| Q-1
環境ホルモンについては、どのようなことが問題となっているのですか。
|
| A |
|
(1)米国で出版された"Our Stolen Future(邦訳版:奪われし未来)"の主張に代表されますが、「環境中に放出された、DDTやPCB等のいわゆる残留性塩素化合物等に代表される合成化学物質の中に生体が持つホルモンと類似の作用をするものがあり、これが野生生物やヒトの内分泌(ホルモン)作用を攪乱するため、野生生物に起こっている深刻な影響が人間にも及んでいる」と言う”説”を展開。基礎的かつ科学的研究の実施と早急な対策を講ずるよう、強く警告を発しています。
|
(注記)
1)本問題は欧米では、内分泌攪乱問題(いわゆるエンドクリン問題)として知られているものですが、日本においては、昨年来、これが”環境ホルモン”問題と通称されており、混乱を避けるため、可能な限り環境ホルモン、環境ホルモン問題と言う用語で統一して記述しました。
なお、本資料は科学的解明の進展につれ、又、必要に応じ内容を見直し、正確な情報伝達に努めるべきものと考えています。
2)(社)日本化学工業協会の略称として「日化協」と記述しました。
| Q-2
環境ホルモン問題を引き起こすと疑われている物質には、どんなものがあるのですか。
|
| A |
|
(1)「ホルモン」は、生殖系だけではなく、生体のあらゆる機能に関わるものなのですが、今、マスコミなどで「環境ホルモン」と言う時は、主に生殖に関係するものに焦点をあてることが多いようです。また、どの物質も同じ性質を持つかのような印象を与える話題提供が多いようです。現在、「環境ホルモン」として話題にされる物質のグループを大きく分類し、それぞれの特性を表1にまとめました。表1に掲げられた物質は、それぞれ特性が異なるため、これらをひとまとめにした扱いをすることは不適切です。又、同一グループ内の物質でも個別物質毎に議論されるべきと考えています。
(2)表1に示すように、ホルモン様作用をはじめ、環境残留性、生物濃縮性、毒性の強さの程度は、物質のグループにより大きく異なります。また、製造(生成)される状況や、使用される形態も大きく異なります。ホルモン様作用により悪い影響がでるか否かは、その物質の作用の強さと、摂取量や環境中の濃度との関係で考える必要があります。
因みに、話題にあがっているノニルフェノール、ビスフェノールA、フタル酸エステルには、弱いが、ホルモン様作用があると研究者から指摘されています。しかし、この弱いホルモン様作用が、本当に有害なのか、もしそうならどの程度有害なのか等については、未だ、明確な答えはなく、定量的視点を含めた科学的な解明が必要です。現に、国際的にも、この認識に立った研究、議論が産業界も参画して行われています。
(3)以上のような、基礎的視点を抜きにした論調が一部のマスメディアで見受けられ、これが最近の世の中の混乱に拍車をかけていることは誠に残念なことです。日化協としては、今後とも、より正確な情報伝達に努めて参りたいと考えています。
|
表1 「環境ホルモン」として話題になっている物質
PCB、DDT ダイオキシン |
- PCB、DDTは環境残留性と生物濃縮性が極めて高く、毒性もあるので製造が禁止されている。
- ダイオキシンはそれに加えて極くわずかな量でも毒性を示すといわれ厳しい排出規制を受けている。
- 最近、これらの物質にホルモン様作用があるとして、この面でも問題視されるようになった。
|
| トリブチルスズ化合物(TBT) |
- 極めて低濃度でも水生生物に毒性を示す。生物濃縮性も高い。
- 船底に生物(フジツボなど)が付着しないようにすることを目的として使用された。
- イボニシなどの生殖への影響があることがわかったので、現在、日本では使用されていない。
- この生殖への影響がホルモン様作用による可能性も指摘され注目を浴びている。
|
女性ホルモン 合成女性ホルモン |
- 女性ホルモンは体内で生成する。合成女性ホルモンは経口避妊薬や更年期障害のホルモン補充療法剤として使用される。
- ホルモンとして働く物質であり、ホルモン作用は当然強い。
- 下水処理場の排水に存在する女性ホルモンによる環境への影響が懸念される。
|
| 植物エストロゲン |
- 自然界に存在する女性ホルモン様作用をもつ物質である。
- 大豆などにも含まれ、食事由来でヒトは常に摂取している。
|
| 農薬 |
- 現在使用されている農薬は、残留性、毒性については一定の評価は済んでいる。
- 幾つかのものは、ホルモン様作用の観点から懸念されている。
|
ノニルフェノール ビスフェノールA フタル酸エステル |
- それぞれ主に界面活性剤原料、樹脂原料、樹脂の可塑剤として使用されている。
- 生物濃縮性は低い。毒性も弱い。
- 環境残留性については、化審法の試験条件では難分解のものがあるが、活性汚泥処理では分解除去される。
- ノニルフェノールとビスフェノールAの女性ホルモン様作用は女性ホルモンの1万分の1から10万分の1である。
- フタル酸エステルはラットを用いた試験では女性ホルモン様作用は認められていない。
|
| Q-3
日本は環境ホルモンと疑われている物質にどの程度汚染されているのですか。又、その汚染の程度は外国と比べるとどうですか。
|
| A |
|
(1)ここでは、環境庁による継続的なモニタリング結果のあるPCB、DDTの例をあげて説明します。これらの物質については、化審法により、製造および輪入が実質上禁止されています。環境庁のモニタリング結果によれば、魚類中の濃度は着実に改善されてきたことがわかります。(表2)
|
表2 日本の魚類中のPCB、DDT濃度の推移(単位:ppm)1)
| | 78-80年平均 | 81-85年平均 | 86-90年平均 | 91-95年平均 |
| PCB | 大阪湾(スズキ) | 0.68 | 0.70 | 0.31 | 0.34 |
| PCB | 東京湾(スズキ) | 0.35 | 0.28 | 0.19 | 0.28 |
| PCB | 瀬戸内海(スズキ) | 0.50 | 0.70 | 0.28 | 0.07 |
| PCB | 琵琶湖(ウグイ) | 0.07 | 0.05 | 0.04 | 0.04 |
| p,p'-DDT | 東京湾(スズキ) | 0.0036 | 0.0014 | 0.0020 | 0.0014 |
| p,p'-DDE | 東京湾(スズキ) | 0.034 | 0.017 | 0.013 | 0.026 |
| p,p'-DDT | 琵琶湖(ウグイ) | <0.001 | <0.001 | <0.001 | 0.001 |
| p,p'-DDE | 琵琶湖(ウグイ) | 0.036 | 0.032 | 0.029 | 0.024 |
|
|
(2)日本人のPCB摂取については、そのほとんどが食事、特に魚介類からと言われています。国立医薬品食品衛生研究所の調査では、PCBの摂取量は1979年の3.1μg/人/日から1994年の0.9μg/人/日まで、着実に低下していることが示されています2)。
(3)外国との単純な比較は困難ですが、いくつかの報告からは、次のように考えられます。米国五大湖でとれるニジマス中のPCB濃度は現在でも約3ppmですが3)、これは東京湾の魚の10倍、琵琶湖の魚の100倍近い濃度です。そのため、五大湖でとった魚は食べないほうがよいと指導されています。また、バルト海の魚は五大湖以上に汚染されている可能性があるようです4)。
なお、水中PCB濃度については、スコットランド沿岸で5-20ng/L、地中海北西沿岸で0.2−8.6ng/Lとの調査結果があり、日本海南部の0.1ng/L、大阪湾の0.5ng/Lと比べると高目の数値が出ています5)。
このように、断片的なテータからの推測ですが、世界的にも汚染の高い地域の課題は存在します。
(4)ダイオキシンについては、環境庁の環境モニタリング6)では、前年度までの調査結果と比較して大きく変化したとは認められないが、環境中から広範囲に検出されているため、今後とも引き続きその汚染状況の推移を追跡して監視していくことが必要である、としています。なお、発生源や環境中挙動などの汚染機構の解明に努めるほか、内分泌攪乱物質に係わる情報を集め、毒性関連知見の収集に努めることも必要としています。
(5)ビスフェノールAの濃度については1996年度の環境モニタリング結果が発表されています。それによれば、測定検体数148のうち検出限界(0.01ppb)以下が107、他は0.01-0.268ppbと低い値です7)。
(6)フタル酸エステルの濃度についても1996年度の環境モニタリング結果が発表されています。最も生産量の多いフタル酸ジ2-エチルヘキシルの場合、測定検体数33のうち29は測定限界(3.9ppb)以下で、他は4.3〜6.8ppbと低い値です7)。
(7)ノニルフェノールの濃度は、日本界面活性剤工業会が東京都内の多摩川及び江戸川で行った測定結果では0.2〜0.27ppbです。磯部らの報告では、多摩川で0.029〜0.058ppb、隅田川で0.071〜0.510ppb8)、また最近の報告では多摩川で0.05〜0.17ppb、隅田川で0.09〜1.08ppbとなっています9)。
|
(出典)
1)環境庁「平成8年版 化学物質と環境」(1996).
