立医薬品食品衛生研究所 神沼 二真氏



全世界の情報への案内役、GINC

 私は、前職の東京都臨床医学総合研究所医用工学研究室(後に生命情報工学研究室と改称)室長であった1970年代末に、たまたま化学物質の毒性評価問題の研究に関わることになりました。その時、急増する化学物質(化合物)の生物やヒトへの影響に関する問題は、科学の中でも最も複雑な問題であり、情報技術を駆使しなければとうてい現実的な対応が不可能な難問であると感じました。

 そして、その一つの具体的な方法として、毒性に関する規制や科学的データ、関連情報を一元的につないだ情報ネットワーク、TOXIN(Toxicological Information Network)を提案しました。しかし、これは2つの理由で実現できませんでした。その一つは、私がそういう計画を進めるのにふさわしい職位(ポジション)にいなかったことです。もう一つは、情報技術が未熟であったことです。いずれにしてもTOXIN計画は実現できませんでしたが、その中で、「理論(分子)計算や情報学的手法、コンピュータ技術を駆使して、化合物と生体系の相互作用を分子レベルで研究して行く」という方法論と、そのためのシステムだけは生き残り、現在でもCBI研究会(事務局:〒158 東京都世田谷区用賀4-3-16 イイダビル301、電話; 03- 5491- 5423、Fax; 03-5491-5462、ホームページ; http://www.cbi.or.jp)という形で続いています。

 その後1989年に私はIPCS事業に関係する現職に移りました。そして自分としてIPCSの仕事が把握できたと感じた1992年頃より、再び夢と終わったTOXINの実現を考え、IPCSに働きかけました。幸い、アジェンダ21第19章の行動計画Cの柱は情報交換です。かくして私の提案した世界中の国連機関、国際機関、政府機関、その他の専門機関を結ぶコンピュータによる情報ネットワーク構想は、「化学物質の安全な管理のための地球規模の情報ネットワーク」、Global Information Network on Chemicals (GINC)というプロジェクトになりました。 正確に言うとGINCはIPCSのプロジェクトであり、IFCSを支える6つの機関の合同委員会IOMCの正式プロジェクトもあります。したがってGINCの推進委員会はIOMCの下にあります。こうした枠組みの中で私達はナショナル・パートナーとしてインターネット上にGINCのホームページ( http://www.nihs.go.jp/GINC/index-j.html)を立ち上げ、運用するなど影響力を行使しているわけです。幸いTOXINと違ってGINC構想は成功でした。その理由の一つは国連を中心とした国際協力事業という、しっかりした枠組みがあることです。もう一つの成功要因は、インターネットの爆発的発展でした。それでも最初の頃は多くの人々が、先進国以外では国際的なコンピュータネットワークは無理だろうと考えていました。またデータベースや、もっと一般的なファイルなどを連結して、"One Stop Shopping" 環境をつくるのは技術的に難しいので、統合データベースなどを特別につくらねばならないだろうと考えていました。しかし、インターネットの普及と技術進歩のスピードは、何人の想像力も越えていました。その波に乗って私達は技術的な課題を解決することができました。

 私達の開発したGINCホームページは1995年12月、東京で開かれた第2回のGINC会議のデモセッションで初めて披露されました。会場はサンマイクロシステム社が入っていた用賀のインテリジェントビルの眺めのよい最上階でした。その後GINCホームページの改良版は1996年3月のキャンベラの中間会合と1997年2月のオタワ会議でデモされました。これらのデモは、GINC構想に対するそれまでの疑いを一掃したのみならず、途上国の人々に強い印象を与えました。なぜなら彼らはこうした情報システムこそ自分達が求めていたものだということを実感したからです。


アジアとのパートナーシップ

 一方GINC計画が発足した時、私はアジア地域にそのパイロット版を構築すること、その仕事を日本のグループ、つまり私達が先導することを提案し、合意をとりつけました。これがGINCアジア計画です。これらのプロジェクト、すなわちGINCおよびGINCアジア構想とも厚生省によって支援されています。
 こうした合意や支援に基づき、アジアの中でも東南アジア、西太平洋地域をまず対象として、化学物質の安全な管理のための情報ネットワークを構築するという具体的な努力が行われています。現在参加しているのは日本、韓国、中国、フィリピン、ベトナム、タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシア、オーストラリア、ニュージーランド、スリランカなどです。とくに昨年10月には、 その実質的な第1回の会合が東京で開かれました。この計画の状況と成果は、私達が運用しているGINCアジアのホームページ (http://www.nihs.go.jp/GINC/asia/index.html)に載っています。