2)五十嵐敦子ら、Bull. Natl. Inst. Health Sci.114, 43−47(1996).
3)若山茂樹「世界の湖沼保全」p82-85, p180-182実教出版(1995).
4)ディンズレイ著、山県登訳「環境汚染の化学」P183産業図書(1980).
5)村上彰男ら「海を死なせるな」P137 読売新聞社(1990).
6)JETOC情報A Vol.20, No.3(1998).
7)環境庁「平成9年度版 化学物質と環境」プレス発表(1998).
8)磯部ら、環境科学会での発表予稿集(1997年10月).
9)磯部ら、第33回水環境学会年回講演集、p17, 1998.
| Q-4
トリブチルスズ化合物(TBT)による汚染状況及び規制状況はどうなっていますか。
|
| A |
|
(1)規制状況
(イ)日本においては、有機スズ化合物は化審法で第一種及び第二種特定化学物質に指定されており、その製造、輸入及び使用について制限を受けています。国内におけるTBT含有塗料の生産は1996年度末をもって全く行われていませんし、使用も全面的に中止しています。
(ロ)この結果、1996年度のTBTを含有する船舶塗料用の出荷はピーク時の2%に満たぬ約15トンにまで減少しており、環境庁の水質モニタリング結果も全国平均値で1990年の8.8ng/Lから1995年の時点で2.5ng/Lに低下しています1)。さらに、「規制の効果で、イボニシが復活してきた」という調査結果も報告されています2)。
一方、国際的には、欧米では船長25m以上の大型船では使用が認められていますし、日本以外の東アジア諸国では規制されてません。
(2)問題点と対応
(イ)TBTは自然界で分解されにくいため環境中濃度が速やかに低下しないこと、魚介類中のTBT濃度の低下もわずかであること、現在でもイボニシにインポセックスが生じていることから依然として問題であることは確かです。
(ロ)TBT含有塗料の生産も使用も行っていないのは日本だけですが、現在、運輸省が国際海事機構(IMO)の場で世界各国にTBT全廃を呼びかけており、世界中で近々TBT全廃の動きが進展するものと期待できます3)。
なお、日本では既に、スズを使用しない船底塗料を開発し、世界の新造船の約40%をこの塗料で塗装しており、今後、世界的規模でスズ塗料の全廃を進めて行く上で、日本の開発した技術が大きく貢献できると考えています。
|
(出典)
1)環境庁「平成8年版 化学物質と環境」(1996).
2)水口憲哉 平成10年度日本水産学会春季大会講演要旨集 p.140-141(1998).
3)Endocrine/Estrogen Letter April 7(1998).
| Q-5
英国の河川や多摩川の魚がメス化していると問題になっています。この問題についてどう考えますか。 |
| A |
|
1)英国での状況
(イ)英国で下水処理施設の排水溝の下流で魚のメス化が生じていると問題になっています。初めは経口避妊薬に使われる合成エストロゲンであるエチニルエストラジオールと羊毛洗浄に使われる界面活性剤の分解生成物であるノニルフェノール(NP)が原因ではないかと疑われました。確かにテレビで放映されるエア川の例ではNPの濃度が最高180ppbもあったこと1)、魚に影響を与えるNPの濃度は10ppb程度以上であること2-5)からNPの関与が疑われました。
(ロ)しかし、その後の英国環境庁による調査の結果、全国的に見れば、ヒトの女性の尿に含まれる女性ホルモンそのものが主たる原因である可能性が強く示唆されています6-7)。
(2)多摩川での問題
(イ)多摩川は、川の水量に占める家庭下水の比率が高いことから、女性ホルモンそのものが原因である可能性が高いのではないかと考えられます。
(ロ)NPが原因であるとの疑いが一部には報道されています。しかし、多摩川でのNPの濃度は、多摩川のコイ研究グループが測定した結果では0.029〜0.058ppbで、日本界面活性剤工業会が行った測定結果では0.2〜0.27ppbです。NPが魚に女性ホルモン様作用を与える濃度は10ppb以上なので、問題ないものと考えています。
(ハ)いずれにしても、多摩川のコイの「メス化」の問題は注目すべきであり、その因果関係だけでなく、広く生態に関する科学的背景テータに基づいた、正常か異常かの判断をも含めた解明がなされるべきと考えます。
|
(出典)
1)若林明子、環境管理 32(7),849-861(1996).
2)S.Jobling, et al., Environ. Toxicol. Chem., 15, 194-202(1996).
3)J.Lech, L.Ren, et al. Fund. and Appl. Toxicol., 30, 229-232(1996).
4)L.Ren, J.Lech. et al., Chemico-Biol Interact 100, 67-76(1996).
5)M.A.Gray, et al., Environ. Toxicol. Chem., 16(5),1082-1086(1997).
6)UK Environment Agency, R&D Technical Summary P38, November(1996).
7)Science 274, p1837, Dec.13(1996).
8)磯部文彦ら、環境科学会での発表予稿集(1997年10月).
| Q-6
ヒトの精子濃度が減少していると報道されていますが、本当ですか。
|
| A |
|
(1)ヒトの精子数の計測に際してはストレス、気候、その他環境因子等による影響が極めて大きいことが知られており、過去の数値については、この点での不確実性があります。
(2)1997年7月に取り纏められた環境庁リスク対策検討会の中間報告書では、精子数減少や精子の質の低下に関しては、是非両論の報告が相次ぎ、現段階では、本当にヒトで、精子数の減少や精子の質の低下が起こっているのか否かは、結論が出ていないとされています1)。
この点については、厚生省が中心となりいくつかの国と共同で調査中なので、その結論を待つ段階です。
日本での状況では、日本人の精子数や質についても報告例は少ないこと、また、暦年的な精子数の増減については現時点では、はっきりしたことは何もいえないというのが専門家の結論と見られます。
|
(出典)
1)環境庁リスク対策検討会監修「環境ホルモン」環境新開社(1997).
| Q-7
ポリカーボネート樹脂製の食品容器からビスフェノールA(BPA)が食物中に溶出し、ヒトに何らかの悪影響を与えることがあるのですか。
|
| A |
|
(1)ビスフェノールAにつきましては、既に動物を用いた生殖毒性試験及び慢性毒性・発がん性試験が実施されています。欧米では、慢性毒性試験に基づき、人が一生の間、毎日摂取してもこれ以下ならば健康に影響はうけないとされる一日許容摂取量を体重1kg当たり0.05mg(0.05mg/kg/日)としています。これらの試験、特に生殖毒性試験と発がん性試験は、化学物質のホルモン様作用をも検出し得ると考えられますが、ビスフェノールAでは、生殖毒性も発がん性も認められておりません。
日本でもこれを踏まえ、ポリカーボネート樹脂製の食品容器からのビスフェノールAの食品中の溶出基準を2.5ppm以下(体重50kgの大人が摂取する一日あたりの食物摂取量1kg中に溶出するビスフェノールAが2.5mg以下、0.05mg×50/1kg=2.5mg/kg)と定めています。(平成6年厚生省告示第18号)横浜国立大でほ乳瓶を用いて溶出試験を行った結果、0.003〜0.006ppmのビスフエノールAの溶出が認められたとの報道がなされましたが、以上述べましたように、これらの値は乳幼児に換算しても現在の基準より大幅に低いので、乳幼児の健康に悪影響を及ぼすことはないと考えます。
(2)なお、ビスフェノールAが極めて低い濃度で動物に対しホルモン様作用があると言う報告が一部の研究者から出されていますが、英国保健省の委員会がデータを精査した上で、この報告について否定的な見解を発表しています1)。又、日本及び欧米政府では、これを含む最近のビスフェノールA関連の報告に検討を加えつつも、現段階で一日許容摂取量の変更は行っていません。
この一部の研究者から出ている疑念に答えるために、動物試験がアメリカで行われており、この結果も含め最新の科学的知見を常に取り入れながら安全確保に務めたいと考えます。
(3)一方「奪れれし未来」が刊行されてから、いくつかのマスコミ報道の中であたかもビスフェノールAがPCB、DDTやダイオキシンと同様の猛毒化学物質として取り扱われています。
PCB、DDT、ダイオキシンは、環境残留性や生体蓄積性があり、発ガン性等の毒性が強いことが知られています。このうちPCBやDDTについては、現在、日本では化審法の第一種特定化学物質として実質的に製造が禁止されています。
しかし、ピスフェノールAは、生体蓄積性が低く2)体内から速やかに排泄され3)、又、急性毒性は低く4)、発ガン性も認められない5)など、明らかにPCB、DDT、ダイオキシンとは異なる環境動態、生体内動態を示すことが判明しています。従いまして、環境ホルモン問題についてビスフェノールAをPCB、DDT等の物質と比較して考察する際には、これらの点にも留意することが必要です。
|
(出典)
1)Endocrine/Estrogen Letter September 15 (1997).
2)化学品検査協会編集「化審法の既存化学物質安全性点検データ集」JETOC(1992).
3)SPI資料;Pharmacokinetics of Bisphenol A, Draft August 25(1997).
4)RTECS.
5)NTP Technical report on the carcinogenesis bioassay of Bisphenol A in F344 rats and B6C3F1 mice(feed study)NTP-80-35 NIH Publ. No.82-1771(1982).
| Q-8
プラスチックの添加剤として使用されるフタル酸エステルには、女性ホルモン様作用によりヒトヘの影響はあるのですか。
|
| A |
|
(1)可塑剤工業会では、フタル酸エステルの環境、安全問題に関して20数年前から調査、研究に取り組んでいます。とくに発がん性(肝腫瘍)と精巣毒性については霊長類であるマーモセット(キヌザル)を用いて研究を行い、ラットやマウス等の齧歯類で見られた肝臓や精巣に対する毒性は、霊長類では起らないことを確認しました。即ち毒性の発現(現れ方)には動物によって差のあることが判りました。また齧歯類に生じる肝腫瘍のメカニズムを解明しました。更に、ラットでは130mg/kg、マーモセットでは100mg/kgの最大無作用量を決定しました1),2),3),4)。このマーモセットでのデータをヒトにあてはめると、体重50kgのヒトに対しては約5gとなり、通常の環境レベルから曝露される数値に比してかなり高いものです。これらの研究成果は国内及び国際学会で発表し、学術専門誌にも投稿しています。またマーモセットを用いた研究の成果は、欧米の環境行政当局からも高い評価を受けています。
(2)フタル酸エステルの環境ホルモン問題(女性ホルモン様作用があるのではないかという疑い)は、海外の研究者が行ったin vitro(試験管内)試験の結果によるものですが、試験管内試験の方法は数多くあり、この結果だけで有害性の有無を判断をするのは問題です。
可塑剤工業会では、主なフタル酸エステル5種類(フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジ2-エチルヘキシル(DEHP)、フタル酸ジノルマルオクチル(DnOP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジイソデシル(DIDP))について外部の研究機関に委託し、動物(ラット)を用いたin vivo(卵巣割去)試験を行いました。その結果、すべてのフタル酸エステルで女性ホルモン様作用は認められませんでした。
なおラットの卵巣割去試験法は、現在では最も進んだ女性ホルモン様作用の発現確認試験法の一つです。
|
(参考)
1)ラットの卵巣割去試験:メスのラットの卵巣をあらかじめ摘出し、その後、フタル酸エステル1,000mg/kgを3日間皮下投与する。最終投与の翌日に子宮を摘出して、子宮重量ならびに含まれるプロジェステロン受容体の量を測定する。一方陽性対照物質としてエストラジオール(女性ホルモン)を同様に5μg/kg(フタル酸エステルの20万分の1)投与。もしフタル酸エステルに女性ホルモン様作用があれば、子宮重量ならびにプロジェステロン受容体の量が増加するが、今回の試験では、いずれにも異常は認められませんでした。したがって、これらの物質は女性ホルモン様作用を持っていないと判断されます。
2)フタル酸エステルは、良分解性で使用量に比較すれば、環境中にほとんど蓄積していません。フタル酸エステルの濃度についての平成9年版の環境モニタリング速報は、最も生産量の多いフタル酸ジ2-エチルヘキシルの場合、測定検体数33のうち29は測定限界(3.9ppb)以下で、他は4.3〜6.8ppbと低い値です5)。平成8年版の環境モニタリング報告では、フタル酸エステルは広範囲に用いられていることから、全国的な範囲で引き続きモニタリングを行うものの、その検出頻度が低下していることから、
一定期間おいた調査でその消長を把握するものとしています6)。
可塑剤工業会は昭和50年代と平成5年から9年までの5年間について、関東、関西地区22ケ所の河川水、汚水、地下水および水道水中のフタル酸エステルの濃度分析を行いましたが、最大検出値は2ppb(μg/L)で、ほとんどの地点は検出限界(1ppb)以下でした7)。
又、フタル酸エステルは、生体内において容易に代謝、排出されます。
3)環境ホルモン間題をはじめ前述した肝腫瘍等のフタル酸エステルの環境、安全問題については、日本(可塑剤工業会)、米国(化学品製造者協会(CMA-フタル酸エステルパネル)、欧州(欧州化学工業連盟(CEFIC)一欧州可塑剤中間体協議会)の可塑剤工業会が、互いに提携してその対応に当たっています。毎年定期的に3極会議を開催して、フタル酸エステルの環境、安全に関する情報交換のほか、広報活動や試験研究の協調体制について話し合っています。又、これとは別に欧州の業界とは、環境、安全問題に関した会議を開催しています。
(出典)
1)(財)食品薬品安全センター:第12回日本毒性病理学会:DEHPにおける経口投与による単回投与精巣毒性試験(1996).