信頼のおける情報提供をめざして

 さて、GINC、GINCアジアのホームページとも、化学物質や環境と健康に関連した情報の提供と情報交換をめざしています。言葉は英語です。これに対してHSEフォーラム (http://www.nihs.go.jp/GINC/asia/index.html)は、もう少し広く健康、安全、環境全体に関わる科学的に信頼のおけるデータや関連情報を提供することを目的とするウエブページです。こちらはユーザーとして日本人を想定しています。今のところ、薬や食品や一般的な化学物質、環境と健康に関連した情報、およびそれらの「情報への案内」情報を載せるようにしています。残念ながら、私達のこうした仕事には恒常的な予算も人もついていません。
 情報公開の先進国である米国では、規制情報や規制の根拠となる科学的なデータを提供する専門機関や部署が存在します。そうした情報サービスを利用すると実に膨大な科学的データが無料で手に入れられます。こうした情報は日本の行政や専門家にも活用されています。こうした点は、わが国でも大いに学ぶべきです。
 私達も彼我の差を多少とも埋めるべく努力をしている。例えば内分泌撹乱物質(環境中のホルモン類似物質俗に環境ホルモンとも言う)に関する案内情報を、一年ほど前からHSEフォーラムの環境のページに掲載しています。現在はダイオキシンに関する最新の情報を提供すべく準備しています。ダイオキシンというと必ず引き合いに出されるのは、ベトナム戦争におけるダイオキシンが混入された枯れ葉剤とヒトの健康や生態系への影響(後遺症)です。現在私達は、先に述べたGINCアジア計画の一環として、ベトナムの研究者や専門家と協力して科学的な情報を整理する準備をしています。

コンピュータによる生体影響の予測と解析

 ダイオキシンと内分泌撹乱物質が大きな話題となっているのは、これらの物質の生物作用が必ずしも明確にされていないことにも原因があるようです。そこれではウワサが真実として一人歩きする恐れがあります。さらに一部のマスコミが事実の追求より扇情的な表現でさらに不安を増幅しているように思われます。真実を究明するには手間と時間と経費がかかります。ですから、事実が科学的に解明されるまで行動しないという論理はひどく非現実的です。全知全能でない人間は、常に不確実性の下で判断し、経済的な制約の下で行動し、必要なら修正するという方法で行くしかありません。これは科学の問題というよりは人の価値観や知恵の問題です。
 さて、ここでは問題を科学に限定し、化学物質が生物に与える影響、つまり生物作用を予測、解析する方法論について多少お話させて下さい。ここで「生物」と一般的な言い方をしましたが、やはり人々の関心はなにより「ヒト」にあるでしょう。薬の場合は別ですが、一般に化学物質の毒性などをヒトで実験するわけにはいきません。有効性を探る薬の場合でも、いろいろな段階をへて、最終的にヒトを用いた実験(臨床治験)に移るわけです。そこで問題は、ヒトに近い実験系をできるだけ手間や時間をかけず、コストも低く実現する方法を開発することが重要となります。
 これまでですと、まず大腸菌やサルモネラ菌などと同じレベルの細菌や培養細胞を使ってテストし、つぎにラットやマウスなど小型の哺乳動物を使うという方法が一般的でした。
 これに対し、つぎのような工夫が提案されています。その一つは、コンピュータを使って過去のデータを解析したり、それによって作成したモデルによって予測したりする方法です。また理論化学を基礎にした分子計算手法を駆使した分子レベルのシミュレーションです。第2は、酵母や大腸菌とマウスの中間の複雑さをもつ動物、すなわち線虫(C エレガンス)、ハエ(ショウジョウバエ)、小さな魚(ゼラフィッシュ)などを使う実験法です。そして、最近注目されているのが、遺伝子つまりDNA(あるいはその断片)やタンパク質(あるいはその部品であるペプチド)を多数、紙やガラスのような基板上に配列したマイクロチップです。このチップに調べたい化学物質をまいて反応させるのです。 http://www.jerini.de , http://www.genosys.com , http://www.affymetrix.com/チップは生物の代替品です。
 これらの方法は、コンピュータ技術などがどんどん生物医学に応用されることと呼応して、大変注目されるようになりました。内分泌撹乱物質(環境中のホルモン様物質)に関しても、こうした新しい方法を併用しなければ、とても手間やコストがかかって、全体を明らかにすることはできないのではないかと私は考えています。そこで私達の部では、こうした方向への研究を準備しているところです。
 なお、生物医学における情報技術はバイオインフォマティックス(Bio Informatics)と呼ばれています。実は私自身、バイオインフォマティックスを日本で進めてきたパイオニアの一人と自負していますので、最近の傾向を見てバイオインフォマティックスもようやく市民権をえたと喜んでいます(神沼二眞、中野達也:生命科学とインターネット、オーム社、1997年、この本のホームページは http://www.nihs.go.jp/internet/)。



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