2)名古屋市立大学:第1回消化器発がん国際会議:DEHPのラットにおける肝の腫瘍性変化の用量依存性に関する試験(1996).
3)(株)三菱化学安全科学研究所:第36回米国毒性学会(SOT):DEHPのマーモセットを用いた13週間反復経口投与試験(1997).
4)(財)食品薬品安全センター:第86回日本病理学会:DEHPにおける経口投与による単回投与精巣毒性試験(1997).
5)環境庁「平成9年版 化学物質と環境」プレス速報(1998).
6)環境庁「平成8年版 化学物質と環境」(1997).
7)可塑剤工業会:可塑剤工業会インフォメーションシート No.7(1997).
| Q-9
非イオン界面活性剤として使用されているノニルフェノールエトキシレートが分解して生成するノニルフェノールには女性ホルモン様作用があると言われていますが、本当に悪影響があるのですか。
|
| A |
|
(1)ノニルフェノールエトキシレートについて
ノニルフェノールエトキシレートは日本では年間約4万トン使用されております。この界面活性剤は専ら工業用に使用されております。
このノニルフェノールエトキシレートには女性ホルモン様作用はありません。
ノニルフェノールエトキシレートが生分解の過程で生成するノニルフェノールに弱い女性ホルモン様作用があると言われております。
(2)ノニルフェノールの安全性について
ノニルフェノールについては、米国の化学品製造者協会(CMA)らが既に多くの安全性試験を実施しております。これらを要約すると次のとおりとなります。
(イ)生分解性は、化審法の試験条件では分解されませんが、活性汚泥処理(分解能力のある微生物が増加した汚泥を使うことになる)では分解、除去されます1)。
(ロ)魚への蓄積性は見られない。摂取しても短時日で排泄される1)。
(ハ)魚に女性ホルモン様作用が見られる濃度は一番厳しい報告でも10μg/L(10ppb)である2)。(この濃度は貝類への悪影響が指摘されているトリブチルスズ化合物の一万倍の濃度ではじめて影響が出る程度のものである)
(ニ)ラットを用いた3世代生殖毒性試験では、出生仔のデータ(仔数、体重、奇形率)に影響は見られなかった。餌中のノニルフェノールの濃度が600ppm以上で精子数が約10%減少するなど生殖腺への影響が見られたが、200ppmでは影響は見られなかった3)。
(3)以上のとおり、ノニルフェノールはPCBと異なり環境残留性は低く、蓄積性もありません。また、トリブチルスズのようにごく低濃度で水生生物に悪影響を及ぼすこともありません。更に、哺乳類に対しても特別低濃度で女性ホルモン様作用を示すものでもなく、したがってヒトに対しても悪影響を及ぼすことはないと考えます。
(4)水生生物への影響を環境濃度の面より考察してみます。ノニルフェノールの環境濃度については、日本界面活性剤工業会が東京都内の多摩川および江戸川で行った測定結果では0.2〜0.27μ8/Lであり、また磯部らの最近の水環境学会での報告では、多摩川で0.05〜0.17μg/L、隅田川で0.09〜1.08μg/Lでありました4)。水生生物に悪影響が見られる濃度は上記のとおり10μg/L以上です。したがって測定結果はこれよりかなり低く水生生物に対しても問題ないものと考えております。
|
(出典)
1)Chemical Manufacturers Assosiation, Alkylphenols and Ethoxylates Panel Research Summary, 1996.
2)S.Jobling et al. Environ. Toxicol. and Chem. Vol.l5, No.2, p194-202, 1996.
3)National Toxicology Program, Final Report of he Reproductive Toxicity of NonylPhenol, p56-59, 1997.
4)磯部文彦ら、第32回日本水環境学会年会講演集、p17, 1998.
| Q-10
合成化学物質は天然化学物質に比べて危険なのですか。
|
| A |
|
(1)環境ホルモンを問題と考えている人は合成化学物質の環境ホルモンだけを問題視しているようです。これは「奪われし未来」記載の「天然に存在するホルモン類似物質と合成されたそれとは全く別のものであることを認識すべきでしよう。端的にいうなら、後者は前者に比べてはるかに有害である。というのも、天然の植物エストロゲンは一日もあれば体外に排池されてしまうが、合成化学物質のほうは体内に何年も残留してしまうからである。」によるものでしよう。
これは合成の環境ホルモンは全てPCBのような蓄積性の性質を持っているという誤解によるものです。天然品か合成品かの区別が問題なのではなく、その物質の性質が問題であると考えます。以下に例をあげて説明します。
(イ)体内の残留性
体内で出来る工ストロゲンも植物エストロゲンも体内で炭酸ガスと水まで分解してなくなるのではありません。グルクロン酸抱合を受けて、水溶性を増し尿中に排泄されるのです。ビスフェノールA、ノニルフェノール、フタル酸エステルも同じくグルクロン酸包合されて尿中に排泄されます。これら3物質はPCBとは異なり、植物エストロゲンと同様に、体内に吸収された分は一日でほとんど排泄されます。
(ロ)ジエチルスチルベストロール(DES)の作用
かつて、欧米で流産防止剤として便われたDESを服用した妊婦から生まれた子供に性器異常が生じたのは、DESの合成品であることが悪いのでなく、体内で生成するエストロゲンより強いエストロゲン作用があること及び体内で生成するエストロゲン量より多く投与したことが原因なのです。体内で生成するエストロゲンでも大量に投与するとDESによると同じ異常が生じることを、高杉1)はマウスを使って証明しています。
(ハ)植物エストロゲンは安全ですか
植物エストロゲンは天然ホルモンたから安全というわけではありません。例えば特定のクローバーの大量摂取がヒツジを不妊にすることはよく知られた事実です。
ヒトには害がないようにみえるのは食経験や摂取量が少ないからと考えられます。
(ニ)新規化学物質は危険ですか
新規の化学物質については、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律による審査を受けるため、DDTやPCBのような環境残留性物質に類似するものが製造・輸入されることはありません。但し、化学物質による内分泌影響作用については、試験法を始めとし、科学釣な知見が得られていないため、現在、国際的な研究開発・検討と歩調を合わせて進めています。
|
(出典)
1)N.Takasugi and H.Bern, Journal of the National Cancer Institute 33, 855-865(1964).
| Q-11
日本人は植物エストロゲンを多量に摂取していると聞いていますが、健康に悪い影響はありませんか。
|
| A |
|
(1)日本人は大豆を食べています。この大豆には植物エストロゲンが多量に含まれています。食物由来のエストロゲンは、食品として広範囲に分布し、ヒトは日常多量に摂取しています。その摂取量はより大豆食の少ない欧米の試算1)によれば、エストロゲン活性として通常の化学物質によるレベルに比し遥かに高いレベルの食物エストロゲンを食事由来により摂取しています。しかし、それがヒトの健康に悪い影響を与えているよりは、保健・栄養の立場からガン予防効果2)あるいは循環器系への改善効果3)として捉えられています。
(2)植物由来で内分泌(ホルモン)系に影響を与える物質は極めて多様なことが知られています。これらの摂取量が少なければ問題ない、むしろ適量摂取することが有用あるいは必要である等の研究が知られています4)。
(3)内分泌系にはこのような食物などに由来する外乱があっても、これを抑えて生理状態を安定に保つ機構をもっていますし、その様な刺激(外乱)の有効性も重要なことが知られつつあります。つまり、ホルモン類似物質が体内に入っても、適量であれば生体はバランスを保つ調整作用を持っているのです。
|
(出典)
1)S.Safe Environ. Health Perspective 103, 346(1995).
2)A.W.Wood et al Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79 5513(1982).
3)寺尾純二 化学と生物 30 256(1992).
4)篠原和毅 食糧 その科学と技術 農林水産省食品総合研究所 31 19(1993).
| Q-12
環境ホルモン問題について、どのように捉え、これまでにどのような行動をとってきましたか。
|
| A |
|
(1)米国で出版された "Our Stolen Future(邦訳版:奪われし未来)" では、結論として「環境中に放出された、DDTやPCB等のいわゆる残留性塩素化合物等に代表される合成化学物質の中に生体が持つホルモンと類似の作用をするものがあり、これが野生生物やヒトの内分泌(ホルモン)作用を攪乱するため、野生生物に起こっている深刻な影響が人間にも及んでいる」と言う "説" を展開。基礎的かつ科学的研究の実施と早急な対策を講ずるよう、強く警告を発しています。
(2)これに対し、当協会は科学的不確実性がかなり残っているという印象を持ちつつも、これを重要な問題提起と受け止め、以下に述べるように、国際的な動向をきちんと見極めながら、既に、自主的活動(レスポンシブル・ケア)の一環として、多大の関心を持って科学的事実関係の解明と対応を行っています。
(3)この問題に関しては、国際レベルでは、1997年2月に化学物質安全政府間フォーラム(I FCS)が開催されました。その報告書で述べているように、「各国とも化学物質による内分泌攪乱問題を憂慮しているが、化学物質への環境曝露とその悪影響との関係には科学的不確実性が残っている。又、 "内分泌攪乱" の定義そのものも明確にする必要がある。」としています。
尚、この見解作成には、グリーンピースなどの環境団体、消費者団体、労働組合代表等幅広い関係者が参加して行われたことは注目されます。
(4)又、この問題で先行する米国では、環境庁(EPA)が対応の一環として設置した「内分泌攪乱物質のスクリーニングと試験のための諮問委員会(EDSTAC)」でこの問題への対応策を検討し、1998年3月にそのドラフトレポートをEPAに提出しています。EPAは、現在、次の段階としてのピアレビュー(専門家による評価)と公衆コメントの準備を行っています。
尚、1997年2月に発表されたEPAの特別レポート1)の要点を纏めると以下の通りで、日比協の理解と良く一致していると考えています。即ち、
「野生生物では、ある種の農薬、ヒト(女性)ホルモン、合成ホルモン、トリブチルスズ化合物(TBT)によると思れれる影響例や "内分泌攪乱" との関連は明確ではないが、ある種のダイオキシンやPCBによると思れれる影響例が挙げられる。−方、ヒトに関しては、ジエチルスチルベストロール(DES:流産防止剤)等の例外を除けば、 "内分泌攪乱" を通じて影響を受けたという例は確認されていない。現在の環境濃度下では("内分泌攪乱"ヘの防御機構を有する)大人ではおそらく悪影響を受けることはないが、防御機構の不十分な胎児や新生児でもこれが言えるかどうかについては、もっと情報を集めて決定する必要がある。」
(5)"Our Stolen Future(邦訳版:奪われし未来)"が米国で出版された当時、日本では、この中で述べられている代表的な化学物質であるDDTやPCB等は既に15年以上前から生産及び使用が禁止されていましたが、欧米で議論されている現象が日本でも生じたり、他の化学物質についても懸念されるようなことがあれば由由しいことと考え、1996年、当協会内に科学的事実関係の解明と対応策の検討を行うべく、新規リスク政策分科会と関係団体を含めたエンドクリン検討委員会を設置すると共に、通産省の委託により(社)日本化学物質安全・情報センター(JETOC)に関連情報の調査・解析を依頼しました。
JETOCは、ホルモン作用の疑われている代表的な化合物に関し、内外の既存文献を中心に調査・解析を行いました。1997年3月に報告された結果によれば、「ビスフェノールA、フタル酸エステル、ノニルフェノールの3物質はデータが不足のため今後の調査が必要であるものの、貝類に対する悪影響が報告されているTBTをはじめとする有機スズ化合物及びダイオキシン類の環境汚染を除いて、現在の我が国環境下でホルモン様物質の関連で緊急に対応策を講ずべき事態が生じているとは考えがたい。しかしながら、天然物を含め化学物質の示す内分泌系との相互作用に関する理解と、それらの化合物の示すリスクの把握は、今後の課題である」と報告しています。
(6)当協会としては”この問題には未解明の部分も少なくないので、問題を真摯に受け止め、国際的連携のもとでの科学的な解明が必要”と言う基本認識を持っており、これは国際化学工業協会協議会(ICCA)の場でも共通の認識であります。
当協会としては、国際的には、
(イ)必要な資金の分担
(ロ)研究の重複回避
(ハ)連携協力
(ニ)情報及びデータの共有による相互理解の促進
等の活動に積極的に参加すると共に、欧米各国・国際機関等の動向を踏まえつつ、国際貢献をも視野に入れた調査・研究を行っています。
|
(出典)
1)EPA「SPECIAL REPORT ON ENVIRONMENTAL ENDOCRINE DISRUPTION:AN EFFECTS ASSESSMENT AND ANALYSlS 1997.2」.
日本語訳:環境内分泌攪乱作用に関する特別報告:影響の評価と分析.
(JETOC 特別資料 No.121 1998.3).
| Q-13
環境ホルモン問題解明のために、どのような研究を行おうとしていますか。
|
| A |
|
当協会としては”この問題には未解明の部分も少なくないので、問題を真摯に受け止め、国際的連携のもとでの科学的な解明が必要”と言う基本認識を持っており、これは国際化学工業協会協議会(ICCA)の場でも共通の認識です。当協会としては、
国際的なこの問題の協議に積極的に参加すると共に、欧米各国・国際機関等の動向を踏まえつつ、問題の解明に向けて研究計画の立案・実施を進めています。
(1)調査・研究分野は次のように分類することができます。
(イ)ヒトの健康への悪影響に関する実態調査
(ロ)環境生物への悪影響に関する実態調査
(ハ)疑いのある化学物質のスクリーニング手法の評価と開発(ヒトと環境生物)
(ニ)(ハ)を受けたハザードとリスクのアセスメント手法の評価と開発(ヒトと環境生物)
(ホ)リスクアセスメントのためのメカニズム解明
(ヘ)個別の物質に関するハザードとリスクのアセスメント
(2)現在、産官学挙げてそれぞれの立場で、調査・研究に順次着手しつつありますが、日化協としては産業界の立場で、上記のうち(ハ)、(ニ)、(ホ)については、各国と情報交換しつつ、科学的な蓋然性、緊急性に加え国際協力・国際貢献の観点から、次の具体的な研究に着手しています。
1)ラットを用いたスクリーニング手法の評価と開発
2)メダカを用いたスクリーニング手法の評価と開発
3)1)、2)に関するメカニズム解明
又、個別物質については、世界の国際機関及び化学工業界の動向を把握し、情報交換を行いながら研究の重複を避け、国内の関係業界とも密接な連携を図りつつ、日化協においても独自の研究計画の中で、出来うる限り効率的に取り上げて評価に努めたいと考えております。
|
(参考)
1)ケミカルハザード :化学物質自体が持つ危なさ
2)ケミカルリスク :実際に使用したときの危険の程度
3)リスクアセスメント:実際に使用したときの危険性の予測
| Q-14
ヒトの健康影響や環境影響の未然防止の観点から、科学的に未解明であっても、自主的に、疑いのもたれている物質の製造を中止又は、使用を禁止すベきではないですか。
|
| A |
|
(1)現在疑いのもたれている化学物質の有害性は、これまでの知見では、極めて高濃度・高投与量の試験結果、或いは、インビトロ(試験管)試験からの類推に基づくものであり、通常の使用方法であれば、直ちに製造を中止すべき問題があるものとは考えにくいものと思われます。
(2)1997年2月に開催された化学物質安全政府間フォーラム(IFCS)の報告書によれば、「各国とも化学物質による内分泌攪乱問題を憂慮しているが、化学物質への環境曝露とその悪影響との関係には、科学的不確実性が残っている。又、‘内分泌攪乱’の定義そのものも明確にする必要がある。」と記述されています。
この見解作成には、グリーンピースなどの環境団体、消費者団体、労働組合代表等幅広い関係者が参加しています。
(3)日本では厚生省が食品容器の安全性について審議するため、1998年3月に食品衛生調査会毒性・器具容器包装合同部会を開催。ポリカーボネート、ポリスチレン、塩化ビニルの3樹脂から溶出するビスフェノールA、スチレンダイマー及びトリマー、フタル酸エステルのそれぞれについて審議しました。
それによりますと、「当日の会議だけで結論が出た訳ではありませんが、上記の3物質について示されたデータでは、直接大きな危険、或いは、緊急に問題視しなけれぱならないような量には未だなっていないのではないか、従って、今日すぐ結論を出して厚生省が何かをやらなければならぬと言うような、それほどの緊急性はないのではないか。いづれにしても、本件については、検討すべき問題が残っている」と纏められたと理解しております。
(4)現在市場に出回っている化学品は、社会生活の向上に多大の貢献を巣たしてきており、又、少なくともこれまでのように取扱形態を良好に守っている限り問題は生じないと考えています。
勿論、今後の科学的解明の進展に応じて、必要な対策を講ずることは当然のことであり、当業界でも対策を進めていく方針に変わりはありません。
しかし、上述したように、多くの化学品について、環境ホルモンの影響が科学的に解明されていない現段階では、製造を中止するのは科学的な観点からも、又、社会的な観点からも時期尚早かと考えます。
尚、国際化学工業協会協議会(ICCA)も同様な観点から、現段階では、疑いのもたれている物質を自主規制する考えは持っておりません。
|
(参考1)
環境ホルモン問題に関する日本化学工業協会の見解
平成10年4月
(社)日本化学工業協会
(1)当協会(以下「日比協」)は、警告釣な書物”Our Stolen Future(奪われし未来)”が1996年3月に米国で出版され、1997年9月に日本語訳が出される前から、欧米で議論されていた化学物質による内分泌攪乱問題(いわゆる環境ホルモン問題)に注目しつつ、事案関係の調査・究明を行ってきた。
(2)この書物では、これまでの各種の調査報告書、試験報告書、インタビュー等を墓に、生態系やヒトにおける内分泌攪乱の原因の解明を展開し、結論として「環境中に放出されたDDTやPCB等のいわゆる残留性塩素化合物等に代表される合成化学物質の中に生体のもつホルモンと類似の作用をするものがあり、これが野生生物やヒトの内分泌(ホルモン)作用を攪乱するため、野生生物に起こっている深刻な影響が人間にも及んでいる」という”説”を主張。基礎的かつ科学的研究の実施と早急な対策を講ずるよう、強く警告を発している。
(3)日本では、本書で述べられている代表的な化学物質であるDDTやPCB等は既に15年以上前から生産及び使用が禁止されているが、欧米で議論されている現象が日本でも生じていたり、他の化学物質についても懸念されるようなことがあれば由々しいことと考え、日化協としてこの問題に対して、組織を整備して本格釣に取組みを開始した。
(4)このため、1996年9月に、日化協メンバーの会社や関係団体からなる検討委員会を設けるとともに、その下に専門家からなるWGを設置した。これらの組織を中核として、以下の4つの観点から、エンドクリン問題(内分泌攪乱問題)に対処することを基本方針とした。
即ち、
イ)科学的事実に基づき、科学的な対応を図る
ロ)国際的連携のもとで進める
ハ)多分野にまたがるため、産学官の連携のもとで進める
ニ)業界の自主的努力、即ちレスポンシブル・ケアで、できうる限り対応する
(5)この方針に基づいて、まず、現状で内外から入手しうるデーターによる事実関係を明らかにするため、(社)日本化学物質安全・情報センターに調査・解析を委託し、1997年3月に報告書を纏めた。この内容については、英訳化して海外諸機関へ配布するとともに、国内に於いては、1997年6月に説明会を開いた。
(6)国際釣には、世界の約40カ国の化学工業協会から構成される、国際化学工業協会協議会(IOCA)の1996年10月のスペインでの総会で、エンドクリン問題に関する専門家グループが設けられ、日化協は、この一員として参加して各国と連携を取って進めている。更に、アメリカの化学品製造者協会(CMA)のエンドクリン問題専門家会合に会員会社の専門家を派遣してきた。
(7)エンドクリン問題は、従来の発がん性問題とは異なった意味での複雑な要素が絡んでおり、事実関係の解明には相当の時間と科学的研究が必要と考えられる。このため、国の研究所や大学関係者との幅広い協力が有効であり、化学工業界としては、現在、産学官の連携による研究計画に参加しているところである。
(8)なお、日化協としても、本問題に対する一歩踏み込んだ対応をレスポンシブル・ケアによって進める姿勢を内外に明確にするためにも、2年間で1.4億円の資金を会員から拠出してもらい、自ら調査・研究を進めている。
このように、日化協としては本問題に対して、迅速な対応を総合的にとってきたと自認しているが、今後は、積極的活動の継続はもとより、活動内容が対外的に広く認識されるよう努力・工夫を重ねる必要があると思っている。この点を認識したうえで、今後とも真摯かつ積極釣に環境ホルモン問題に対応していくことをここに改めて表明する。
(参考2) (社)日本化学工業協会:仮訳
平成9年8月25日
国際化学工業協会協議会(ICCA) 内分泌攪乱に関する国際化学工業界の見解
[背 景]
ここ数年、環境中に低濃度で存在するある種の化学物質が、内分泌系に影響を及ぼす可能性があるという説への関心が高まりを見せてきています。
”ホルモン模擬物質”又は”内分泌攪乱”と称されるこれらの物質が、正常な内分泌系の機能を妨害し、ヒトの健康や野生生物に悪影響を引き起こす可能性があるという説に特別の関心が向いています。
工業化学品によって引き起こされたとされる内分泌系の攪乱によるヒトヘの健康影響には、乳がんや精巣がんの増大、そしておそらく精子数の減少が含まれます。
しかし、現在の科学では、環境中の化学物質への低濃度曝露と内分泌攪乱によって引き起こされるかもしれないヒトの健康への悪影響との間の因果関係の証拠が示されていません。
実際、健康というものの趨勢は地域地域により大いに異なり、どの要因(例えば、食事、ライフスタイル、遺伝、汚染)がこれらの影響や地域の多様性に寄与しているのか、重要な論点として残っています。
環境中の化学物質への曝露と野生生物への影響との関連は、主に、魚を食べる鳥類の生殖問題、魚の生殖器官の変化、特定地域でのワニやパンサーやミンクの生殖問題を扱う研究結果からの推測に基づいています。
概して、これらの研究では高度に汚染された地域の野生生物が取り上げられています。
低濃度曝露と野生生物集団への悪影響との間の関係を理解できる関連性はまだはっきりしていません。
[国際化学工業界の見解]
- 化学工業界は、公衆の関心が”内分泌攪乱”問題によって高まっていることを認知しています。
化学工業界は、レスポンシブル・ケアにおける化学品管理の基本原則として、製品の安全な製造、使用、流通、廃棄に関連するどのような質問にも答える責任があると認識しています。
- 国際化学工業協会協議会(以下ICCA)は、ヒトの健康と野生生物集団への影響に関する科学的な不確実性を解決するために、更なる研究が必要であるということに世界中の科学者と同意します。
その際、研究活動や製品安全(プロダクトスチユワードシツプ)活動をうまく結集させるためには”内分泌攪乱物質”の定義に関する国際的な合意が必要です。
- 良く協調された国際的な研究活動によって、適切な科学的な問題点への対応が確かなものとされ、しかもそれが可能な限り素早い応答と重複回避を伴って行われることを化学工業界は支持します。
ICCAは、国際的レベルでの対話と協力を向上させるために、他の関係者と一緒に活動することを表明し、この問題の科学的理解を促進するために、政府や大学や工業界の研究者間の協力を支持します。
- ICCAは、国際的に調和のとれた、科学に墓づくリスクアセスメント戦略が開発されるべきものと考えます。
その戦略は段階的な試験手法によるべきであり、又、利用可能な実証されたデータ、特に、観察された悪影響と曝露レベルを考慮すべきであります。
このリスクアセスメント戦略は、可能な場合はいつでも生物学的メカニズムに関する情報によって支持されるべきであります。
ICCAは、この戦略が公開された透明なプロセスを通して開発されること、そして、全ての確かなデータの相互受け入れに基づくことを推奨します。
国際化学工業界は、その経験と専門性においてこのプロセスに積極的な貢献ができると考えます。
[国際化学工業界の行動]
1.研究戦略
国際化学工業界は、北米や欧州や日本で、計画され、又は、進行中の研究プロブラムを含む研究活動に貢献しつつあります。
これらの研究プログラムには次のものがあります。
- 試験手法に関する研究
ある物質が内分泌攪乱を介して悪影響を引き起こす可能性を評価するために国際的に合意された、段階的な試験手法の枠組みの中で、既存及び新規の試験法を評価し、実証する研究。
- リスクアセスメント手法に関する研究
段階釣な試験手法と利用可能な実証されたデータ、特に、観察された悪影響と曝露レベルのデータから得られた情報を考慮し、生物学的メカニズムに関する情報を取り入れることが出来るように、現行のリスクアセスメントの枠組みを適合させる研究。
- メカニズムに関する研究
基本的な生物学的メカニズムに関する科学的理解を向上させる、試験データやリスクアセスメントの評価結果を解釈する能力を向上させるための基礎を提供する研究。
- ヒトの健康への影響に関する研究
特に、ヒトの健康への影響を確認し、食事のようなライフスタイルの要因を含む広範な原因の可能性を調査する疫学研究。
- 野生生物への影響に関する研究
特に、野生生物で観察される影響の原因を調べ、野生生物の集団として自然に起こっている変動範囲からの偏りをつかむための研究。
2.リスクアセスメントとリスクマネージメント
国際化学工業界は、試験手法の開発と実証のために、国内及び国際的な機関と協調することを約束しています。
これは、内分泌攪乱経由の悪影響を持っていると特定されるかも知れない化学物質の製造、使用、流通、廃棄に関連するリスク評価に使用しうるリスクアセスメント手法の開発を、信頼性のある、科学に基づいたものにしたいと考えての広範な活動の中の一つです。このようなリスクアセスメントでは、曝露レベルを考慮することによってこれらの化学物質のリスク管理を当局による規制か又は自主規制かを決定するための健全な根拠を提供しなければなりません。
このICCAのリスクマネージメント手法は、リオ宣言の原則15に規定された予防原則を引用した”リスクに基づく政策決定の原則”(1996年1月)に詳しく述べられています。
これらの科学的な研究プログラムが実施されつつある一方、国際化学工業界は、レスポンシブル・ケアのもとで、製品のライフサイクルを通じて適用される製品安全(プ□ダクトスチユワードシップ)の実践に関する公約を実行し続けます。
レスポンシブル・ケアとは、化学工業界が、健康・安全・環境保護の成果の向上を目指した自主的で国際的な公約の登録商標名であります。
レスポンシブル・ケアを通じて、参加する協会の会員企業は、その操業、流通や製品安全(プロダクトスチュワードシツプ)の全体において、運営基準やガイドラインに従うことにより成果の向上を達成します。
今や、世界各国の40の協会が、レスポンシブル・ケアを実行すベくその会員企業と共に活動しております。
国際化学工業協会協議会(ICCA)は、世界的に化学品の製造者を代表する主要な協会の協議会です。
ICCAの目的は、会員間で意見を交換し、協議会メンバーによる行動を調整したり、国際機関へ国際化学工業界の見解を提出することです。
ICCAのメンバーには、欧州、北米、南米、日本、豪州、ニュージーランドの協会が合まれます。
(参考3)有害な化学物質との比較
(1)PCBとの比較例
(イ)分解性
PCBの生分解性は極めて悪く、環境中に放出されたものは永く残留します。半減期は、例えば類縁のダイオキシンでの推定では農耕地で25年程度と推定されています。
ビスフェノールA(BPA)、ノニルフェノール(NP)とも化審法の試験条件では分解されませんが、活性汚泥処理(分解能力のある微生物が増加した汚泥を使うことになる)では分解、除去されます1,2,3)。また排水処理で充分分解されなかった場合でも自然表層水中で分解されます。3mg/Lの濃度のBPAが4日間で0.1mg/L以下になったと報告されています2)。NPの表層水での半減期は30日程度です4)。
フタル酸エステル類(PE)は化審法条件で分解性良好とされています13)。
(ロ)魚での濃縮性4,5)
化審法の試験条件での濃縮倍率はPCBで5,000〜20,000倍と極めて高い。これに対しBPAは5〜68倍、NPは3倍以下、PEは30倍以下と報告されています4)。
(ハ)哺乳動物での蓄積性
BPAやNP、PEを経口投与した場合、速やかに体外に排泄され蓄積性はみられないことが、次の試験結果からわかります。
14Cで標識したBPA100mg/kgをラットに経口投与し吸収、代謝、排泄動態を調べたところ、血中に吸収された量は投与量の4.6%、これが0.1%まで低下するのは投与18時間後であり比較的速い代謝排泄が観察されています6)。
NPについての代謝、排泄試験はまた充分ではありませんが、ここではNPと化学構造が類似しているオクチルフェノール(OP)の結果を示します。5mg/kgのOPをラットに静脈内注射して血中濃度の推移を調べた結果、半減期は約5時間です。ラットに50または200mg/kg/日で14日間連続して経口投与しても、投与1日目と14日目で血中濃度に差はなく、蓄積性はみられません7)。
PEも速やかに排泄されます。最も生産量の多いフタル酸ジ2-エチルヘキシル(DEHP)では大半は5〜7時間で排泄されます14)。
(2)トリブチルスズ化合物(TBT)との水生生物への毒性の比較
(イ)TBTは1ng/L(=1ppt)の水中濃度でイボニシにインポセックスを引き起こすといいます。もともとTBTは水生生物への毒性が極端に強いというまさにその理由によって船底への貝類付着防止剤として選ばれたのです。船底に付かない貝類に対しても毒性を示すわけです。過去の製品開発の際に、残留性への配慮が十分でなかった例と言えます8)。
(ロ)ノニルフェノールが魚にエストロゲン様作用を示す濃度は、一番厳しい報告でも10ppbです。この濃度はTBTがインポセックスを引き起こす濃度の一万倍です。
(3)ジエチルスチルベストロール(DES)とのエストロゲン様作用の強さの比較
(イ)ビスフェノールAもノニルフェノールも、女性ホルモン調整機能を持たない特殊な動物を用いた(卵巣割去)試験で、弱いエストロゲン様作用が認められるのは事実です。その強さはDESあるいはそれにかわる合成エストロゲンの10万分の1です11,12)。
(ロ)フタル酸エステルの中には試験管内スクリーニング試験で弱いエストロゲン様作用を示すものもあります15)。しかし、(イ)と同様な試験ではエストロゲン様作用は認められていません16)。
(出典)
1)Federal Register p20691-20703, May 17, 1985.
2)P.B.Dorn, et al., Chemosphere 16(7),1501-1507(1987).
3)C.G.Naylor, Amer. Assoc. of Textile Chemists and Colorists 27(4), 29-33(1995).
4)SIDS Initial Assessment Report on Nonylphenol, Draft p36-42(1997).
5)化学品検査協会編集「化審法の既存化学物質安全性点検データ集」JETOC(1992).
6)SPI資料, Pharmacokinetics of Bisphenol A, Draft-August 25, 1997.
7)H.Certa, et al., Arch. Toxic. 71, 112-122(1996).
8)里見至弘ら編「有機スズ汚染と水生生物影響」恒星社厚生閣(1992).
9)H.C.Alexander, et al., Environ Toxicol & Chem 7, 19-26(1988).
10)SPI資料Bisphenol A:Environmental Safety,Draft‐August25(1997).
11)J.R.Reel, et al., Fund.and Appl. Toxicol. 34, 288-305(1996).
12)J.Ashby, et al., Regul. Toxicol. and Pharmcol. 26, 80-93(1997).
13)昭和50年8月27日付け通産省公報.
14)Patty's Industrial Hygiene and Toxicology p3054(1993).
15)C.A.Harris, et al., Environ Health Perspect 105(8), 802-811(1997).
16)可塑剤工業会「フタル酸エステルのエンドクリン問題について」(1997).
(参考4)環境ホルモンの影響が疑われた事象
「奪われし未来」に取り上げられている野生生物やヒトの異常例については以下のように考えています。
(1)野生生物の異常例としてリストされたのは21例です。このうち、次の2例を除いて推定原因物質はPCB、DDT、ダイオキシンです。
(イ)例外の一つは1940年代からオーストラリアで観察されているヒツジの繁殖力の低下です。この原因を調査した結果、ヒツジが食べるクローバーに植物エストロゲンが含まれていることがわかりました。
(ロ)もう一つの例は1988年に英国で見つかりました。下水処理施設の排水が流入する河川でオスの魚のメス化が生じているというものです。界面活性剤の分解物であるのノニルフェノールが原因と疑われました。しかし、「奪われし未来(原書)」出版後に英国環境庁の調査結果が発表されました。原因物質は女性の体内で生成するエストロゲン(女性ホルモン)が尿として出たものである可能性が強く示唆されました。
(2)ヒトヘの悪い影響が疑われた例として12例あげています。ジエチルスチルベストロール(DES)の1例を除いてPCB、DDT、ダイオキシンが原因とされています。
DESは合成のエストロゲンとして1938年に開発された医薬品であります。流産防止用などのため広く用いられました。これを服用した妊婦から生まれた子供が成人するころになって生殖器に異常があることがわかり、1971年に使用が禁止されました。
|